第39話 シャドウvsクラウディ
「誰だお前は?」
敵は不意に現れた仮面の人間に首を傾げた。
クラウディはフードを深く被り、しゃべる必要もないため仮面の変声効果は切り、そして素早く手に剣を握る。『生命石』も既に首にかけていた。
少女は依頼主の後をつけて名乗り出るタイミングを伺っていたがここまで結局出る事はできなかった。彼女自身も、何も起きないのでこのまま帰ろうと思っていたところだった。
少女は敵を観察した。全身黒ずくめのローブに長い髪。身体からは湯気が立つように影が揺らめいていた。
────能力は影を操るというところか
少女はナイフを敵に投げつけた。ナイフは敵に刺さらずそのまま通り抜ける。
「おいおいいきなりだな」
────物理無効か……
敵は影の中へと消えた。
────光ならどうだ?
クラウディの背後の影から突然出てきた敵に『生命石』を通して光を炸裂させる。
「ぐぅ?!」
相手が怯んだ隙に左の剣で横薙ぎに体を引き裂く。しかし感触はない。少女は反射的に剣を離し手の甲で相手の顔面を殴った。さらに同時に反対の短刀で太ももを斬り裂く。
拳は直撃して敵が呻くと、再び影に入り込み距離を取った。
やはり影使いは光に弱い。魔法使いの『ファイアボール』で影が怯むのを見ていたのもあり、今の光に怯んだ事も踏まえて弱点なのは間違いない。影が多い地下街では相手が有利だろうが。
少女は剣を拾い、戦闘を頭の中で構築し光の玉をいくつも浮かべた。そして近接に持ち込もうと光の玉を先行させ、距離を縮める。
「ふざけやがって!」
影からいくつも黒い触手が出てきてクラウディに襲いかかった。しかし光に晒された触手は実体化し次々に斬り落とされ、そうでなくても避けられる。
影法師は近接戦闘を避けるように一定の距離を保って移動していく。
少女が光を飛ばして敵の足元に炸裂させ、動きを止めて斬りかかった。影法師もどこからか短刀を取り出しなんとか迫り来る刃を弾いた。そして再び距離をとる。
同じような攻防が繰り返される中
────そろそろか
「?!」
影法師は急に動きを止め地面に膝をついた。
「くそ!……毒か」
クラウディはスコット製の毒属性の短刀を使用していた。顔面の拳と同時に喰らっていた敵は時間経過で体に毒が回ったのだ。少女はどのくらいで毒が効くのかは自身の身体で実験済みだった。
さらに追い討ちをかけるように間合いに入ると光を掲げ胸に剣を突き刺した。
「光に晒された物理無効は一部分しか適応できない、ってとこか?」
突き刺した剣の周りに避けるようにぽっかりと身体に穴が空いている。少女はもう片方の剣を構えた。
「くそっ、誰なんだお前!俺を『死星』が1人と知ってのことか?!」
────シセイ?なんだそれ
「知らないな、じゃあな」
少女は敵の首を刎ねた。頭は分割され地面に落ちるが手応えがなく霧散した。捉えていた身体も影に沈んで消えた。
────逃げられたか
とある岩場────
影から人が這い出しくると地面にドッカリと倒れ込んだ。荒い息を整えてインベントリから解毒と回復ポーションを取り出してがぶ飲みする。
身体は回復して落ち着いたが影法師は項垂れた。
自身の能力があんなにあっさり看破されるとは夢にも思わなかったのだ。まるで戦ったことがあるかのような適応具合に、逆に適応できなかった。
彼はイラつき、悪態をついて地面を殴った。
「あらぁ、早かったじゃん」
影法師の頭上から甲高い声が聞こえた。その声にギクリと上を向く。
「テルミールか」
頭の左右で髪をまとめたピンク髪の小柄な少女が上の岩場から見下ろしていた。
「なんかグロッキーになってね?」
彼女はひょいと下に降りてくると彼の顔を覗き込んだ。
「やったんでしょ?ん?」
「…………」
「あらぁ?まさかぁ?夜最強の『影法師』さま失敗した?」
「うるせぇ……」
図星をついたとわかって少女はゲラゲラと笑った。
「まじい?受けるんだけど!」
少女はしばらく笑い続けピタリと止まる。そして空に向かって吠えた。
「シャドウ!失敗したってーー!!」
シャドウと呼ばれた『影法師』は慌てて少女の口を塞いだ。
「まだ失敗じゃないだろ!」
「いやいや逃げ帰ってきた時点で負けでしょ……で、誰にやられたん?剣聖?聖女?」
シャドウは嫌だったが、情報共有のため闇市での戦闘を軽く説明した。
「光を使う二刀使いね……その感じは相当な人っぽいね、はぁ。他に特徴は?身長とか声とか」
「黒髪に身長は……160くらいか?……声は……」
そこでハッと気づく。敵の声は明らかに女の声だった。
────クソ、あの女……次あったら殺す
「声は?」
「お、男の声だった」
「ふーん……?」
影法師は女にやられたと知られたら何を言われるかわかったものじゃないので慌てて嘘をついた。
「まあいいやぁ、取り敢えず帰るよん」
テルミールがそう言うと手を空に掲げる。すると大きな影が舞い降りてきて彼等はそれの背に乗ってどこかへ飛び立った。




