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第62話 ランジリザード







荷馬車は朝方に出発し、草原を進んでいた。草原は広く、真ん中の街道以外は緑が広がっている。


2回目の休憩が終わるとラントルが歩きたいというのでクラウディとアラウは荷馬車に合わせて外を歩いた。


「ん~!ずっと揺られてるとお尻が痛くなって大変……」


伸びをしながら歩くラントル。


「まあずっとですもんね……中を歩き回るわけにもいきませんし」


アラウが苦笑いした。確かに荷馬車内は不安定な足場になってしまうしウロウロしていたら他の人に迷惑となってしまう。


クラウディはチラリと荷馬車を振り返った。ブレッドは腕組みして伏せており、貴族は地図を眺めている。


きっと彼らは慣れているのだろう。


御者のクルメルが少女と目が合うとニコリと笑った。慌てて顔を正面に向けるクラウディ。


「────へぇ、エイギレストの近くに実家があるんです?」


「まあ小さい村なんだけどね。アラウの実家はどこなの?」


「僕はレイボストンから北西にある『サイシャ』ってところです。小さな教会がある小さな町なんですが……」


「……う~ん。流石に聞いたことないわ」


「ですよね……地図にも載ってないこと多いですから」


アラウとラントルは後ろを歩き、辺りを仕切りに見渡すDランク冒険者を振り返った。


「クローさんはどこなんです?」


「?なにが?」


「聞いてなかったの?実家よ実家!」


辺りの気配に気を配っていたクラウディは話を聞いておらず、実家の場所を聞かれて頭を掻いた。


────実家……住んでた所ってことだよな


頭が勝手に記憶を探ろうとして軽い頭痛が襲う。元男は元世界では転々としており、最後に住んでいたのは日本の東京という場所であった。


ただそれを言ったところでわかるわけがなく、かと言って『アストロ』で長く居た『死の森』と言えるはずもない。なので適当に北の方と伝える。


「えー?名前とかは?」


「────あー、じ、シャパン」


「『シャパン』?…………聞いたことない」


「まあ世界は広いですから」


適当過ぎたかと思ったが、僧侶からフォローが入り特に追求されることはなく。


クラウディは辺りを見渡した。


「さっきから何?なんか周りにあるの?」


少女の挙動に不信感を感じたのかラントルが立ち止まった。


「ああ、なんかついて来てるなって」


「へ!?早く言ってよ!モンスター!?」


実は10分ほど前から何かが跡をつけてきていた。数が多く、おそらく群れだろう。


それをそのまま伝えるとラントルは慌てて荷馬車にいるブレッドに報告しに行った。


少ししてブレッドが降りてくる。御者と何か話すが荷馬車はそのまま進んだ。そしてクラウディの側に来た。


「勘がいいみたいだな、Dランク。この辺で群れといえばランジリザードだろう」


Dランクの言葉を信じないかと思ったが、先日の狼の件もありすんなりと認めたようだ。


ランジリザード────

小型の二足歩行トカゲ。群れで行動する。舌が伸びて粘着性があり、外敵には石をくっつけて振り回して戦う姿も見られる。


────トカゲ……


クラウディは熟練者からモンスターの説明を受け周囲に気を張った。一定の距離を保っているが、やや近づいてきている気がする。


「荷馬車に乗ってる食料目当てだろうが……どうする?いくらか与えれば撒けるとは思うが」


「それはつまり食料を減らせということか?いいのか?余裕がそんなにあるわけじゃないだろ」


「いや、クローさんモンスターを撒けるならそれに越したことありませんよ」


「そうそう、無駄な戦闘は避けないと」


────本当にそうか?


観光気分で与える食料とは違うだろうと思い、クラウディ立ち止まり剣を抜いた。


半径10m内の草村に潜んでおり、今はもう揺れるのが見て取れた。


第一モンスターが食料を分けたからと言って簡単に引くだろうか。


少女はナイフを2本草むらに投げつけた。


当たった感触があり短い悲鳴が聞こえる。そのすぐ後にランジリザードの群れが一斉に飛び出してきた。


確かに2足歩行でかけてくるが、50cm程のものだ。


「わっ?!何やってんですかクローさん!!」


アラウとラントルはあたふたと杖を構え詠唱を始めた。ブレッドはニヤリと笑っているのが見えた。


「まあ、運動にはいいな」


彼は剣を抜き構えた。


ランジリザードが武器を絡め取ろうとするのか、舌を伸ばしてくる。クラウディは身を屈めて避け、伸びたままの舌を斬り上げて切断した。


そのまま悲鳴を上げるトカゲに剣を投げて倒し、続く2匹目も伸びてくる舌を掴んで引き寄せ、バランスを崩して前のめりに目の前に来たところを斬り裂いた。


敵は続々と続き、少女は次から次へと斬り伏せていった。


敵の勢いが弱まったところでチラリと周囲を確認する。


ブレッドは紙でも切るように倒していってるので問題はないが、他の2人が少し危なっかしい。


アラウはもっぱら防御呪文ばかりを唱え、それにぶつかって怯んだ敵をラントルが魔法や杖で倒しているようだ。


クラウディは再び現れたランジリザード2匹を素早く倒すと2人の側へと移動した。


それに気づいた魔法師2人は安心した表情になるが、すぐに顔が強張った。


「ちょ!クロー、後ろ!連れて来すぎ!!」


ラントルが叫び、アラウが慌ててクラウディの背後に防御の膜を張って敵が激突する。


少女はひっくり返った敵を突き刺して倒し、後続の敵を迎え撃った。







クラウディはもう新たに出てくるモンスターがいないことを確認すると刃に付着した血を拭き取って鞘に納めた。


辺りをかなりの数のランジリザードが倒れている。ざっと数えて40匹ほど。



「な、何匹倒したんですかね……」


「……さあ~?もう疲れた~」


ラントルとアラウは肩で息をし、背中合わせで地面に座っていた。


ブレッドも多少は呼吸を乱していたが、今は既に剥ぎ取りを開始していた。


「あんな体力ありませんよ……さすがAランクですね……」


「私も無理~。クロー、私無理だから……」


ガックリと項垂れる2人はその場から動けないようだ。仕方なくクラウディはブレッドの側に行き、剥ぎ取り方を教わると2人で剥ぎ取りをこなしていった。


ランジリザードは伸び縮みする舌が使えるらしく、あとは肉になるが可食部位も少ないので数匹だけ肉を剥ぎ取る程度に収めた。


「やはり、お前タンクスキル持ってるな?」


近くで剥ぎ取っているとブレッドが小声で言った。


「え?いや、持ってないが……」


「ふっ……隠さなくてもいいさ。お前の周りに集まっているのに気づかなかったのか?まあ隠したいなら黙っておこう。そういうユニークスキルもあるのだろう」


────いや、持ってないって……


よく分からない含み笑いをするブレッドに少女は首を傾げた。


確かに妙に集まって来ているとは思ってはいたが、『無職』にそんなスキルはない。


ただ変に否定するもの面倒臭いのでその後は剥ぎ取りに集中した。






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