第71話 谷間の山賊
街道を進んでいくと山道に入り、両側が崖に挟まれた谷へと続いていた。道端には大小様々な岩が転がっており落石だろうか。頭上には要注意しなければならないし、転がる石や窪んだ地面に足を取られないよう気をつけて進んだ。
その谷に入って中程だろうか。谷の岩陰にいくつもの気配があり、警戒しながら進むと潜んでいた複数の山賊に取り囲まれた。
似たような姿の者ばかりだが、彼らの頭らしき者が前に出てくる。頭にバンダナを巻き、動物の皮を衣服として巻いている。体格は大柄で筋骨隆々、縮れた髪は茶色で肩まで長く縮れていた。
「よお、坊主。俺たち腹が減ってるんだわ。なんか恵んでくれねーかな」
腕より大きな大斧を肩に叩きながら山賊は言った。
────面倒な奴らに絡まれたな
恵んでくれとはいっても取り囲む全員が何かしら武器を握っており、とても穏便に済みそうにはない。一人一人が口元に笑みを浮かべていた。
大方この谷を1人で通る小柄な人間が良いカモに見えたのだろう。女になってから碌な事がない。
────もしアラウが一緒にいたとしても襲われただろうな……
せめて襲われないようにするには5人くらい連れ添わないといけないのではないだろうか。屈強で強面な大男が1人は欲しいところだ。
クラウディは問答は無用だなと、山賊問いには答えずに目にも止まらぬ速さで両手にシミターを構えた。山賊なら冒険者と違って殺しても問題にはならないはずだ。
それを見た山賊たちが一瞬後ずさる。
話しかけて来た山賊の頭らしき者は舌打ちし、一斉に飛び掛かるよう命令した。
少女は目をつけていた包囲の薄い背後を振り向き、突進した。
その行動に驚いた背後の山賊たちは一瞬動きを止めた。その隙を見逃さず瞬く間に2人斬り捨てる。
少女は包囲を抜けると外側から1人ずつ山賊を斬り捨てて行った。
「なめんじゃねーぞ!クソガキ」
5人目を斬り捨てた所で背後から山賊の1人が少女の背後から斬りかかった。彼女は姿勢を低くしながら、左足を軸に攻撃を回避しつつ回転し、敵の背後を取って喉元を掻き斬った。
ゴボゴボという音と共に男は倒れる。
「『咆哮』!!」
山賊の頭は暴れる相手にスキルを発動させた。本来なら喰らった者は一定時間動けなくなるはずだった。
しかし、クラウディは『生命石』で身体に電気を走らせてショックを与え硬直状態を緩和した。
そのまま足を出来るだけ速く動かしながらナイフを投げつける。
「ぐっ」
ナイフは山賊の肩に刺さり狼狽えている間に、少女は間合いに入った。
「『双刃』!」
山賊はスキルを発動させ、両方の手に大斧を握り横薙ぎの攻撃を仕掛けた。
しかしそこに相手の姿はなかった。
そして首に痛みが生じたかと思えば宙を舞った。地面に倒れたと思ったが身体は立っており、胴体と切り離されたと気づいた所で男の意識は途絶えた。
山賊の頭が倒されるやいなや彼らは悲鳴を上げながら散り散りに逃げて行った。
正直全員リーダーのように『スキル』があれば危なかったかもしれない。今になって軽率だったなと頭を掻いた。
彼らが去った後、安全を確認し剣を納めると倒れた山賊たちの持ち物を漁った。
だが大した物はなかった。よく分からないガラクタや錆びた手斧・短刀などは使い物にならないし、かさばるだけだ。食料はよく分からない木の実や臭い肉があるものの流石に食べる気にはなれない。
強いて言うならプレートのような首飾りが落ちていたのでそれをもらったぐらいだ。あとで高値で売れるかもしれない。
クラウディはやれやれと立ち上がり警戒はしながら谷を進んでいった。
────この世界に来て初めて人を殺したな……
元男の時にはかなりの数を殺したものだと自分の手を見つめた。この世界でもたくさん殺すのだろうかと目を伏せる。
思えば元世界では誰かが制してくれていた気がする。
『むやみに人を殺そうとするな』
元男の少女の頭にそんな声が聞こえてくるが、すぐに薄らいでいった。
考えても仕方ない、成り行きに任せるだけだと歩みを進めて行った。
1時間かけて谷を抜け山を降りてもモンスターが出て来て戦闘になることはなく、時折見た事ない動物が横切っていくぐらいだった。
さらに何日かかけて再び山を登って抜けるとまた低い草の平原が広がり、その先にたくさんの煙や小さな炎が見えた。
────あれがベルフルーシュか……?
遠くで見える灯りを目指して進んでいくが意外にも距離があり、街の形が見える頃には夜になっていた。




