第40話 戦いのあと①
「ああ、良かった!」
ローレッタたちは『闇市』のすぐ外に出ると近くのギルドへ急いで報告した。敵の特徴や被害状況を伝えるとそこのギルドは血相かえて急いで編成隊を組んで向かってくれた。
道を案内する途中で例の仮面の青年と出会した時は思わず抱きしめてしまった。
「ちょっ……」
仮面の青年はローレッタが抱きつくとふらついた。背格好はあまり変わらない。
「あなた大丈夫でしたの?!お怪我は?!」
見た感じはそこここ汚れているが出血などは見当たらない。
「お、おい。お前よく生きてたな」
ギルドの編成隊の1人が震える声で言った。
「?怪我なんかしてない。早く離れてくれ」
「あ、すみません」
ローレッタは恥ずかしそうに青年から離れた。
「敵は?」
先程の1人が仮面の青年に聞く。
「逃走した」
「被害は?」
仮面の青年は胸ポケットから4つのギルドカードを取り出して渡した。つまりそういうことだった。それを見た全員の息を呑む声が聞こえた。
「……あとは我々が処理しておくから君たちは先に我々のギルドに帰ってなさい。おい、案内」
全身鎧のガタイのよい男が言い、ローレッタたちはギルド『アイアンロード』へと案内された。
クラウディは『アイアンロード』ギルドへ入るとすぐに席に座らされ、温かい飲み物が出てきた。
『アイアンロード』の内装は他とそこまでは変わらない。せいぜい置いてあるものの配置が微妙に違うくらいだった。
「ではあなたが5人目の護衛の人でしたの?」
経緯を説明すると貴族が驚きの声を上げた。
「ああ、その、ちょっとタイミングがな」
「クローさん?でしたかな。この度は救っていただき誠に何と言ったらいいか」
「?護衛依頼だろう。当然じゃないのか?」
執事は借りていたテラテラとしたミラージュクロスを本人に返した。それを受け取ると綺麗に畳出すクラウディ。
少女が『死星』と戦う前に使っていた『ミラージュクロス』という、羽織ると迷彩効果のある布だった。
いつか倒したミラージュドックの皮で出来ており、フロレンスがこしらえてくれたアイテムだ。少女はこれまでその存在をすっかり忘れていた。
これの存在をもっと早く思い出していればもっと楽に乗り切れた場面も多数あっただろう。
「いや当然じゃないですよ」
軽食を持ってきたギルドの若い受け付け嬢『ターニャ』が口を挟んだ。
「ギルドマスターも言ってましたよ。我々の手に負えるものじゃないと」
その割にすぐに来てくれたなと思いながらクラウディは飲み物に口をつけた。やや甘めのミルクのようだった。
数刻のち編成隊が帰ってきた。冒険者4人は死亡が確認された。
クラウディたちのテーブルに編成隊の1番偉いと思われる人物がドッカリと座った。
「ここのギルドマスターのガイエンだ」
先程の鎧を着た貫禄のある人物だった。兜を脱ぐと堀が深い顔が現れる。顎髭は蓄えており髪は後ろで束ねていた。
「ローレッタ殿と言いましたか。確かエイギレストの令嬢とお見受けしますが……もう一度詳しく話してもらえますか?」
ローレッタの話を聞いてすぐに動いてくれたのがギルドマスターだったらしい。
ローレッタはことの経緯を先程クラウディが話した内容も含めて説明した。クラウディも半ば帰りたいと思いながら話を補填する。
「死星と言ったのか……」
ギルドマスターは頭を抱えた。
「な、なんですのそれ?」
「君たちは関わってしまったから言うが、近頃貴族狩りを行っている大罪人のグループ『黒の軍団』だ。もう結構やられている」
驚愕するローレッタを見ながら落ち着かせるよう執事に目配せし、ギルドマスターは続ける。
「その中でも『死星』は幹部クラスと言われている。現在確認されているのは影を扱う者と魔剣士『エクロム』だ」
「そんな……まさかそれが巷で噂の……どうればいいんですかこれから。やつらの陰に怯えて生きろと?!」
ローレッタはテーブルを叩いた。手が恐怖からか震えている。ガイエンは言われて難しい顔をした。
「今はまだこの情報すら完全に出回ってません。現在は各地域の上層部には伝えるように王都でも人が派遣されているらしいですが……」
「王都が?」
「ああ、王都でも皇帝を殺ろうと来たらしいのです。最近皇帝が即位したのは聞いているかもしれませんが、しかし現皇帝はヤツらを自ら追い払ったそうです。今回は歴代でも優秀な皇帝らしくて遠方までカバーするよう尽力しているとか。ただまだ期間が浅いだけあって被害は拡大中です」
「一体なんの目的があって……」
「それですが、狙われる貴族は完全にランダムで再度狙われるにしても期間は開くと思います。なのでこちらから人材を斡旋しSランク冒険者を1人つけようと思いますがいかがか?」
貴族の令嬢はギルドマスターの説明を聞いたが、チラリとクラウディの方を見た。
「私としては実際に追い払ったこの方に護衛を引き続きお願いしたいのですが」
半ば某っと聞いていたクラウディはそれを聞いて体勢を崩した。
「ちょっと待て。流石に面倒事は勘弁してくれ……。報酬もらってさっさと帰りたいんだ。俺にはやる事もあるしDランクだぞ」
それを聞いて見るからに落胆するローレッタ。ギルドマスターは仕方ないと肩をすくめた。
「Dランクの彼には確かに荷が重いでしょう。彼はここまでとしてしばらくはここのギルド内の1室を貸しますのでSランク冒険者をお待ちください」
ローレッタは渋々了解し、Dランク冒険者に報酬を与えると受け付け嬢に奥まで案内されていった。
クラウディは報酬は後で確認しようといそいそと帰ろうとする。だがギルドマスターのガイエンに呼び止められた。
「君はクロー?て言ったか。あの『死星』と渡り合うなんて正体が気になるな。あいつらはSランクでようやく追い払えるレベルだと聞いていたが」
少女はじぃっとガイエンを見つめた。ギルドマスターも立派な体格をしており装備や風貌を見るにかなり戦ってきた人物にも見える。
「相手が油断してたんだろ……そもそも先の冒険者たちが能力を引き出してくれていなければやられていたのはこっちだ」
クラウディは相手の能力が判明したから予測を立てられたのであってそれは本当の事だった。
「後のことはお偉いさんに任せる」
彼女はそう言って足早にギルドを出た。
「言ってくれるな……」
ギルドマスターは少女が出た後に項垂れ、苦笑いした。これから忙しくなりそうだった。




