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第5話 謎の老婆②







クラウディはベッドの天井を見つめていた。何故ならあの後再び倒れたからだ。よくなるまで安静にしておくようにと言いつけられた。


────この身体は病弱なのか?


老婆は時折部屋へ来ては包帯を替えたり、温かい食事を与えてくれたり色々と世話を焼いてくれる。


かなり高齢に見えるが、よく動く身体だというと鍛えてるからねと老婆は笑った。


ほのかに明るい部屋は暖かい。少女は暇つぶしにと老婆が置いていった本を広げた。ドラゴンと騎士の話だ。


見たこともない言語だが、自然と頭に入ってくる。


世界を壊しに来たドラゴンを崇高な騎士が退治する話だ。正直言語が読めずとも挿絵で理解できるほどの子供向けな本だった。


読み終わり少女は本を閉じると抱えたまま瞼を閉じた。老婆のいつものゆったりとした気配を感じる。それを感じながら再び眠りに落ちた。







「そろそろここについて教えてほしい」


数日してようやく体調が良くなったクラウディは夜の食事の際に老婆へ聞いた。


「ここは私の」


「そうじゃなくてこの世界についてだ」


「…………?」


老婆は首を傾げた。


────出来るだけ話したくなかったが


少女は自身の置かれている状況を話すべきでないと思っていた。元男の自分が知っている物語なんかでは、そこの世界でない者は狂った奴と言われて相手にされない話が多かったからだ。


しかしこれでは話が前に進まない。


しばらく黙ったままな少女を首を傾げて見ている老婆は続きを待っているようだ。この土地で最初に出会った人間。人が良さそうだが、いざとなったら殺せばいい。


少女は今までの経緯を簡潔に話した。自身の記憶が曖昧なことと少女に憑依してしまったことなど。


「信じがたい話だけど。んー……憑依ねぇ……見た感じは呪いのようなものは感じない。ただ確かに異質な気配はするかしらね」


しばらく考えた風に聞いていた老婆が、眉間に(しわ)を寄せていった。


「信じてくれるのか?」


「嘘はついてなさそうだしね」


そして指先を少女に向け何か光るものを飛ばした。クラウディは咄嗟に握っていた食器のナイフでその光を弾く。


「……え、すご」


老婆は感心した声をあげ、いくらか同じものを飛ばしたそれを全て弾き飛ばす少女。


「ちょ、大人しく受けて……大丈夫だから。害のない魔法よ。身体の状態を調べるの」


老婆は何度も防ぐ少女に苦笑いしつつも、穏やかな口調で言った。


少女は言われてはっと我に返り、ナイフを下げた。今度は抵抗せずにいると先程の緑の細い光が彼女の周りをクルクルと回る。そして霧散して消えた。


「うーん……やっぱり特になにもない。異質な気配にも干渉できないし」


「……今のは?魔法って言ったか?」


「魔法を知らない?……嘘じゃなさそうね」


老婆は少女の反応を見ながら、手から小さい火を出したり氷を浮かべたりした。驚きを隠せない様子の少女を見てニコリと笑った。


「超能力とは違うのか?」


元男の世界では魔法は存在しなかったが、超能力は存在した。エレクトロニクス、パイロキネキシスト、サイコキネスetc…。


「超能力?は知らないけどこれは魔法と呼ばれるものよ────と話が逸れたわね。そうねこの世界は『アストロ』と呼ばれているわ。この場所はノースフルランドの────」


老婆は一旦口を閉じ


「『死の森』と呼ばれているわ」


死の森────


不吉な名前に身体が勝手に身震いした。


「あのゴブリン?とかイヌが出てきたが……ここは安全ではないのか」


「イヌ?ああミラージュドッグのこと。よく生きてたわね」


経緯を話すと笑った。運が良かったと。


どうやらミラージュドッグは本来は群れで生息している獰猛な生き物らしく、単独で行動することはほとんどないという。滅多に遭遇出来ないが、その皮は非常に高価で、少女は場所を詳しく説明する羽目になった。あとで回収するからと。


「また話が逸れたわね。死の森の名の如くここには私くらいしか住んでないわ。特殊な結界を張ってるから気づかれないし気付かれても余程の強者じゃない限りは入れないの。まあ外は危険なことには変わりないけどね。あなたが遭遇したモンスターの他にも獰猛なのは沢山いるわ」


────そうか、つまりこの身体の少女たちは死の森に逃げようとしていたということか


しかし人間にやられるくらいなのにモンスターに勝てる算段でもあったのか、妙だと少女は唸った。


「話は一旦ここまで……まあ他はおいおいね……ご飯食べちゃって」


手が止まっている少女をみて老婆が言った。熱々だったスープが少し冷えていた。


彼女は食事をかきこんだ。


「そういえばその口調も元男だからなのね」


「……俺は男だ」


「いやいや身体は完全にか弱い女の子よ。顔も可愛いし」


じぃっと少女を見ながら目の前の老婆は微笑んだ。


「…………」


元男は黙って食べ、終わると食器を下げた。もう少し話を続けたかったが老婆は首を振って早めに休むよう少女に促した。







どうやらここは地球ではなく、どこか似たところらしい。日本にいたはずだが……。元男はベッドの上に胡座(あぐら)をかいて身体を揺らした。


────帰る方法はあるんだろうか


元男は何かやらなければならない事があった気がして元の世界に帰りたかった。何があったか思い出すため瞼を閉じて集中する。記憶が徐々に思い起こされる。


どこか屋敷か?────ピエロの敵にやられて────いや斬ったはず────他にも誰か────()……か?


ズキンと頭が痛み出す。それ以上は思い出せず頭を押さえた。


────くそっ


少女はため息をつき、ベッドに横たわって布団を胸元まで引き寄せる。少しずつ頭痛が和らぐ。


────魔法ね……


ふと辺りを見渡し、見られてないのを確認すると目を閉じて手を眼前に持ってきて意識を集中した。


しばらく緑の光をイメージしていたが特に何も起きない。


────それはそうか……俺には剣しかないしな


そう思ったあとミラージュドッグとの戦闘が浮かんだ。剣しかないと言ってもまともに振れないようではすぐに死ぬ。


「明日から鍛えるか」


元男は自身のか細い少女の腕を見ながらつぶやいた。そしてゴブリンの戦闘も思い出し、興奮した雄がしようとしたことを想像して身震いした。


「おえぇ……」


少女は頭まで布団を被り身体を抱えるように丸めて目を閉じた。自身の身を守るように────。



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