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第63話 元世界の食事






「なにこれ『生命石』?初めて見た」


次の日荷馬車に揺られながら『生命石』をアラウとラントルに見せた。あわよくばマナをこめてもらおうという魂胆だ。


「クラ、クローさんはこれ使うんですか?」


「ああ、俺はマナがほとんどないらしくてこれで補ってたんだがマナが尽きてな」


「なるほど~。マナを込めて欲しいと」


察しの良いラントルがニヤニヤ笑った。クラウディは頷きマナを込めるのを改めて頼んだ。


良いですよとアラウが手をかざしたが、ダメよとラントルが石を離す。


「マナって貴重なのよ。ただってわけにはいかないわ」


「え、半日もすれば全快す────」


アラウの口を慌てて塞ぐラントル。


「金か?」


「いやいやそんな、仲間からお金は取らないって」


ラントルは肩をすくめた。そして何か食べる仕草をする。


「美味しい料理が食べたいな!クルメルさんのご飯もおいしいけどそろそろ肉肉しいのがね」


────対価に美味い飯か……


「肉系か……考えとく」


よろしくと魔法使いは言い、僧侶と少しずつマナを『生命石』に込めた。しばらく『生命石』に蒼く淡い光が注ぎ込まれる。


「なにこれ全然満タンにならないんだけど」


2人は息を切らして『生命石』を持ち主に返却した。微かだが淡い光を放っている。


意識を集中すると小さな光を出現させた。1番マナ消費が少ない『光球』で、きちんと発動するのを確認するとすぐに消した。しかしこの感じだと中級魔法1発か小魔法数発しか出来ない。


「ほんとに使えるんだ。しかも無詠唱」


ラントルが驚いた。


「なにかあったときに困るんで僕らはの半分しか込めませんでしたが、また回復したら込めますね」


「ああ、助かる」








それから3日経った頃、一行はとある森の入り口で休憩していた。


「『迷いの森』?」


「クロー、あんた知らないの?」


どうやらこれから森の中にある『迷いの街』という所に入るらしく、皆がとある地図を囲っていた。ローレッタたちが『闇市』で手に入れたものだと言う。


「これはその街の地図だ」


ブレッドが地図を指で軽く叩いた。クラウディが覗き込むと街の詳細なものが見えた。入り口から出口までグネグネと複雑な赤い線で結んである。


「大分複雑だな」


「『迷いの街』はその名の通り入ったら出られないとされているからな。本来なら避ける所だが運良く地図が手に入った。これの通りに進めばわざわざ迂回せずにすむ」


『迷いの街』は横長に森が広がる中に位置しているみたいで確かに迂回するより多少複雑でも中を通った方が早そうだった。


「今日はここで野営して明日、日が登ったら出発するいいな?」


ブレッドがしきり、皆頷いて了解を示した。


それからはみんな野営の準備をした。男どもは外にテントを女性たちは火起こしを分担する。


クラウディは薪を取ってきて貴族のローレッタに渡した。ローレッタは最近はじっとしていられないからと言ってどうしてもと手伝うようになったのだ。


「あの、クローさん?」


「ん?」


クラウディが薪組みを手伝っているとおずおずとローレッタが話しかけた。


「よろしければ今晩は料理とか、なさったり?」


「ああ……了解した。適当でよければ…………そんなに美味かったか?」


────野菜炒めて……貴族に食わせるもんじゃないよな


改めて考えるともっと他のがあったなと今になって少女は思った。


「なんというか、ああいう料理は新鮮で……似たようなのでもよろしいですし何かあればと」


「わかった」


────ラントルにも約束したしな


クラウディはそう言って立ち上がると荷車に上がり、材料を見繕う。以前の自分用のウルフの肉がインベントリに残っていてそれを取り出す。フォレストウルフの肉は食感や味が牛肉に近しいものがあったので意外と美味かった。


続いて買いだめていたパンを幾らかと、玉ねぎやニンジンに似た野菜。それからトマトのような赤い長細い『スパル』という野菜。


少女は執事から包丁を2本借り、料理を作り始めた。





「なにこれ肉団子?」


料理が完成する頃には野営の設営も終わり、みんなまったりと火を囲っていた。


出来た料理を運ぶとみんなが奇異の目で見る。


────まあ……形が歪なハンバーグ


少女はいちいち皿に盛るのが面倒なので大きい皿にハンバーグをまとめて重ねて出した。タレはなくても良かったがケチャップソースのようなものを作ってかけた。それと肉をほぐして適当な味付けして煮込んだスープも鍋のまま置く。


「悪い、作りすぎた……」


「いやでもすごくいい匂い」


「いただき!」


ラントルが我先にフォークで突き刺して自分の皿に取り、かぶりついた。


「え、美味しい!」


その様子を見ていた他の者が同じように食べ出した。


クラウディもいくらか皿に取って食べる。


────ちょっと硬かったか?


表面が少し硬く感じたものの味は普通にハンバーグだった。


元男の少女は決して料理は得意ではなかったが簡単なものは作ることは出来た。


「普通の肉団子じゃないですね……正直美味しいです。肉汁もすごいし味がなんとも……なんて料理なんですか?」


ローレッタが口元を隠しながら言う。


「……歪な形のハンバーグだ」


「『歪な形のハンバーグ』ですか?『ハンバーグ』でいいんですよね」


クラウディはブレッドの方を見た。何も言わないが自分の皿に山にしているのを見るに悪くはないのだろう。


執事のクルメルも食べながら頷いていた。


あれだけあったハンバーグもみんな平らげてしまい、添えたスープも、ほとんど空だった。


「はぁー食べた食べた!お腹いっぱい!」


ラントルはお腹をさすりながら、またお願いねとウインクした。


────そんなレパートリーないぞ


余程気に入ったのかローレッタも絶賛して明日も食事を担当して欲しいという始末だった。


少女がこの世界で美味いと思ったものがあるように、元男の世界の食事も新鮮で珍しいのだろう。似た食材はあるので作れなくはなかった。ただ少女にとってはすごく面倒臭い事ではあった。

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