第74話 娯楽と快楽の街ベルフルーシュ
ベルフルーシュの建物はレイボストンのような建物ではなく色んな造りのものが並んでいた。捻れたような家だったり、斜めだったり、何かを崇拝しているかのような模様を掲げていたりと様々だった。
中に入ると出店がいきなりあり、地図も配っていた。クラウディはそれを500ユーンで購入しさっそく出店を見て回った。
オーク串はマストで見つけるとすぐに購入した。いつかの戦いでオークと戦った記憶が蘇り、剥ぎ取りたかったなと頬張りながら思った。肉汁がすごく、焼くとこんなに美味いと改めて感動する。
他にも見たことない果実や、飲み物、菓子がたくさん並んでいた。
初めてのものばかりで目移りし一つずつ購入して行った。
出店のエリアを抜けるとかなり幅の広い娯楽場エリアに入り、馬術、弓術、剣術などの闘技やそれとは別に自分の剣で挑む棒切り────倒さずに何回斬れるか────や、魔法弾の的当てなどたくさんの競技が行われていた。
ひとしきり観戦し、気になったのはやはり棒切り競技の『スティックスラッシュ』。高さ1.5m、太さ5cmくらいの木の棒を細かく斬っていくもので、最高9回だという。参加費1000ユーンで、その日の最高記録者には景品が貰えるというものだった。
やろうかと思ったが人が多すぎてまたの機会にしようと、今度はギルドへと向かった。
地図を参考にしながら探すと娯楽施設から近くに『ナイトローズ』冒険者ギルドがあったのでそこに入った。
中は多くの冒険者で賑わっており、ギルドの内装の細かいところまでは見渡せなかった。ただ正面にカウンターと左にクエストボード、右には軽食屋はなく同じくクエストボードが貼ってあった。ギルドの受け付けも2人居てそれぞれ対応に追われている。
2階に登る階段があり、上がるとそこが軽食屋になっているのかもしれない。
取り敢えず並んだものの、後からにしようかと思うほど進みが遅い。しかし後ろにはすでに人が並び今更抜けるのは勿体無い気がして仕方なく待つことにした。
魔法使いや僧侶、格闘家、剣士、ブレッドと似たような格好のブレイダーや珍しいのはテイマーという魔物を連れている職業をみることができた。
年齢は10代後半から50代あたりがまばらに見られ、男女の比率は7:3で男性が多い。
これだけ人がいるとかなり騒がしく雑音のように耳に入って来た。
色んな人を観察しながら2時間程経過しようやくクラウディの番になった。
「ようこそ『ナイトローズ』冒険者ギルドへ!今日はどういったご利用で?」
ハキハキと喋る若い受付嬢が対応する。ギルドのトレードマークなのか騎士と薔薇が描かれた前掛けと帽子をつけていた。
「Dランクの依頼で報酬が高いやつを。あと素材の換金場所も教えてもらえれば」
「少々お待ち下さい。Dランクですと……ここら辺ですかね~報酬がいいのは。ただ少し難しいかもしれませんよ」
依頼書の束を貰いその場で手早く、報酬が高くて違約金がないものを選びそれを適当に受けた。
受け付け嬢も手を素早く動かして手続きをする。
「ではお気をつけて。それと換金場所はギルドの正面となっておりますので何卒ご贔屓に」
手続きの完了した依頼書を受け取る。
「あとは何かございますか?」
「いや大丈夫だ」
「それでは次のお客様────」
クラウディは人口密度の高いギルドをさっさと出て換金場所へと向かった。
他の街でもあったのだろうが、何気に初めて換金場所へと来た。
見た目は完全に大きい納屋みたいな建物で、手前が小さめ、奥が大きな建物となっている。中に入ると生臭い臭いがかすかにし、正面左には奥の倉庫へ行く通路があり、正面右には小窓のついたカウンターがあった。カウンターの奥に若い女性の姿があった。
ギルドの受け付け嬢とは色違いの制服を着ている。クラウディに気づくと会釈する。
「換金所へようこそ!なにか余った素材がありますか?」
『ランジリザードの舌』、『フォレストウルフの牙』や『グールの布切れ』、『彷徨う甲冑の破片』等もあるが正直売れるとは思わないので、クラウディはあらかじめインベントリから出していた『魂喰らいのコア』らしきものをカウンターにある銀皿に落とした。青白く光る小さな玉だ。
「…………」
「…………」
「…………なにこれ?あ、失礼しました!し、少々お待ち下さい」
側から見たら、よく分からない石を拾って売りに来た乞食みたいに見えたかもしれないとクラウディは頭を掻いた。
────他のガラクタも出すべきだったか……
受け付け嬢は奥へと引っ込み数分後に別の店員と出て来た。髭を蓄え、片眼鏡をかけた老人だった。ただ老人の割には背筋が伸びシャキシャキと歩く。
「これはまさか『魂喰らいのコア』では?」
玉を指で拾うと片眼鏡を弄りながら見る。
「ああ、『迷いの街』のうちの1匹なんだが。値段つくか?」
「『魂喰らい』を……?あなたあの街を抜けたのですか?」
少女が頷くと老人は髭を触り難しい表情をした。
「すみません、あまり持ち込まれたことがないもので一旦預からせてもらってもよろしいですか?」
「ん?まあ別に高く売れれば嬉しいが……」
「今はどこに滞在しておられますか?よろしければ連絡したしますが」
「滞在……あ」
少女は宿のことをすっかり忘れており、店員にまた適宜に寄ることを伝え慌てて外に出た。
外はすでに夕暮れとなっていた。クラウディは地図を広げて足早に宿を探した。
「あんた初心者かい?こんな時間に宿はもう一杯だよ」
宿屋の店主はやれやれと肩をすくめた。
クラウディは一連の流れに既視感を覚え、頭を抱えた。
────やってしまった……
「他に空いてそうなとこはないか?」
「いやー難しいだろうよ。どこも似たような感じだろ」
「…………納屋とかは?」
「ないない。ちなみにそこらで寝ると衛兵に見つかって外に放り出されるか、最悪投獄されるからな」
もしかしたら前のように格安で借りることができるかもしれないと淡い期待を抱いたが無駄だった。しかも街の中の野宿はダメときた。
今日は街の外で野宿かと思い肩を落として店外に出ようとした。
「まあ、夜店なら1日中居ても何も言われないから行ってみるのも一興だな」
────夜店?
「値段は?」
「ここよりは高いだろうが、色々サービスつくし……特に『ベリーベリー』ってところが良いぞ」
ニヤリと店主は笑った。




