第47話 蒼い眼の占い師
クラウディはその後も色んな店に入ったもののまともに会話できる人間が少なくほとんど空回っていた。臓器を売るもの、モンスターの幼体を売るもの、大麻のような麻薬等────ここではミキシーというらしい────を売っていたりと内容は様々。しかし欲しい情報は無かった。
諦めようとした時とある看板が目に入る。
『あなたを占います』────
クラウディは目を惹かれて狭い天幕の中に入った。
中は薄暗く狭い、6畳あるかないかの広さだった。中央には対面出来る席があり反対側にはとんがり帽子を被った老婆。テーブルの上には大きな水晶玉があった。
────こんなの生で初めて見たな
日本でも本やテレビ等ではそういうシーンを見たことがあったが元男の少女は現実では占いは初めてであった。
中に入ったものの気づいていないのか、老婆からは反応がないのでそのまま目の前の椅子に座った。
少しして老婆は顔を上げ少女を見た。手のひらを上にして何かをしめす。
「いくらだ?」
「いくらでも」
────いやいくらだよ……
少女は値段を提示しないので取り敢えず銀貨10枚乗せた。こういうのは値段が高ければ高いほど良いのだろうが、いかんせん何処まで占いを信じていいのか分からない。
────まず信憑性がな……
結局は思い込みだとか、誰でも当てはまる事柄だとかで当たっている気分になっているだけというのはよくあることだ。
老婆は受け取ると、少女に水晶の上に手をかざすよう言った。クラウディは言われるまま手をかざした。
すると老婆は少女の手の上からさらに自分の手をかざし、何か呟きながらフラフラと体を揺らす。
時間にして5分くらいだろうか、老婆はピタリと身体を止め、少女を見つめた。老婆の眼は透き通るような蒼眼で吸い込まれそうだった。
「あなた……女の子……だね……しかし男にも見える」
その発言に少女の心臓が跳ねた。
「何か探してるね…………」
「……おい、続きは?」
老婆が急に黙り込みクラウディは催促した。すると老婆はまた手のひらを見せ金を要求する。
────信憑性……あるよな
少女は金貨を2枚老婆に払った。
「仮面を取りなさい」
老婆は今度はそう言い、少女は言われるまま仮面を外した。それを少しの間老婆は眺める。
「身体が息苦しそうだ。胸のものも緩めなさい」
言われるまま少女はサラシをグイグイと引っ張って緩めた。
「深呼吸しながら、目を閉じて、手をかざしなさい」
────深呼吸して……
少女は言われた通りにした。
老婆は先程と同じように何かぶつぶつと呟き出した。10分くらいそうしていると、水晶が輝き出したのがわかり、少女は目を開けた。
そこには夜なのに光り輝く街が見えた。サーカスのような天幕や踊り子、賭博に酒。街の人々が歓喜に満ちていた。
水晶はそんな映像を映していたが徐々に輝きが消えていった。
「今のは……」
「そなたが求めるもの。場所であったり、ものであったり、人であったりな」
「今のは何処だ?」
「わしには映像は見えぬ。特徴を言えばわかる範囲で教えよう」
と言いつつも、老婆の手が再び金を要求する。
────足元見てるな
クラウディはさらに金貨を2枚老婆へ渡した。
場所や情景を詳しく話すと、老婆は片眉を上げた。
「ここからちょうど南に何日も歩いた場所にある『ベルフルーシュ』だろうな」
「ベルフルーシュ……」
────そこに俺が欲しいものが
次の目的は決まったと少女は席を立った。
「ちょいちょい、まあ急ぎなさんな」
老婆はニコリと笑うともう一度クラウディに座るよう言った。そしてもう一度手をかざすよう言う。
「もう金は出さないぞ」
「ふっ、サービスじゃよ」
少女が再び手をかざすと老婆は同じような文句を唱え、身体を揺らした。身体が止まると口を開いた。
「ふむ、前方にはよく注意するようにの。あと色々元に戻しておくように」
「……ん?ああ…………それだけ?」
「ふふ、気をつけるようにの」
少女は首を傾げ、仮面をつけて天幕を出た。天幕内は暗く、俯いた老婆の笑顔が消えていたのには気づかなかった。




