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第67話 ブレッド??vsクラウディ





1時間近く経った。


ラントルも目を覚まさず、ブレッドの姿もないことからそろそろ離れようとしていた頃。


クラウディの目に森から出てくるブレッドの姿が見えた。よろめいて歩いており全身血まみれだった。衣服もボロボロで上半身が露出している。


アラウも気づいて駆け寄ろうとするが、少女は手で制した。満身創痍な男の頭上に『魂喰らい』が取り憑いていた。


それに気づくとアラウはたじろぎ、どうすればいいかと少女を見つめた。


────知らん。俺はこの世界の住人じゃないんだぞ


心の中で不平をいうが、考えなければならない。


取り憑かれたブレッドを殺すわけにはいかないし、気絶させるにも彼はAランク冒険者。どれも一筋縄ではいかないはずだ。


かと言って『魂喰らい』を倒す確実な方法がない。僧侶の聖属性魔法ならもしかしたら倒せる可能性はある。だが、マナもそこまで回復していないだろうし試行回数をかけられない。


クラウディは頭を振ると荷馬車から降りてブレッドの正面に立った。囮になってくれた男だ、出来れば殺したくはない。


少女は武器を抜き構えた。操られたブレッドも既に剣を構えており今にも突進してきそうだった。


『威圧』


ブレッドが呟き、草木が揺れるほどの凄まじい圧を放つ。その波動にクラウディは全身が重くなるが、足に力を入れて踏ん張った。後ろでは小さな悲鳴が聞こえる。


『突進斬り』


少女の眼前にバスタードソードが迫った。あまりの速さに剣を交差させて防がざるを得ず。激しい衝突に腕が痺れる。飛ばされる身体を地面に足をつけて何とか前傾に体勢を倒し勢いを殺す。


しかしついてきていたブレッドは体勢を急に低くして少女の懐に入り、空に向かって開いた腹部を蹴り上げた。


「っがは?!」


軽く5mは空に蹴り飛ばされる少女。視界がチカチカ光り、呼吸が出来ず剣を離しそうになる。


追撃をしようとブレッドも飛び上がり空中の標的に剣を振るった。少女は何とか受け流そうと剣の平で斜めに受ける。


その瞬間だ。


『奥義────七星剣』


ブレッドが目にも止まらぬ赤い斬撃を繰り出した。標的の周り、前後左右から放たれる斬撃は対応させる間もなく一瞬で少女を斬り刻んだ。


そのまま受け身も取れずにどしゃりと地面に激突する。


────まじか……


少女は男の身体でないことを呪った。先程の攻撃も目では追えており、三太刀目までは弾くことが出来た。しかし身体がついていかず以降被弾してしまったのだ。


────元の体なら初見で躱せた……


そうは言っても仕方ない。肋骨の下の方は粉砕しており、加えて酷い出血に身体から熱が引いていくのがわかった。


掠れる視界にアラウが泣きながらかけてくるのがわかった。


「来る、な」


声は掠れ、もう届かない。手にも力が入らない。


────まだだ


クラウディはなんとか息を吐き出し、アラウに向かっていくブレッドに『生命石』へ意識を集中する。そしてマナをありったけ込めてライトニングボルトを3発放った。


しかしそれに気づいたブレッドが全て剣で受け止める。バリバリと全身を電撃が攻撃するがブレッドは耐え、その足をクラウディの方へと向けた。


アラウがそうはさせじと杖で殴りかかる。だが、頬を殴りつけられて地面に倒れ込んだ。


────力が足りない……


そう考えたとき、ふといつかの精霊の言葉が頭に浮かんだ。



『あなたに漂っていた気配がこの世界のどれにも当てはまりませんので』


『今は落ち着いてその剣の中に入ったようです』


『この剣が光ってあなたが倒したのです』



クラウディは手に握るシミターを見つめた。


────何も感じない


精霊の森のフィレンツェレナには、シャドウレインはクラウディ自身が倒したと言われた。だが、一体どうやって?


────本当に何かの力があったのか?思い当たることなんて……


ふとシミターが光った気がした。


その瞬間、何度も見た真っ白な空間に立っていた。


周りには何もない。真っ白な空間と先の見えない地平線。


『我は主を覚えている』


不意に背後から声がし、振り返った。そこには姿がハッキリとしないが元男の姿があった。髪が長くロングコートを着た男が。


『俺もお前を覚えている』


思ってもないことが口から出た。


『考えるな、反射で動け、主は誰よりも我を理解したのだから』


女の声で喋る男の口元が妖しくニヤリと笑った気がした。


周囲が光り輝く。


その瞬間はっと我にかえると、地面に倒れ伏したままの元の風景に戻る。ただシミターの刃は淡く光っていた。


力がみなぎり少女は立ち上がった。


痛みはなく、斬り刻ざまれた箇所からの出血は止まっていた。


「クラウディ、さん!」


アラウの警告の叫び声が聞こえた。


────わかっている


クラウディは迫っていた横薙ぎのバスタードソードを片方の剣で上に跳ね上げた。


すぐさま開いた敵の脇腹を拳で殴りつける。骨の折れる感触が伝わってきた。


そのまま敵は吹っ飛んで地面に転がるが、しかしすぐに起き上がり構えた。


『威圧』


先程の波がクラウディを突き抜けるが今度は大したことはなく少女は平然とした。


『突進斬り』


地面を滑るように突進してくるブレッド。今度はクラウディは剣を片手で受け止めた。


さらに懐に滑り込むように蹴り上げようとする足を寸前で半身ずらして躱す。空振って下がったままのブレッドの頭を、今度は逆に少女が地面に向かって踏みつけた。


『奥義・七星剣』


地面に顔がめり込むが構わず、彼は無理な体勢から剣を振り斬撃を発動させた。


────なんという執念だ……これが実質Sランク冒険者


先程と同じように、クラウディを取り囲むように斬撃が襲いかかって来る。だが少女は今度は目に追いついた身体で、両手を別々に動かし全ての斬撃を弾き切った。


弾かれた赤い閃光が霧散して消える。


クラウディは次の攻撃に備えたが、それはなくブレッドは地面に倒れたまま起き上がらなかった。


『魂喰らい』がダメだと思ったのか、ブレッドの頭から触手を引っこ抜き、今度はクラウディ目掛けて操らんと襲いかかってくる。


しかし少女は淡く光る刃で目玉を一刀両断した。


斬れるとは思ってなく、反射的な行動だった。


だが、『魂喰らい』は真っ二つになり、耳障りな小さな悲鳴をあげると霧散して消えた。後には小さなコアのような球を1つ、コロンと落として。


クラウディは手に握るシミターを見つめた。緊張が解け、刀身の光がチカチカと瞬いて消えた。


その瞬間に凄まじい疲労感が押し寄せ倒れそうになるが、剣を地面に刺して堪える。


「っはぁ!……はぁ……終わった……」


肩で息をしながらなんとかブレッドを抱え、地面に突っ伏しているアラウの元によろよろとした足取りで行った。


ブレッドは呼吸はしており生きている。アラウも先程の叫びが精一杯だったのか気を失っていた。


「クローさん!」


荷馬車からローレッタと、意識が戻ったのか、ラントルが駆けつけてくるのが見えた。


────こいつらを……


少女は何とか抱えている2人を渡そうとしたがその前に意識がなくなり地面に倒れた。

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