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第41話 戦いのあと②







クラウディは逃げるように宿に帰った後、荷物を床に投げてベッドにどっかりと腰掛けた。


まだレイボストンに来てから3日目だと言うのに面倒なことが起こったなとため息をつく。


少女はそれはそうと、報酬の袋の中身を広げ金貨を数える。


────1、2、3……10枚


「おぉ……」


無傷で10万ユーンを手に入れた少女は、もしかしたらあの貴族の護衛継続を断るべきでなかったかもしれないと、残念に思った。ギルドのガイエンが言うには再び現れるのに期間が空くらしいのでそこまで危険はなさそうだ。


『生命石』を取り出して残量マナを計算する。使った魔法の量や継続時間を把握しておかないといざという時に切れてしまったら命に関わるのだ。


あと同じような戦闘なら2、3回は出来ると計算した少女はどうしようかと唸った。


護衛依頼は金の稼ぎは良いかもしれないが、いかんせん拘束時間が長いのでどうしても自分の事は後回しになってしまう。


少女はそれではダメだと首を振った。


────やっぱり護衛は無しだな……


金をインベントリの硬貨袋の中に入れてしまい、ベットに横になった。


『死星』とのやり取りを思い返す。


あの4人パーティには悪いが、また少女もかなり危うかったのだ。スコットの短刀が無ければ詰んでいたと言っても過言ではなかった。


相手の油断と手札の相性が相まった勝利である。


────最後ちょっとしゃべってしまったな


ふと、身バレとかは大丈夫だったか不安になる。


仮面の機能は切らない方が良かったかもしれない。もし今後相対することがあれば真っ先に殺しに来る可能性があった。


仕留め損なったのは悔やまれた。


────フードも被ってたし大丈夫か


クラウディは後々引きずるような面倒事はごめんだとため息をつき、そして布団を頭まで被り眠りについた。







事件から2日経った。


ギルドにはまだ顔を出すのは控えた方がいいだろうと街を散策していた際に、クラウディは『鑑定所』なる店を見つけた。外観は宝石の絵が書いてあり華やかな感じを受ける小さな建物だった。


少女はそういえばいつかスコットから貰った指輪があったなとインベントリから取り出した。


何か見たこともない生き物の複雑な装飾がしてありその生き物が抱えるように赤い宝石が埋め込まれている。


『もしかしたらマジックアイテムかも』


ローランドルのルビアの言葉が思い出され、もしかしたらすごいものかもしれない。


少女が期待して鑑定所に入ると、ドアの上にあるベルが鳴った。


鑑定所自体はこじんまりとしており狭かったが、隅々まで手入れされて綺麗だった。奥には変な縦長の紺色の帽子を被った年配の店主らしき男性がカウンターの奥に座って本を読んでいる。


「おや、いらっしゃい。鑑定ですかな?」


彼は入ってきた客の手に持つ指輪に気づいてニコリと笑い本を閉じた。優しげな印象がある。


「ああ、これを頼む」


少女はスコットの指輪をカウンターに置いた。


鑑定士はそれを拾うとかけている丸メガネを弄りあらゆる方向から眺め回した。


「何か特殊な効果はあるか?」


「いや、効果はありませんな」


────まじか……


期待していた分落胆の反動が大きくクラウディは肩を落とした。


「大して高値というわけでもないですし……」


鑑定士はそこで言葉を止め、ジロジロと少女を眺めた。品定めするようなそんな視線だ。


そこでクラウディは彼が騙そうとしているのではと疑った。


もしもの時のことを考えておかねばならない。


ここは犯罪の街レイボストン。何が起きても不思議ではない。先日の事件もそれを物語っていた。


鑑定士は何かを察したのかやれやれとため息をついた。


「試したのは悪かったですが、そんな物騒なものはしまってください。私も死にたくはありません」


彼は少女が手の内にナイフを忍ばせた事に気づいておりそう言った。


「それで、本当の所は?」


クラウディは言われた通りナイフをしまった。


「見える範囲では何も効果がないのは事実ですが……宝石は見事という他ないですね」


「……そうか。いくらぐらいになる?」


鑑定士は値段を聞かれて唸った。


「私には正直わかりかねますね。取り敢えず大事にしまっておいてもっと大きな所でらみてもらうのがよいかと」


「そうか、わかった」


クラウディは指輪を取り戻すとそそくさと出ようとしたが、店主に呼び止められる。


────なんだ?


「ここは鑑定所ですよ、キチンと金を払ってください」







それからさらに数日、犯罪が多い街なのかどこからか感じる視線が気になったので、クラウディは食料や暇つぶし道具を買い溜めてほとんど宿で過ごしていた。


朝起きて鍛錬し、宿の食堂で朝食を摂り、また鍛錬。昼食を摂り、また鍛錬、のちに読書。そんな感じのルーティンだった。


鍛錬といっても激しいことはできないので静かにできるトレーニングのみだが。


ある時クラウディは読書も飽きて例の『プリムスライム』を出した。以前と変わらず緑の液体は澄んでいて気泡が消えたり増えたりしていた。


それを入れ物から床にぶち撒けると一塊になり、ゆらゆらと揺れる。


以前やった方向指示をするとそちらへゆっくりとズッて行き、壁に当たると止まった。


クラウディは食料をいくらかスライムの中に突っ込み観察した。食料は少しずつ溶けるように形を崩して消えた。緑の液体が少し濁るがすぐにまた綺麗になり身体が大きくなる。


流石にたくさんの食料を与えると自分の分がなくなるので気持ち程度に抑えておく。


「縮め」


命令すると元のサイズまで縮む。ふと、逆にもっと大きくなることは出来るのかと気になり、指示を出す。


すると先程の大きさよりも大きくなった。ざっと80cmくらいだろうか。ただ色味が薄い。


と、見ていると何故か急に液体が小刻みに震え出した。


「な、なに?ち、縮め!」


不安になった彼女は慌ててそう命令し、スライムが縮んでくれると入れ物へ入れた。蓋をするがまだブルブルと震えている。


何かに反応しているようにも感じた。


『プリムスライム』についてはまだ全く分かっていない。これがただのスライムでは無いのだろうということは薄々感じてはいるが。分かっているのは危害はないということと、簡単な命令は聞いてくれるということだ。


眺めていると再び震え出したのでクラウディはインベントリにスライムをしまった。


一息つき、空気を入れ替えるかと窓を開けた。


レイボストンの街は濃い霧が相変わらず立ち込めていて暗い。霧はその日や時間帯によっても範囲や濃さが違うらしい。今は比較的見やすい方だった。


「…………そろそろいいか」


クラウディは呟き最低限荷物を持つとインベントリを部屋に隠し、仮面をつけてギルドへと向かった。

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