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第59話 南方街道②







その日は何度か休憩を取り、身体を軽く動かしてまた出発するというのを繰り返した。特にモンスターとも遭遇する事なく夜になると野営の準備をした。


場所は街道から少しズレたところに小川があり見晴らしのいいところがあったので街道の端に荷馬車を停めた。


「女性は荷車の中で、男どもは外で見張りだ」


ブレッドがテントの準備をし始めた。それをアラウとクラウディが手伝う。大きさは5人くらいなら余裕で入れそうなくらい大きい。


アラウはクラウディが手伝おうとするといいからと何故か気を遣ったが、それでは変だろうというと確かにと頷いた。


気を使うといっても力は少女のほうが遥かに強く杭を打つのにも少女やブレッドが、2、3回で打ち込むのに対し、僧侶のアラウは何回も打っていた。


「薪を取ってくる」


テントを建てるとブレッドが火の準備をしだしクラウディはそう申し出た。


「気をつけろよ」


「ああ」


「ちょっと!僕が行きますよ!」


少女が林に入ろうと向かうがアラウが何を思ってかそう言って籠を背負うと自分が茂みに入っていった。


────なんだあいつ?


首を傾げ、ブレッドの側に戻ると彼は荷車から食材を取ってきていた。アラウが薪を取りに行ったことを伝えると頷き了解した。


「そうだお前、なんか料理できるか?」


ブレッドが食材と睨めっこしながらいった。


「え……出来なくも……ないが」


元男は簡単な物なら作れるが、その簡単なものでさえこの世界では作るのが難しい。せいぜい野菜炒めなら出来るが、それでも調味料を使うし、残りの日数と人数を考えたらとても作りたくはなかった。


「執事がいるだろ?」


クラウディはローレッタの側にいるクルメルを顎で示した。


「彼はずっと御者をやっていて疲れてるだろ……割と歳をとってるみたいだしな」


────疲れてるようには見えないが


ピシリと姿勢を保っている執事は疲れを感じさせなかった。


「…………ブレッドは?」


「俺は焼けばなんでも食うから料理は作らん。だが貴族様にそんなもの食わせられんだろう」


彼は言いながらチラリとローレッタの方を見た。


「…………野菜炒めでいいか?」


考えるのが面倒で簡単なものにしようと決める。


そこにちょうどアラウが息を切らしながら帰ってきた。カゴいっぱいに枝を集めたようで地面に下ろすとグッタリと座り込んだ。


クラウディは火起こしをブレッドに任せ、面倒だと思いながらも荷車から適当な野菜と肉を取ってきて料理を始めた。人数的に鍋をインベントリから取り出し作っていた固形の油を敷いて熱する。


豚肉っぽい肉は薄く切り、野菜は貴族様がいるのでやや小さめに切って鍋にぶち込み、焼きながら塩胡椒で適当に味付けする。


────米無いんだよなぁ……


気づけば料理する様を皆が見ていた。


「いい匂いね。料理出来たんだ」


ラントルが鍋の中を覗き込んだ。手で仰いで匂いを嗅いでいる。


「お前は何か作れるか?」


クラウディが聞くと魔法使いは肩をすくめた。


「作れるけど地元のしか作れないかなぁ。材料ないから作れない」


少女は残念だとため息をつき、出来たものを皿に装って配った。


「うまいな」


ブレッドが頬張りながら言う。それを皮切りに皆んな食べ出した。口には合うようで特に文句は言われなかった。


少女は箸を作っていたのでそれを取り出した。この世界に箸はなく、住民はみんなもっぱらナイフかフォーク、スプーンだった。


仮面を少しずらしてクラウディも食べ出す。やや薄味ではあるが食べ易い。


────まあ、こんなもんだろ……


「それはなんだ?」


ブレッドが少女の使う箸に気づいて指差した。


「これは箸だ。物を掴んで食べられる」


「へぇ、ちょっと貸してよ」


隣に座るラントルも珍しがったのでスペアの箸を渡す。見様見真似で扱うが何度も落とした。その様を見ていた他の者も挑戦し出して同じく何度も落とした。


「器用ですね」


アラウが笑い、箸を返しながらクラウディに言った。しかし返ってきた箸は何度も落とされたので砂にまみれていた。


────雑すぎる


「ありがとうございます。わざわざ作ってくださって。こちらの執事に言ってくだされば良かったのに」


片付けをしているとローレッタが側まできた。


「ただの野菜炒めだろ……」


「野菜メインはそのまま食べるか煮るかが多いので炒めるのは新鮮で美味しかったです。これからは執事に任せるんですが、その……たまにお願いしても良いですか?」


「え……あぁ、まあ、たまになら」


執事が作るならもういいだろうと思ったが、ローレッタ曰く執事も気に入っていたらしい。


────はぁー、次何作るかな……


その後、小川で皿を洗いながら面倒な事を引き受けたなと後悔するクラウディであった。

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