第42話 僧侶のアラウ
クラウディは宿の近くの最初に訪れた冒険者ギルド『ヘイルスケーリン』へ行った。やはりどこからか視線を感じるがハッキリはしない。単純に気のせいなのかもしれないが。
中に入ると気怠そうな受け付けの男が目に入る。仮面の冒険者が中に入るが特に誰も気にも留めない。
「いらっしゃいー。依頼の斡旋を希望か?」
「ああ頼む」
少女が以前取って行った別の依頼書は数日経って期限が切れてしまっていた。返却したが違約金は発生しなかった。
依頼書の束を受け取り1枚の依頼書をカウンターに置く。
討伐依頼────────
依頼主 16番街教会
依頼内容 16番街教会にてグールの目撃あり。調査及び討伐
適切ランク D パーティ推奨
推奨ランク D-C
報酬 基本2万ユーン~
そこそこ良い報酬であり、見た中では一番のものだった。ただ護衛依頼に比べると低い。
クラウディはそれを受けた。
「そういえば、最近ギルドで何かなかったか?」
少女は件の事件がどうなったのか気になった。
「ん?何かとは?」
「事件とか」
「……小競り合いならしょっちゅうだが、それ以外は特に聞かないな」
どうやら事件のことは広がってはいないようだった。
────『霧の街』か
霧の街とはよく言ったもので公にはしなかったのだろう。それならあまり気にしなくても良いかもしれないと、さっそく依頼の場所に向かおうとすると受け付けの男が声をかけた。
「おい、これはパーティ推奨だぞ。紹介するから、職業は?」
「ソロじゃダメなのか?」
「グールだからな……さすがになぁ。お前Dランクだろ。嫌なら他のにするか?」
クラウディは1人で行きたかったが仕方なくパーティの斡旋を頼んだ。
「職業は?」
「職業は……剣士だ」
本来なら受け付けにギルドカードを見せた時点で把握しているはずだが、目の前の男はろくに確認していないのだろう。
なので本当は職業『該当なし』だが、バレなければ良いならと嘘をついた。武器も剣を腰に差しているのだから疑われはしないだろう。そもそも間違いではないのだから。
「んー……剣士か」
受け付けの男は辺りを見渡し1人の杖を持った男に目をつけた。テーブルで項垂れている人物だ。全身白いローブでフードを被っている。
「おい、そこの名前────あーなんだっけ?……ああ!アラウ!……だったか」
何とか名前を思い出したようで、その者の側に行くと背中を叩いた。
一言二言話すと顔を上げフードを取ってクラウディの方を見た。
明るい金髪で髪の短い青年だった。年は20歳前後に見える。
「こいつもパーティが中々見つからなかったからちょうどいい。お前ら組んでみろ。『僧侶』と『剣士』まあ悪くないだろう」
青年は手招きされて正面にくる。ぺこぺこと頭を下げながら挨拶した。身長は170cmくらいだろうか、背は少女より高い。
「あ、どうも『僧侶』のアラウです…………その……嫌なら断ってもらっても構いませんよ」
自信無さげな表情でアラウは言った。
「おい!斡旋したこっちの身にもなれよ。クローはパーティクエスト受けてるが他に人がいないから組んでやれっていうの」
「万年Cランクの僕が行っても大した戦力になりませんよ……」
「大丈夫。今回はグールだからお前も貢献できるって」
クラウディはやり取りを見ながら少し、受け付けの男は辺境の街ローランドルのログナクに似ているなと感じた。
「まあ、構わないが……」
────僧侶なら傷を回復できるだろうし。多少無茶が出来るだろしな
「いいんですか?見ず知らずの僕を」
嬉しそうに青年は微笑んだ。
「よろしく頼む」
クラウディとアラウはパーティを組むことになった。
アラウは教会への道のりを知っていると言い、クラウディを案内する。
「クローさん?でしたっけありがとうございますパーティを組んでくれて」
道中アラウは自分のことを語った。
『僧侶』であるアラウは敵への攻撃が苦手であり、いつも他のパーティの足を引っ張っていた。それを繰り返すうちに誰もパーティを組んでくれなくなったとか。
「僧侶なら攻撃できないのも仕方ないんじゃないのか?」
「僧侶は一応攻撃魔法があります。でも僕の場合上手く当てられなくて。たまに仲間に誤射もしてましたし」
────誤射は勘弁だな……
「まあ回復が出来るなら問題ない。俺が戦うからよろしく頼む」
「────はい!」
霧が濃くてよくわからないが、建物が大分荒んだ地域に来たようで路地裏で寝そべるものや見窄らしい格好の者がちらほら見えるようになった。
「クローさんは最近この街に来たんですか?」
クラウディが仕切りに辺りを見回しているのを見てか、青年は聞いた。
「ああ、先週くらいに来たんだ」
「なんで冒険者に?」
「金を稼げるからだ」
「いつも1人なんですか?」
「正式にパーティを組んだのは初めてだな」
「1人は怖くないんですか?」
「怖い?あまりわからないな」
アラウは淡々と返答する冒険者に、自分にはソロは絶対無理です、と感嘆の声を上げた。
「ここはなんだ?スラム街っぽいな」
時折り物乞いのようなものも見られ始め、元男の少女はもしやと感じた。何度か近づいてくるものに剣を抜く仕草を見せて追い払った。
「そうですね。ここは地図にも載ってない16番街です。貧困地域ですね」
クラウディは地図を出して確認してみると確かに15番街までしかない。
16番街は『霧の街レイボストン』でもっとも貧困な地域で、金がなくて飢餓に苦しむ者や病気な者、はては死体まで転がっているというものだった。
悪臭は漂い刺激臭が時折り鼻を刺激した。
「大丈夫ですか?」
アラウが心配したのかクラウディの顔を覗き込んだ。もっとも仮面をつけているので表情はわからないだろうが。
「いやお前こそ大丈夫か?」
少女は逆に青い顔している青年にそう言うと、彼は乾いた笑い声を出した。
「すごいですね。初めて来たんですよね?大抵の人は気分悪くなって帰っちゃったり、吐いたりして戻っていくんですけど……」
元男は言われて改めて見渡すが、確かに良いものではないものの懐かしい感じもした。
────この光景は……いつか、いつだったか
元男の世界の記憶が呼び覚まされ一瞬情景が映る。
1人の少年がうずくまっている。隣では死体が転がり、カラスが死肉を啄んでいた。その世界では誰かから奪ったり奪われるそんな暗いものが当たり前だった、とてもとても暗い光景が。だが皮肉にも太陽だけは煌々と照らしているのだ────
クラウディはそこで頭痛が走り足元がふらついた。
「だ、大丈夫ですか?教会はもうそこなので少し休みましょう」
アラウは少女に肩を貸し、教会らしき建物につくと中に入った。




