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第69話 分岐点







次の日には体調はほとんど戻っていて、すぐに出発できるはずだったが、荷馬車の方が少しがたがきていて1日修理に充てる事になった。


『迷いの街』をかなり乱暴に駆け抜けたのであちこち部品が割れてしまったりと進むには危ないらしい。


運良く執事とブレッドが応急処置くらいなら出来るらしく、ローレッタ以外の3人は素材を集めに周辺を散策する事になった。


探すのは頑丈な蔦と木片。鉄屑など。


「ねぇ」


3人は少し離れてそれぞれ探していたが、ラントルが側に来た。


「なんかアラウ元気ないよね?」


その問いかけにどうだろうなと少女は肩をすくめる。今朝は挨拶もしてくれたし、食事もきちんと摂っていた。そこまで気に病む事ではないが、強いていうなら昨日の思いの吐露の件だろうか。


「いずれ元に戻るだろ……」


「そうかなぁ?」


ラントルは不安な表情を見せたが、すぐにアラウのところへ行きなにか声をかけているようだった。


クラウディたちはある程度素材を集めると荷馬車のところへ戻り、執事の指示のもと、蔦をこよって頑丈な縄を作った。


それをもとに木片と組み合わせて弱った部分を補強していった。


その作業を繰り返し、気づけば夕方となり、少し進んでからまた野営する事になった。







次の日からまた荷馬車が進み出し、しばらく揺られる事になる。


「あれ、なんか少し元気ない?」


ラントルは軽食を食べており不意にそう言った。


いつもと変わらないと思ったが、言われて少女は腹部が何故か重たいような、痛むようなそんな気がした。胸部もサラシを巻いているがキツく巻きすぎたのか少し痛い。


「いや大丈夫だ……」


我慢出来ない痛みではなく少女はそう答えた。


ブレッドと戦ったからだろうか、随分強く蹴られた事によって回復しきってないのかもしれない。


アラウにもう一度見てもらおうかと思い顔を向けるがブレッドやローレッタと話している。


────うぅ、なんか気にすると余計に苦しいな


少女はアラウの手が空くまで膝を抱えて外を眺めた。


結局次の休憩までそうしていたクラウディは荷馬車を降りてアラウのところまで行った。


「アラウ……ちょっと」


声をかけて手招きする。気づいたアラウは周りを見ながらついてくる。


「どうかしたんですか?」


クラウディは茂みに入るとその場にしゃがみ、アラウも姿勢を低くするよう促した。同じ視線に来たことを確認し少女は口を開いた。


「いやなんか体の調子が悪いからヒールをかけて欲しくてな」


「え、どこです?」


「ブレッドと戦った時に腹を痛めたらしくて」


アラウは聞くと少女の腹部に手をかざし『ヒール』をかけた。


────変わらないな


「どうです?正直マナの減りがあまり感じないので効いてない気もするんですが」


「……変わらない」


少女は念の為背後からも『ヒール』をかけてもらうがやはりたいして変わらなかった。


「すみません、修行不足で……『ハイヒール』なら治ったかもしれません」


今試すことはできないのか色々聞いてみるが、どうやらそんな簡単な事ではなくきちんと勉強して理解を深めなければならないらしい。感覚で戦う戦闘職なら急に技を使えたりする事もあるらしいが。


