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第4話 謎の老婆①


少女は居心地の悪さにはっと目が覚めた。見慣れない木質の天井。かすかにゴボゴボと沸騰させるような音が聞こえる。


痛みが全身からしたが、構わず彼女は半身起こした。


────どこだここ?


約8畳分の部屋。材質は木でできており唯一の窓からは陽が差していた。彼女はベッドに横たわっているようだった。


見ていると額からポタリと何か落ちた。見てみるとそれはくすんで湿った布だった。ふと身体を調べると至る所に包帯が巻いてあり誰かが手当てをしてくれたようだった。


ぼうっとしていたがゴブリンの記憶を思い出し慌てて身体を調べた。患者が着るよりも粗末で薄いローブを羽織らされている。


────なんともない……のか?


女性の経験がない元男の少女は、痛みもなく違和感もない故、前知識で何もなかったのだと理解した。


ほっと胸を撫で下ろすとベッドから起き上がった。


角の机の上には少女の荷物が乗せてあった。確認するが特になくなったものはない。強いて言うなら食料と水筒がないくらいだった。ただ丸薬はあり小腹すいた少女は一つをパクリと口に放った。


ネチャネチャとする食感に苦味が加わったので窓を開けて吐き出した。


────ま、まず……


口元を拭うと部屋の唯一の扉を見つめた。人の気配はするがゆっくりで落ち着いている。


少女は息を吐くとゆっくりと扉を開けた。


リビングらしき部屋は荒い木造造りで暖炉があり、台所は石を切り出して作ってあり薪やらが積んである。そのうち一つに火がついており鍋がゴボゴボと音を立てていた。


「あら、目が覚めた?」


声がした方を見ると、テーブルの前で編み物をする老婆が揺り椅子に座って揺れていた。


────老人?


少女が首を傾げて立ち尽くしていると、それに気づいた老婆は手招きした。そんなつもりはなかったが吸い寄せられるようにそばに行く。


老婆はしわくちゃの手で少女の頭を撫でた。それはいつだったか感じた酷く懐かしいものに似ていた。


「おやおや泣かさせるつもりはなかったんだがねぇ」


気づけば少女はポロポロと涙が溢れており、元男はあたふたした。


────まじか、そんな泣くことか今の


意に反する涙を拭うと少女は口を開いた。


「ばあさんは誰だ?」


「ふふ、ばあさんね。私はフロレンスというのよ」


「俺を助けたのか?」


「俺?……まあ、いたいけな女の子がゴブリンに襲われてたらそりゃねぇ」


「手当も?」


「そりゃ私は一人暮らしだからね」


フロレンスという老婆は答えたあと沈黙が続き、不意に笑った。


「『俺』って、まるで男みたいな喋り方ね。変なの」


「それは俺がおと────」


少女は口をつぐんだ。


────今は女か


「ここはどこだ?」


元男は説明が面倒で話題を変えた。


「私の家よ」


「ここはどこにあるんだ?」


「私の家にあるのよ」


「……」


「…………」


じぃっと老婆を見つめているとフロレンスは今度は急に吹き出した。


「ごめんなさいね。面白くてつい」


老婆は涙を拭うとよいしょと立ち上がった。背丈は少女より少し低いくらいだった。腰が曲がっていなければもっと高かっただろう。


「あなた名前は?」


────名前?なんだったか


それすらも思い出せない元男はふと唯一聞いた名前が浮かんだ。


────そういえばあれはこの身体の名前だったのかもな


少女は少し考えたが、取り敢えずそのままそれを名乗ることにした。


「クラウディ」


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