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第68話 焚き火





────月が2つ見える


クラウディは目を開けて某っと月を眺めた。荷車の天井がかなりズレておりそこから見えるようだ。


辺りは暗くなり焚き火の灯りだろう光が視界の隅から照らした。


身体は少し気怠いが痛みはない。きっとアラウが回復させたのだろう。


月を見るのに飽きて視線を泳がすと側に誰かがいるのに気づいた。


「ラントル……」


魔法使いが杖を抱えてうとうとしていた。一際(ひときわ)頭が下がると身体が跳ねて頭を振る。


そして少女と目が合った。


「クラウディ?」


ラントルは涙目になり少女を抱きしめた。しばらく啜り泣いた後、少女はラントルの頭に手をやり、離れてもらうと起き上がった。


「大丈夫?かなり無茶したんでしょ?」


「……大丈夫。みんなは?」


「外にいるよ。行く?」


少女は頷き立ち上がった。少しよろめきラントルが肩を貸そうとするが大丈夫だと伝え、荷馬車を降りて焚き火の光に向かっていった。焚き火には他のメンバーが揃って囲っていた。


「お、起きたか英雄」


包帯だらけのブレッドがクラウディに気づくと手を上げた。


「良かった!クラ、クローさん!」


アラウも気づいて立ち上がり駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか?!どこも異常ないですか?」


「ああ、おかげさまで」


少女は貴族と執事に視線をやった。目が合うと2人は深々と頭を下げた。


「この度は大変危険な事になってしまい、申し訳ございません……そして、救ってくれた事に多大な感謝を」


────簡単に頭は下げるものなのか?


少女は頭を上げるよう言い、空腹の旨を伝えた。するとローレッタはクスリと笑い、執事に用意するよう伝える。


クラウディは食事を受け取りながら焚き火の前に座った。傷だらけのブレッドと目が合う。アラウ曰く傷が多すぎて細かい傷は自力で直してもらう事にしたらしい。


「お前女だったんだな」


不意にブレッドが言い少女は口に含んだスープを吹き出した。


「え……あ」


クラウディは仮面をつけてない事に気づいた。そしてサラシも巻かれておらず胸の膨らみが服の上からわかった。


「ご、ごめんね?状態を見るために邪魔だったから……その過程で見られちゃったからもういいかなって」


「……ああまあ別に」


ラントルが申し訳なさそうに謝り、クラウディは胸を隠すように膝を持ってきてスープを啜った。


「それにしても」


ブレッドがニヤリと笑う。


「俺がこんな小さい女に負けたなんてな……いくら操られてたからってな」


頬杖をつき、彼は無心で食事を摂る少女を見つめた。


「必殺コンボも効かなかったって?」


────あの連携技か?


クラウディはブレッドが使った、『止め』『接近』『打ち上げ』『ぶちかまし』の連携技のシーンを思い浮かべた。


単純ではあるが、『スキル』というのをうまく使った連携だと思った。


ただ、それは格下と初見に通じるものである。少女も元男の姿であれば初見で防いで反撃を喰らわす自信があった。


────今は女だからもろに喰らったが


そんなことを考えながらブレッドを見つめていると彼は声をあげて笑った。


「大したことない感じだな……いや、でも助かった。俺からも感謝を」


貴族に習ったのか深々と頭を下げた。


「ぼ、僕も感謝してます!」


「私も感謝してる!」


それを皮切りに他のメンバーも頭を下げた。


「え……」


「なに引いてんのよ!」


みんなの下がった頭に困惑しているとラントルが顔を真っ赤にした。


「ほんとに、ほんとに死んじゃったかと思ったんだから!!」


彼女はまた泣き出しクラウディに抱きついた。


────め、面倒臭いな


少女はその後抱きつかれながらも食事を何とか摂り、あの後のことを色々聞いた。


クラウディが倒れた後、ラントルがポーションをアラウにぶっかけて引っ叩いて起こしヒールをかけ続けさせたこと。荷馬車は危険なところから離れるため、その間進み続けて大分進んだということ。もう3日もあれば分岐点に着くということ。クラウディが女性である事がバレてしまった事。


