第73話 イカサマコイン
────これで4万ならボロいな
無数のテントを縫いながら歩き、ジャラジャラと音がする硬貨袋をしげしげと眺めた。中を確認すると銀貨がキッチリ400枚入っていた。さらにアイラから取った重たい袋には数え切れないほどの銀貨が入っている。
クラウディは視線をそこかしこから感じたのでテントの少ない端まで行き、インベントリに急いで保管した。
もう少し歩いてみるかと散策し、一際大きいテントが目に入った。
テントの前に大きな焚き火を焚いており、幾らかの人影が見える。
「くっそ、また負けた!!」
「はい、お疲れさん。また出直して来な」
そんな声が聞こえもう少し近づくと、テーブルの椅子に座る数人が見えた。1人はふんぞり返りタバコをふかしている。その両脇にはスラリとした美女が座っておりその1人の肩に男は腕を回し、反対の手はもう1人の美女の胸を鷲掴んでいた。
その男の正面には身ぐるみを剥がされたであろう男性がおり、何か喚くとパンツ一枚で泣きながら何処かへ消えて行った。
その様子をこっそり見ていたクラウディだが、一瞬男と目が合ったような気がした。少女はすぐに身を隠した。
────いや別に隠れる必要はないか……
そう思いもう一度見るがそこには男の姿がなかった。
「ようっ」
背後から声がし、振り返るといつの間にかそこに先程の男がいた。
「んん?女かと思ったが……男か?」
鼻をひくつかせ、香水の匂いを嗅いだのか男は片眉を上げた。
「まあいい、どうだ?少し遊んでいけよ」
クラウディは逃げようとしたが、肩を掴まれ半ば強引に連れられテーブルの椅子に座らされる。
テーブルにはコインや見たことないカードがあり、酒や硬貨が散乱していた。
そして正面には先程の美女が2人、その真ん中に再び男が座った。
男はかなり襟の開いた、白いよれたシャツを着ていて胸が見えていた。長い髪は灰色で肩に流しており、瞳も灰色で小さく、目尻は少し垂れており左目の下の黒子がより艶かしいイメージを受ける。美女も嫌がるそぶりのないこともさながら彼は顔が恐ろしいほど整っていた。
────腹立つなこのイケメン……
「さて、ここにコインがある」
男は両の掌を見せ、片方に金色のコインを乗せた。
そしてコインを親指で弾き、落ちてくると少女の目の前で両手を振り両拳を差し出した。
「どちらにある?」
クラウディは迷わず右を選んだ。男がほぉっと笑うと右手を開く。そこにはコインがあった。
「次行くぞ……んー、ただやるんじゃ面白くないな。なにか賭けるか?」
「じゃあ1000ユーン」
クラウディはそう言って硬貨袋から銀貨を10枚テーブルに重ねて置いた。
「まあいいだろう。俺も1000ユーンだ」
彼は置かれた銀貨の対称の位置に硬貨を置いた。
そしてコインを弾き落ちて来たところを両腕を振った。しかし今度は横からだけでなく縦の動きを混ぜ素早くコインをさらう。
「さあ、どっちだ?」
クラウディは今度も迷わず右を指した。
男はニヤリと笑った。
「正解だ、いい目をしてる」
彼の右手からコインが落ちる。
「次はどうする?」
少女の方に相手の硬貨が寄せられる。クラウディは今度はその銀貨をそのまま差し出した。
「2000か良いだろう」
男も2000追加し合計4000ユーンとなった。
「さすがに次で最後にするか……いくぜ」
コインが弾かれ、宙に舞う。それを男は縦横斜めから高速で掴んだり弾きながら自在にコインを移動させ素早く拳を握った。
「さあ、どっちだ?」
「…………」
────こいつ……
相手からは仮面でクラウディの表情は見えないが、少女は片眉を上げた。
さてどうしたものかと少し考えるが少女は面倒臭くなって適当に左手を指した。
「残念だな」
彼は右手を開いてコインを落とした。
「ハズレだ。金は貰って行くぞ」
やれやれとクラウディはため息をつくとその場を離れようとした。
「楽しかったぜ?またこいよ、少年」
手をヒラヒラと振り、ニヤニヤと笑いながら男は後ろから声をかけた。
「もう来ない」
少女はそう吐き捨てると足早に立ち去った。
クラウディはその後は少し歩いて街道から離れ、ミラージュクロスで姿を隠して過ごした。仮眠も少しとり、朝日が出るまで大人しくしておく。
そうして朝日が昇り街道へ戻るとポツポツと人が移動し始めていた。クラウディは起きていたのでわりと前の列へ並ぶことができた。
前へ進む過程で2日酔いか、街道の道端で嘔吐するものやグッタリと横たわるものが多かった。
「次っ!」
クラウディが門番の前に来ると例の如く槍が行手を阻む。少女はギルドカードを手渡した。一瞬それを見て固まるが『無職』なのに同情でもしたのだろう気の毒そうに困った顔をしただけだった。
「お前か、1000ユーンだ。持ってるか?」
少女は頷き銀貨を門番に渡した。相手が受け取ると行ってよしとカードを返され、槍が下げられる。クラウディは『娯楽と快楽の街ベルフルーシュ』へと足を踏み入れた。