「なら医学についても少しはかじってるのか?」


「イガク?」


「身体の仕組みというか」


「まあ、多少は?」


それを聞くとクラウディは上着の裾をたくし上げた。少女の腹部とサラシを巻いた胸があらわになる。


「え、ちょ?!」


慌ててアラウは顔を覆ったが、指の隙間から見ている。


「触診とかしてなんか変じゃないか見てくれ。腹が重いし、胸も触ると痛い」


手をどかし少女の胸部と腹部を見るよう促す。彼は散々首を振ったり視線を泳がせながら、恐る恐る腹部に触れようとする。僧侶の呼吸が荒く、手が震えていた。


しかし彼は何とか理性を保ち、少女の肩に手を置いた。


「す、すみません。僕がいう身体の仕組みはあくまで魔法学であって多分クラウディさんの想像とは違います」


ふぅっと息を吐き出し、さらに続ける。


「クラウディさん、女性のことは女性に聞きましょう。それにこんなことしているとダメです」


身体を診てもらうのにダメなんて事ないだろうと首を傾げるが、確かに女性に聞くのがいいかとも思う。


クラウディは仕方なく服を戻して立ち上がった。


僧侶のアラウは残念に思う気持ちもあるが、ホッとした気持ちもあって安堵の息を吐いた。







「あんた……それ女の子の日じゃない?」


「は?女の子の日?」


アラウの助言通りにローレッタとラントルに症状を伝えて聞いてみると2人はそういった。さらに詳しく聞いてみると、女性には周期的にそういった症状が現れるらしい。


「怪我とか病気じゃないから『ヒール』は効かないわよ。ていうか今までもあったでしょ。不順なの?」


「え」


「薬とか持ってる?」


持ってないと言おうとしたが、そういえばフロレンスが何か持たせてくれたような気がしたので、一旦席を外し、荷馬車の裏でインベントリを漁った。


────あった


小さな巾着袋を取り出した。中身を見てみると薬らしき粒と何か細長いものが入っている。


「??」


使い方が分からず、クラウディはラントルたちにそれを見せた。


「え、これいいやつじゃない?薬も一緒に入ってたならそれ用のやつでしょ」


「ほんとですね。私たちが使うようなやつです」


彼女らは使い方を知っているようでクラウディは教えてもらおうと尋ねた。


2人は顔を見合わせて少女を手招きし、辺りを見渡しながら使い方をこっそり教えた。


「え」







あれから順調に荷馬車は進み、ようやく分岐点へときた。


森に囲まれた広い街道が左と正面に伸びている。


「ここから左に行くと私たちのエイギレストへ。まっすぐ行くとベルフルーシュへ行く道へと続きます」


ローレッタ指で差し示しながら説明する。クラウディとアラウは頷き、荷物に忘れ物がないかもう一度確かめた。


「クローさん。もしエイギレストに来る事があればこれを」


ローレッタは封蝋がしてある手紙を少女に渡した。


中身は自らが書いた紹介状が入っているという。


「もしかしたら我々の所へ来る事があるかもしれません。それがあれば色々融通させてもらいますので」


「それは助かる」


クラウディは手紙を懐にしまった。そしてラントルが近づいて来て少女に抱きついた。


「クラウディ!元気でね!!男には気をつけて!ほんとに」


「あ、ああ」


「英雄。早くランクあげろよ」


ブレッドがニヤリと笑う。


「了解」


クラウディはいつまでも抱きつくラントルを引き剥がしアラウの側へ並んだ。


アラウは微笑んで入るが、釈然としない雰囲気がある。


「アラウお前……」


「行きましょう、クローさん」


「…………」


「それでは」


ローレッタたちは並んで手を振った。アラウとクラウディはそれを背に正面の街道を進んでいく。


────やっぱり……だめだよな


少し歩いたが、クラウディはやれやれと肩をすくめ、アラウの腕を掴んだ。かなり強く掴んでしまいアラウが驚いて振り返る。


「アラウ。お前はあいつらと行け」


「え、いや僕はクラウディさんと……」


「お前いちいち名前言うし、そんなんじゃこの先無理だ」


「…………」


「弱いし、足手纏いだって言ってる」


────嘘だ


正直少女は1人でも信頼できる仲間がついて来て欲しかった。この先わけもわからない世界でなにが起こるかわからない。それに彼が邪魔だとか、足手纏いなんて思った事もない。


しかし彼がしたい事、進みたい道をどうしても自分のために邪魔することは出来なかった。


アラウは唇を噛んで何も言わずその場から動かない。


クラウディはそんな彼の背をラントルたちの方へ強く押した。


「すみません……」


クラウディは彼が足を動かすのをみて背を向け街道を1人進み出した。


「あなたに相応しい人になるので!絶対!それまで無事で!」


アラウはラントルたちに合流し大声で叫んだ。しかしそこに少女の姿はもう見えなかった。

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