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第65話 迷いの街①


荷馬車は森に挟まれた広い街道を進んでいき、暗い街に着いた。人の気配はなく、広い廃墟が広がっている。正面には門があり、左右に壊れた何かの像が立っていた。朽ちてしまったのか誰かに破壊されたのかはわからない。


依頼者たち以外は地面に降りた。ゆっくりと門を潜り荷馬車に合わせて歩いていく。


「そういえばなんでここはこういう廃墟なんだ?」


クラウディは何の気配もない廃墟を見ながら言った。ほとんどの建物は瓦礫と化しているか、半壊している。


「さてな、ここで虐殺があったとか。徐々に廃れていったとか色々言われているがどれも定かではない。もう何十、下手したら何百年もここは変わらないらしいからな」


ブレッドが辺りを警戒しながら答えた。


「こんなに大きいのに誰か整備しようとかそういうのはなかったのかな?」


ラントルが疑問を口にした。


「僕もよく知りませんが、近くに水源もありませんし、立地もよろしくないので誰も管理しようとしないみたいです」


「水源なんて引っ張って来ればいいんじゃないの?出来ないことはないんでしょ」


「……うーん、あんまり言いたくはありませんが『呪い』がかかってるとも聞いてます────っ痛」


その言葉にラントルは冗談言うなと杖でアラウの頭をこづいた。


────『呪い』か


クラウディは生き物の気配は感じないが、誰かに見られているような不思議なピンと張り詰めた空気を感じていた。


初めて入る部屋に、目に映る生物はいないが何かがいるのではないかという不思議な感覚。


彼らは執事が地図を見ながら進める荷馬車の周りに張り付いて進んで行った。


と、正面に門が見えてきた。


「あれ、もう着いたんですか?」


荷馬車は門の下に来たところで止まった。執事のクルメルがしきりに辺りを見渡している。


「すみません、どうやら道を間違えてしまったようです」


確かに門の左右にある壊れた像なんかは全く同じだった。最初の入り口に戻ってきたようだった。


方向を転換させ、一行はもう一度荷馬車について歩き出した。


その間も少女は視線のようなもの感じ、今度は『生命石』を首にかけた。


『生命石』のマナは魔法を扱う2人が何度もマナを注入してくれたおかげでほぼ満タンだった。


魔力を注入してくれる者がいるなら使うのを躊躇う必要はない。


しばらく最初と同じ道を辿っており、雑談をしながら歩を進めていく。


感じるものは特に変化ないが、また気づけば最初の門へと戻ってきてしまった。


「おいおい、まじかよ」


ブレッドは肩をすくめて何を思ったか荷馬車の中へ入っていった。


しばらくして執事が御者台から降りてきて冒険者の前に地図を広げた。ローレッタが困惑したように荷車から顔を覗かせている。


「もしかしたら偽物をつかまされたのかもしれません」


不安げに執事のクルメルがいい、今度は先導して欲しいと僧侶のアラウに預けた。


何故ブレッドでないのか聞くと彼は得意ではないからと呟く。


そしてアラウを先頭にし、後ろにクラウディ、荷車、背後をラントルとブレッドの順で進んでいく。


「何か感じないか?」


少し進み出して一層視線が強い気がした少女は僧侶に聞いた。しかしアラウは地図を辿るのに意識を集中していて聞こえてないのか黙々と進んで行った。


クラウディは万が一の事を考え、『生命石』のマナを使用し身体に微弱な電気を纏った。電気をまとえば何か干渉しようとする力をある程度抑える事ができる。フロレンスと戦った際に発見した防御の術だった。この程度のマナ消費なら仮面と併用でも数時間はかけ続けられる。


先程と同じ道を辿る一行。このままではまた戻るのではないかと、クラウディはアラウが持つ地図を後ろから覗いた。


ちょうど分岐点だったが、少女は見た。


アラウが指で赤い線をなぞっているのにも関わらずそれとは別の方向に馬の体の向きを変えるのを。


「アラウ」


クラウディはアラウの肩を掴んだ。静電気の弾ける音がしアラウにも微弱な電気が流れた。


その瞬間に我に返ったのか短い悲鳴をあげた。


その声に他の冒険者2人が前方に駆けつける。


「なにがあった?!」


剣を抜き辺りを警戒するブレッド。ラントルも杖を掲げて辺りを伺っている。しかし敵の姿はない。


クラウディは地図とアラウに関する先程のことを話した。


「精神感応系の攻撃か……?」


ブレッドが口元を抑えながら何か考えるふうに眉間に皺を寄せた。


「もしかして執事さんも何かしらの精神攻撃を受けてたのかな」


「そうかもしれません。……全く気づきませんでした」


アラウが申し訳無さそうに下を向いた。


「どうする?引き返すか?」


クラウディは無難に迂回することを提案するが、ブレッドは首を振った。


「状況から察するにクロー。お前なら案内ができるんだろ?身体に電気を纏う……だったか?」


「私はそんな器用な魔法使えないから……」


「僕には『シール』の全面展開なんか出来ないので……無理です、はい」


────まだ進む気か?


