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第61話 フォレストウルフ







その日は特に何もなく、クラウディも少しだけ仮眠を取った。


翌日、野営を手早く片付けると再び荷馬車は進み出した。そして2回目の休憩がおわり少し進んだ矢先だった。


「ブレッド」


クラウディは辺りの気配を察知しブレッドの側に行った。声音に異常を感じ取ったブレッドは辺りを見渡し執事に止まるよう指示した。


馬が急に止まり一同が前のめりになる。


「え、なになに?」


「側面の森にモンスターだ。ローレッタ様とクルメルさんは中で待機してください。他は馬車を囲むように外へ出ろ!迎え打つ」


ブレッドが指示して地面に降り、クラウディたちも後に続く。ブレッドとクラウディは側面を、ラントルは後方、アラウは正面に位置取った。


全員武器を抜き構える。クラウディは左手に武器を構え右にナイフを握った。


クラウディも森の茂みに注視した。すると唸る声がいくつも聞こえ、中型の青い毛並みの犬のようなモンスターがゾロゾロと出てきた。


「フォレストウルフだ!気をつけろすばしっこいぞ!」


ブレッドの声が響き、戦闘音が聞こえた。おそらく囲むように出て来ている。クラウディの前には4頭おり、おそらく15~20頭の群れだ。


人間の匂いか、食料の匂いかわからないがずっとつけて来たのだろう。よだれが口元から垂れ、目が血走っている。


ウルフたちは少しの間様子を見るように辺りを彷徨っていたが、突然一斉に走り出し少女に襲いかかった。


彼女は1歩下がって敵の着地点を狙い、1匹ずつ斬り裂いていく。最後の1匹は剣に噛みつかれ鍔迫り合いになった。


「クラウディさん後ろ!」


アラウが叫び、少女は目の前の敵を蹴り飛ばして振り返り、視界に入った敵にナイフを投げた。ナイフは敵の目に刺さり失速したところで首を切断する。


まだウルフは次から次へと向かって来ており少女はもう片方にもシミターを握った。


飛びかかってくる2匹の喉元を下から突き刺し、襲いかかる次モンスターに振り回してぶつけ、しゃがんで上方の攻撃を躱わす。間合いに地面に足をついているウルフが見えたので低い姿勢のまま身体を回転させて斬り裂き、先程ぶつけて地面に倒れた敵にトドメを刺した。


まだまだ向かってくる敵が多く、クラウディは突進した。


ブレッドの方は何匹かすぐに片付けたが、何故か他のフォレストウルフは脇を通り抜け反対側へ行ってしまい慌てて追いかけた。


反対側ではかなりの数のウルフがD級冒険者を取り囲んでおりそれを見たブレッドは驚きに目を見開いた。


すぐに参戦しようとしたが既にほとんどの敵は地面に倒れており最後の数匹を、見ている間に二刀流の冒険者が瞬く間に斬り捨てた。


ラントルやアラウも呪文の詠唱を途中で辞めてしまいしばらく沈黙が流れた。


クラウディは肩で息をしながら剣の血を拭うと鞘に納めた。


「大丈夫か?」


クラウディは呼吸を整えながらラントルとアラウの方を交互に見て言った。


「いやいやあんたが大丈夫?」


「……まあなんとか」


2人が少女の側に行き怪我がないか確認したが返り血のみでかすり傷ひとつなかった。


「一体何体いたんですか?」


「1、2、……14匹……よく死ななかったわ」


横たわるウルフの死体の数に息を呑むラントル。


「お前たちは?怪我は?」


「僕は大丈夫です。何故かクローさんの方に敵が行ってしまって……そのすみません」


「わ、私も」


どう言う事だと首を傾げていると、ブレッドがゆっくり辺りを見回しながら少女の側まできた。かなり距離が近く見下ろす形になる。


「タンクスキルでも持っているのか?『リアクションドロー』か、『ラウンドヒット』か……」


「……なんだそれは?」


「タンク職のスキルだ。敵の注意を惹きつけるスキルなんだが────まあいい、取り敢えずこいつらの肉と素材をいくらか剥ぎ取ろう」


クラウディの首をかしげる姿を見て聞き出すのが難しいと判断したブレッドは、その話は後回しにし3人に言った。剥ぎ取り方と要るものを伝えて分担して剥ぎ取っていく。


ラントルとアラウはあまり経験がないのか、顔が引き攣り、ぎこちなく手を動かしてはいるがほとんど剥ぎ取れていなかった。


なので少女とブレットでほぼ全ての牙と幾らかの毛皮、あとは肉を1番うまいと言われる足の付け根の部位を2日分ほど。クラウディは自分用に多めに剥ぎ取った。


「はぁ……疲れましたね」


「剥ぎ取りが1番疲れる気がするわ」


アラウは荷車に座り込むと項垂れた。ラントルもグッタリしている。血を見てグロッキーになっているようだ。


全員が荷車に乗り込むとまた馬車は進み出した。


「みなさんお怪我はありませんか?」


ローレッタが心配そうに一同を見渡す。ブレッドが心配ないと諭すと安堵の表情を浮かべた。


「さっきのは『ロール現象』に見えましたが、よくご無事でしたね」


「『ロール現象』?」


「いや……どちらかというとタンクの『スキル』に見えたが────ああ、『ロール現象』ていうのは────」


知らない風のD級冒険者にブレッドが説明した。


ロール現象────

群れが起こす現象の一つで、敵が危険と判断した者に群れが一つの意思を持ったかのように連鎖反応を起こし一つの存在に立ち向かう様。その姿が渦を巻いているようなことからロール現象という。


いつかクラウディが体験したラビラビが起こした現象は実はこれだった。


────面白い現象だな


少女は興味深いと感心した。


「で、お前はタンク職なのか?」


ブレッドが再度聞く。


「いいや……違うが何か問題があるか?」


「……出来れば能力を把握しておいた方が良いんだが、言いたくなければ無理には聞くまい」


────『無職』なんだがな


クラウディは言っても仕方ないしなと頭を掻いた。


「世間知らずで申し訳ないが、『スキル』というのをもう少し詳しく教えてくれるか?」


少女は先程から『スキル』という単語が気になっておりブレッドに聞いた。ローランドルのC級冒険者のログナクも使用していたが、今一理解が乏しかった。


彼はどこからと首を傾げ、少女は最初からと頼んだ。


スキル────

魔法職以外がもつ技術の事。各職に多様のスキルがあり、スタミナを消費して繰り出す。マナは消費しないため、繰り出せる頻度は魔法より多い。各職の覚えるスキルは職ごとに共通であるが、練度により覚える数が多くなる。


説明を聞いたクラウディはゲームと似ているなと思いながら理解した。元男自身はやったことはないが知り合いにゲーム好きな者がいてそれを何度か眺めた事があった。


少女は不意に記憶が脳裏に映り、深く追おうとして頭痛に苛まれる。


「大丈夫か?」


急に頭を抑える少女にブレッドが怪訝な表情をした。


彼女は教えてくれたことに礼を言い、少し休むため荷車内を移動して外を眺めた。


────どうにかならないかなこの頭……


その日は森を抜けるところで野営をした。食事は執事のクルメルが振る舞ってくれ、かなり健康的な食事が出来た。

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