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第64話 砂時計







食事の後は明日について少し話し合い、それぞれ寝床へ向かった。


クラウディはいつものようにこっそりとテントを抜け出し荷車へ向かう。ラントルとローレッタは今では隣同士で寄り添って寝ており大分打ち解けているようだった。


少女は最初の見張りをしているブレッドの様子を荷車の隙間から伺った。いつものように焚き火に向いて剣を手入れしている。


バスタードソードの柄は無骨な鱗が散りばめてあり、かなり業物のように見えた。


ふと彼が傍に置いている箱のようなものが少女の目に入った。何かがサラサラと落ちているようだ。


────砂時計か?


クラウディはそれが気になって荷車から降りた。


「ん?なんだ、眠れないのか?」


ブレッドが少女に気づいて顔を上げた。


「ああ、ちょっとな」


「まあ座れ」


ブレッドは枯れ枝を焚き火に追加した。クラウディは焚き火を挟んでブレッドの反対側に座った。


手をかざして温まる。


しばらく2人は何も話さなかったが、やがてブレッドが口を開いた。


「お前の剣、初めて見る動きだったが……職業は剣士か?」


「……一応剣士、だな」


『本当は無職』と小声で呟く少女。彼は気づかず武器の手入れが終わると剣を鞘に納めた。


「それ」


クラウディが指差したのは剣と思ったのか、剣を持ち上げるも首を振られて違うと分かり彼は首を傾げた。


「砂の、それは砂時計か?」


少女がそう言うとブレッドはそばに置いていた小物を触った。


「ああこれか。そうだ砂時計だ。きっかり1時間測る事ができる」


「売ってくれ」


ブレッドはそれを聞いて片眉を上げた。なぜ?という疑問が表情から見て取れる。


元男の少女は今まで前世界の知識でなんとなく時間を把握していただけで、それがこの世界で通用しているのか不透明なままで不安だった。


今のところはそこまで誤差があるようには感じないが、正確な時間を測れるなら知っておきたいと思ったのだった。


「スペアはあるから別にいいが、いくら出す?」


クラウディは自分の硬貨袋を確認した。せいぜい1万と3000ユーンという所だろうか。インベントリの中にはもっとあるが、提示出来るのは今の手持ちだけだ。


「1万3000までなら出せる」


「1万3000……」


少し考えたようにその砂時計を手の中で転がすブレッド。


「足りないなら金額を言ってくれればなんとかしよう」


「なんとかって……いやそうじゃない。金額じゃないんだこれは。これ自体は貰い物だし大した値打ちではないさ」


彼は酷く難しい表情をした。


「まあ、その、なんだ?昔の女の貰い物でな……」


「死んだのか?」


「物騒なこと言うな。生きてる。俺が振られたってだけだ」


デリカシーのないやつだとブレッドは少女に苦笑いした。


大切なものなのかもしれないとはクラウディは思ったが、この世界で時間を知るというのはかなり大切なことで諦められない。


────もっと金を積むか、決闘でもしてぶんどるか……


「そうだな、ひとつやる」


「え?」


どうやって手に入れるか悶々としていると不意に彼はそう言い砂時計をD級冒険者に投げてよこした。


クラウディは片手で受け取ると焚き火に照らして確認した。手のひらサイズのそれはガラス越しに、きめ細かい砂がサラサラと下へ落ちている。


「いいのか?」


「まあ俺としては顔もわからないやつに渡したくはないが、俺が持ってるより必要とするやつが持ってる方がいいだろ。スペアあるしな」


────顔


クラウディは仮面をしてるのは顔を覚えられたら面倒な事が起きそうな気がする故だった。それに妙にしっくりくるのでほぼ無意識につけていた。


少女は仮面に手をやりどうしようかと迷っていた。別に晒したところで害は無さそうだ。


「ふっ……冗談だ。顔は晒さなくていい」


何か感じるものがあったのか、少女の様子を見てブレッドは微笑した。


クラウディは仮面から手を離した。


「何か思惑があって隠してるわけじゃないならいいさ」


「…………いいのか?」


「低ランクに迫るのは趣味じゃない」


「…………」


少女は胸ポケットにある硬貨の入った袋を取り出すと彼に投げて寄越した。


そのまま貰っても良かったがやはり何かしら対価は払うべきだと判断したのだ。その方が後腐れもないだろう。


受け取るとやれやれと肩をすくめるブレッド。だが返したりはせず懐にしまった。


「さてもう遅いから寝たらどうだ?」


「ああ、そうする」


言われてクラウディはテントに入った。


テントではアラウが寝息を立てており、彼女はその隣でうつ伏せに寝そべった。


砂時計を取り出して砂が落ちる様をしばらく眺めた。ようやく時間を把握出来、少しでもこの世界のことが知れる。


砂は現在半分くらい落ちておりあと30分で落ち切るはずだった。


クラウディはラントルに言われているので本当は荷車に戻るつもりだったが、砂時計を見ているうちにそのまま眠りに落ちてしまった。






「クローさん、クローさん」


アラウの呼ぶ声が聞こえ足をつつかれて、クラウディは目が覚めた。


目を擦りながら身体を起こした。仮面がカランと床に落ちる。


「大丈夫ですか?」


少女は仮面をつけ直し顔を上げた。どうやら眠ってしまったようで少女は毛布をはぐるとテントの外に出た。


「何もされてませんか?」


アラウが少女の身体を見ながらいう。


「どうかしたのか?」


アラウは見張り交代時に隣で眠るクラウディを起こそうとしたが、ブレッドの目があって起こせなかったようだ。その間2人きりだったから何かされてないかと不安で仕方なかったと言う。


────ラントルならともかく……


何故アラウがそこまで気にするのか謎だったが、例の事件の事もあるので当然なのかと肩をすくめた。


「まあ何もなかったから……交代だから休め」


「なにかあったら絶対に言ってください」


少女はなおも心配する僧侶にいいからとテントに押しやった。


クラウディはテントから誰も出てこない事を確認すると焚き火の前に座った。


この時間は特にやることはなくせいぜいブレッドと同じように武器の手入れをするか、本を読む程度だった。鍛錬をして体力消耗したときに夜襲があって戦えないじゃ笑えない。


インベントリから途中まで読んだ本を取り出してページを開いた。


『レイドリン物語』────

レイドリンという冒険者が地下ダンジョンを進んでいくと言う物語で、途中仲間を引き入れたり別れたりして敵と戦ったりする冒険ものだった。


────どこまで読んだかな


ペラペラとめくりながら続きを思い出すとそれからは読書に耽った。






朝日が昇る頃、クラウディはラントルたちを先に起こし、その後ブレッドたちを起こした。


ラントルとローレッタは半分寝ている状態だったが他のみんなはすぐに起きて支度した。



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