「安心しろ、命の恩人の隠し事だ。誰にも言わないさ。あれだ、何なら俺が嫁に貰ってもいいぞ。顔もいいし、強い女は大歓迎だ」


ブレッドは冗談でいい、クラウディは無視していたがアラウが意外にも噛みついた。


「クローさんは今はそ、そういのはないんですよ!!」


その言葉に少し驚いたようだったがブレッドはその剣幕にわかったわかったと苦笑いした。


その後は、依頼者以外は順番に見張りをする事になった。


クラウディはそれまで寝ていたので寝付けずずっと起きていた。


みんなが寝静まってアラウの見張り番の時に少女は彼の側に胡座をかいて座った。


「…………」


「…………あの、『生命石』を」


言われてクラウディは『生命石』を取り出した。ブレッドに魔法をぶちかましてからすっかり使い果たしてしまいマナの光を失っていた。


アラウは受け取るといくらかマナを込めて持ち主へと返す。少しだけ光る石を見てインベントリに仕舞った。


「毎度助かる」


「…………クラウディさんは凄いですね」


「……なにがだ?」


『生命石』をしまいながら首を傾げた。アラウは膝をかかえ前後に揺れ出した。


「正直、このままクラウディさんと旅をしていいものか不安になるんです」


「…………」


「僕が居ても足手纏いなんじゃないのかって」


────いや僧侶いなかったら今頃ボロボロなんだが……


その旨を伝えようとしたが、アラウが続ける。


「フォレストウルフの時も僕が少しでも引きつけてれば多少楽になっただろうし、ランジリザードもろくに倒せませんでしたし……オークも、僕が居なければ怪我なんてしなかったじゃないですか」


「それは────」


「ブレッドさんも、僕のマナが少なくて助けられなかったし。ブレッドさんと戦うクラウディさんの何の役にも立てませんでした」


どうやら彼はみんなの足を引っ張ってしまったのではないかと不安になっているようだった。


「あぁ……えー……」


こういう時あまり嘘をつけない元男の少女はそう言われて確かにそうかもとは思うが、なんとかフォローしようと言葉を探した。


「結果よければそれでいいだろ」


ようやく捻り出した言葉であったが、それは一層アラウの気分を沈めさせた。


「すみません……」


「…………」


しばらく沈黙が流れる。


────気まずいな


クラウディはどうしようかとポリポリと頬を掻いた。


「ラントルさんは僕と同じくらい落ち込んでましたが、凄いんですよ」


アラウは火を見つめながら微笑んだ。


「?」


「王都の魔法学院へ行くそうなんです」


「ああ────」


レイボストンを出る前、ラントルは故郷に帰った後、王都の魔法学院へ行って鍛え直すと意気込んでいた。クラウディとアラウはそのままベルフルーシュへ向かうが、ラントルは依頼者と一緒にエイギレストへ向かう事になっている。


「王宮の宮廷魔法師になるのが夢見たいですよ。凄いですよね」


「……そうだな」


冒険者として実践経験もあるのだから彼女ならきっとなれるのではないかと少女は思った。


「アラウはこのまま冒険者を続けるのか?」


少女は興味本位で聞いた。しかしアラウは困ったように笑った。


「僕は────」


言い淀んで欠伸をする。


「そろそろ交代ですかね?クラウディさんは寝なくて大丈夫ですか?」


「ん?ああ、散々寝てたから目が冴えて仕方ない。後は俺が見張るからラントルは起こさなくて良い」


「本当に大丈夫ですか?何かあったら絶対起こして下さいよ!」


少女が頷くとアラウはいそいそと荷物を片付けて頭を下げるとテント内へと入っていった。


────何か変だな……


僧侶の様子に違和感を覚えながらも、少女はその後は1人焚き火を眺めながら見張りを行った。

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