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第46話 闇市の商人







次の日再びギルドへ行ったが今度はアラウと会うことはなく、依頼はソロで受けた。内容もパーティ推奨ではないものだ。


霧の路地を歩いていると衛兵らしき正装した兵士が何人か歩いているのを見かけた。


すれ違う際、そのうちのひと組に声をかけられる。


「お前、妙な仮面を被っているな」


クラウディは無視して横切ろうとしたが肩を掴まれた。


「悪いな、顔だけ見せてくれるか?手配書に載ってるやつがこの街に来ていると言う情報が入ってな。面倒とは思うが協力を頼むよ」


もう1人は優しい声音でもう1人を制した。クラウディはチラリと衛兵の腰に下げた剣を見た。柄や鞘は使い込まれており、きちんと仕事をしている印象を受ける。


────逃げるのはよくないか……


「怪しい奴なんて他にもいそうだが?」


辺りを見渡すと路地裏から顔を出す者やフードを深く被り直す者もちらほら見えた。ただ少女が目をやると影に隠れ息を潜めた。


衛兵たちはどこかに行こうともしないので仕方なく仮面を取ると、違うとわかったのかすぐに解放された。


衛兵たちは悪びれる様子もなくさっさと霧へと消えていったが、今度は怒鳴る声と共に争うような激しい音が聞こえ出した。


クラウディは関わったらダメだと足早にその場から離れた。


目的の場所を足早に目指す。


霧の街にも『闇市』とは別に当然、表の商店街はありそこに向かった。


本屋を見つけて中に入ると狭い空間にギッシリと本が並んでいた。


老人の店主はいるが他には誰もいない。彼は分厚い本を読んでいる。


「小説はあるか?」


さすがに大量の本の中から探し出すのは苦労するので店主へ聞いた。老人は顔を上げるとゆっくりと立ち上がり、杖で高い位置の本を差し示した。


2mほどの高さで流石に手が届かないので椅子を借りて探し、いくらか目ぼしいのを手に取ると全部購入した。


外に出ると一旦宿に戻って身軽にし、クエストに出発した。







クラウディがそれからまたギルドへと行ったのは彷徨う甲冑の件から5日後だった。またアラウと会うかもしれなかったので街に買い出しに行ったり、宿で過ごした。


ギルドへ向かうと受け付けの男からまとめて報酬を受け取った。


合わせて2万ユーン。 


────そろそろ動かなきゃな


一旦宿に戻って朝食を食べた後クラウディは『闇市』へと向かった。


護衛依頼で通った道のりを辿り、階段を降りると『闇市』へと到着する。


入り口付近にあった冒険者の遺骸は無くなっており薄い血痕のみ残っていた。


護衛依頼の名残は他にはなく、人も何事もなかったかのように往来しているようだった。


────地下の方が人が多いんだな


地下は当然地上よりは狭いはずだが、辺りを見渡して改めて人の多さと人口密度の高さに驚く。


まるで地下がメインだと言わんばかりだった。


元男の少女は『情報屋』を探したかったがまずは何処を探せばいいかわからなかった。


そこら辺の人に聞けばいいのだろうが、自分自身仮面を被っていたりするので迷うところであった。


────シラミ潰しにいくか


少女は1番近い『ゲテモノ珍味』へ入った。外観は謎の生き物の干物やら骨やらが置いてある。


極め付けは漂ってくる臭い。脂ぎったようなものに生臭い臭いが混じったような何とも言えないものだった。


クラウディは取手に手をかけたが徐々に強くなる臭いに思わずその場を離れた。


「おえっ……」


────だめだ次に行こう


次は人の髪の毛を売る出店で、そこかしこの棚にウィッグや部分的な髪が飾られている。


「いらっしゃいー。あら坊や、髪の毛に興味があるのん?」


店主は髭の青さが残る、女性の格好をした男性だった。露出が多く見える肌の筋肉が隆起している。


「あ、いやちょっと聞きたいことが────」


「あらん?」


早速情報を集めようとするが遮られ、店主は立ち上がるとクラウディの周りをウロウロとした。


「あなた、いい髪質してるわねぇ……まるで女の子みたい」


不意に少女の髪に触れ鼻をひくつかせる。


その行動に危険を感じて距離を取った。


「あらぁ、冗談冗談」


オネエ系の男は警戒する少女をみて笑った。


「で、なんですって?」


少女はふぅっと息を吐き、情報屋について聞いてみた。


ここは『闇市』であり、色んな人がいるのは当然でこの程度で気後れしていたらとても調べ物なんか無理だろう。


「情報屋ねぇ……一口に情報なんて多種多様なのよね。まあ『イコール』が総合的に良い情報を扱ってるとは聞くけど」


「!その『イコール』という情報屋はここにいるのか?」


オネエはニコリと笑い商品を指差した。


────買えってことか


少女は仕方なく適当なエクステを購入した。値段は1000ユーンで銀貨10枚を渡す。


「まいどあり!」


丁寧に包装してくれるが受け取るとさっさとしまう。そして言葉の続きを待つもオネエは意地悪く笑った。


「『イコール』がここにいるかどうかは知らないわ!」


「…………」


呆れた少女は彼を睨んでその場を離れた。後ろから、またね〜と明るい声が聞こえる。


少しイラついたが、『イコール』という情報屋を当面探すという目的に絞ることは出来たので気を取り直し次に向かった。


次は『自分を売る』という看板が目につく店で、外には使い古された服やら靴やらが並べられていた。


少女は中に入った。


中は狭い空間ではあるが所狭しとよく分からない黒ずんだ何かが入った小瓶や髪の毛、液体など得体の知れないものが並んでいた。


「ここは僕を売る店だよ」


異様な雰囲気に外に出ようとしたが声をかけられる。振り返ると小さなカウンターに前掛けをつけた若い男が座っていた。


彼は立ち上がって少女の側まできた。背は少女より頭一つ分高い。


彼は近くの小瓶を手に取った。


「これは僕の爪。10歳の時のものを全部入れてるんだ。ほらここにヒモを通すとネックレスになる」


「…………は?」


「こっちは14歳の頃の抜けた髪。この頃は多く抜けてね。全部繋げると頑丈な紐になるんだ」


────イカれてるのかこいつ


「見てよこれ、これ売るの勿体無いんだけど僕の乳歯。ネックレスにしても良し、食べても良しさ」


店主の発言に悪寒が走り外に出ようとするがまたもや遮られる。


「僕はね、自分が好きなんだ。こんな僕をみんなにも分かって欲しくてね。どうだいこれ!僕の手の皮さ!脱皮したみたいに綺麗だろう?」


自分の手の形の白い皮に頬擦りする男に少女はたじろぎ、思わず顔面を殴りつけるようにして男を退かすと外に出た。


後ろでは何か倒れるような音がしたが足早にその場を離れた。

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