対応できるのが1人しかいない危険な状況で進むなんてことは愚かな行動だと誰でも分かるはずだった。


みんなの視線が集まるが、ふと少女はブレッドの肩に手を置いた。電気を纏ったままなのでそれがブレッドに伝播する。すると我に返ったように辺りを見渡した。


「ははっ……まずいな……引き返すぞ」


先程とは打って変わって戻ろうと依頼者に伝える。


貴族とその執事は頷き、みんなに荷馬車に乗るよう伝えた。クラウディは某っと突っ立ているラントルとアラウに触れて洗脳を解き、急いで荷馬車に乗るよう急かした。


何が何だかわからないという表情をするが全員荷馬車に乗り込み執事は馬を駆け足で引き返させた。


ガタガタと激しく荷馬車が揺れ、かと思えば急に方向を転換し止まった。


「な、何だ?!」


「みなさん!オークです!!」


執事が叫び、それを聞いたブレッドが舌打ちし、再び地面に降りた。剣を抜いて荷馬車の前に躍り出る。クラウディたちも後を追った。


「さっきまで気配なんてなかっただろうが!」


確認出来るのはオークが3体。3mはあろうかという太った焦茶色の巨体に大きな棍棒を持っていた。


オークの1匹がブレッドに殴りかかった。ドスドスと大きな振動がその攻撃の威力を物語っている。ブレッドは腕の筋肉を隆起させそれを正面から受け止めた。


衝撃で風が巻き起こる。


「すごっ!」


「感心してる場合じゃない、来るぞ」


驚きの声を上げるラントルに別のオークが殴りかかった。


アラウが『シール』を張り、破れると同時にラントルは敵の顔面に魔法で石を飛ばした。


腕を上げて相手がそれを防いだところにクラウディが首に斬りつける。しかし脂肪が分厚く動脈まで届かないようで出血は少量のみ。


煩わしく思った敵は腕を振り回して周囲を薙ぎ払った。


ラントルが殴り飛ばされ、クラウディは剣で弾いて上手く着地した。アラウが慌ててラントルの側に行きヒールをかけるのを目の端に捉え、片方の剣をスコット製の毒短刀に持ち替えた。


突進してくる敵に『生命石』のマナを使用し高火力の火炎魔法を顔面に浴びせる。火炎は顔面に直撃して爆発し燃え盛った。少女は素早く敵の首元まで駆け上がり、思い切り首に突き立てようとした。


が、3体目のオークが飛び出してきて仲間のオークごと棍棒を振り下ろした。


「チィッ!」


少女は何とか空中で片方の剣で棍棒を受け流すと地面に着地し、3体目のオークの足に短刀を突き立てた。


痛みに呻いたオークは足元のクラウディ目掛けて蹴り上げた。少女はその攻撃を避けるためになかなか抜けない短刀を放すしかなかった。


少女は再びもう片方にシミターを構えて距離を取った。


オークの1匹は先程の別のオークの攻撃で頭がへしゃげて死んでいる事が確認出来る。


そしてブレッドもオークを斬り捨てたところだった。


「うわぁぁあ!!」


オークをブレッドと挟み込んで仕留めようとした時、背後から悲鳴が上がった。


何事か振り返るとラントルを治療中のアラウが地面にへたり込んで震えていた。彼の視線の先を見るとラントルが空中に浮いており、その頭に何かが蠢いていた。


巨大な目玉に青い半透明なタコのような身体。その足が何本もラントルの頭を貫通していた。ラントルは白目を剥き泡を吹いている。


────なんだあいつは……


驚くのも束の間、その光景に後ずさるアラウに4体目のオークが出現し飛びかかった。


クラウディは咄嗟に前に飛び出してアラウを突き飛ばした。回避が間に合わず敵の棍棒を受け流そうと衝突した。


しかしあまりの威力に受け流し切れず弾き飛ばされる。そしてそのまま廃墟の壁に激突し、目の前が真っ暗になった。

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