第48話 屈辱①
少女はその後も『闇市』をいくらか彷徨て目ぼしいものがないか見て回ったが、特に興味を惹かれるものはなかった。
帰路に着こうとした時に四つん這いの鎖に繋がれた男が、成金女性に引っ張られているのが見えた。
オークションの時にもあったが、奴隷商に捕まったのだろう。どういった経緯を辿るとそうなるのか分からないが、行き着く先は地獄だ。
クラウディは目線を外し、『闇市』の外へと向かった。
長い階段を登り『闇市』の外に出ると、レイボストンの街は一層濃い霧が立ち込めていた。50m先が見えない。
────なにかいるな
少女は後ろからついてくる気配に気づいていた。ちょうど『闇市』の出口辺りからだろうか。進む方向が一緒なだけとも思ったが、一定の距離を保っており少女が立ち止まると止まり、進むとついてくるといった具合だったので明らかに尾行だった。
後ろに注視していたが、ふと前方から大柄な男が接近してきて少女の前に立ち止まった。スキンヘッドで強面だ。
「……」
クラウディは相手が退かず何も言わないため剣に手をかけた。
「ああ、ちょっとまて!それはないだろ。こちとら丸越しだぞ!」
少女の行動に慌てて男は手を挙げて危害を加えないことを示した。確かに見た限りでは武器はもってなさそうだった。
「あんたクローだろ?冒険者の」
「……それがなんだ?」
男はヘラヘラと笑い腰を低くし、危害を加えないとアピールする。
「情報屋を探してるんだろ?紹介してやろうか?」
それを聞いてクラウディは首を傾げた。
「何故それを知ってる?」
「旦那。情報がないと俺はここにはいないぜ?俺はただ連れてこいって言われただけさ」
「誰にだ?」
「『情報屋』さ。俺は雇われただけ。何でかは知らねーが俺は報酬を貰って、あんたもついてくれば『情報屋』の元へ行けるそれだけだ。来るならついてこいよ」
そう言って男は歩き出した。狭い路地裏に姿が消えたいく。少女は少し迷ったが、『情報屋』に会えるならそれに越したことはないと考えてすぐに追いかけた。
幸い見失わず男に追いつき、すぐ後ろを歩く少女。
しかし不意に鈍い音がしたかと思えば男は地面に倒れた。
何事かとクラウディは飛び退いて辺りを見渡した。
すると僧侶のアラウが路地裏の曲がり角の陰から出てきた。
「ダメじゃないですか!知らない人についていったら」
「……アラウ」
彼は少し怒ったような表情をしており、杖の先で倒れている男をつつく。
「この人はここらでは有名な詐欺師で、新顔を見ると見境なく金を騙し取る常習犯。クローさんも気をつけないと」
「……それは助かった」
「僕がたまたま見かけて追ってきたから良かったですけど!役に立ちましたかね?」
先程から追いかけて来ていたのはどうやらアラウだったようで、少女は安堵した。
「ああ、金が無くならずに済んだ」
クラウディは今から帰るところだったのを説明するとアラウは胸を叩いた。
「僕ももう帰るところなんで一緒に帰りましょう!ここは少し複雑な道なので案内します」
そう言って笑うとアラウは濃い霧が立ち込める複雑な路地を迷いなく歩き出し、クラウディもそれに続いた。
路地を進む中、何故いるのか聞くとアラウも『闇市』に掘り出し物がないか見に行っていたとの事だった。
たまたま見つけて声をかけようかと迷っているうちに追いかける形になったとか。
最初は彼は色々と話していたが、少しずつ静かになっていった。
────おかしい
少女は辺りを見渡した。見たことがない場所や建物が次々と出てくるのだ。『闇市』からギルドまではそこまで離れていないはずで30分以上も歩く必要はないはずだった。
「アラウ、お前」
もしかして道に迷ったのかと声をかけるとアラウは立ち止まった。
「す、すみません。道に迷ってしまいました」
「…………」
少女は呆れて仮面を押さえた。すぐにアラウは謝るが、クラウディはそれはいいからと荷物から地図を出した。
指でなぞって、通って来た方向等の記憶を頼りに『闇市』から辿ろうとする。
「あれ、クローさん?仮面に何か付いてますよ?動かないでください────」
少女はアラウが彼女の仮面に手を伸ばし、何かを取る仕草をするのに気にも留めなかった。完全に信頼しており、何かされるとは夢にも思わなかったからだ。
しかし、プシュっと音がし仮面内に甘い匂いが充満した。
クラウディは驚きその場から飛び退いた。
「お前……何を」
「ダメじゃないですか、知らない人について行ったら……ねえ、クラウディさん?」




