第38話 刺客
「上手くいって良かったねローレッタさん」
外に出た後、魔法使いのルイスはやや興奮様に言った。
「皆さんがいたおかげでなんとかなりました……ありがとうございます」
「みんなブツが手に入ったからって安心するなよ。まだ依頼は終わってないんだ」
リーダーのアギトが周囲を見ながら言う。
オークションの外には、出てきた客の手にもつ商品を狙っているのか、人影があちこちにみられ目を光らせていた。どうにかして奪ってやろうと。
しかし冒険者たちが武器に手をかけると闇市の人集りは離れていった。
そのまま警戒しながら闇市の外へと向かう。
護衛を雇っていて良かったと思いながらローレッタと執事は冒険者について行く。
しばらく歩き、外に通じる出口が見えると一行は安堵の息をついた。
違法が横行する、息の詰まる地下からようやく出られると皆足が速くなった。
だがその時、冒険者の先頭の方から何か刺さる様な大きな音がしたと思えばリーダーのアギトがその場に倒れた。
「え、なに?」
突然のことに一行が固まっている中、出口の影からぬるりと人が出てきた。フードを被った真っ黒な人だ。身体から黒い湯気のようなものが滲み出ている。
「ローレッタ殿と、お見受けする。ローレッタ・ララエル子爵?」
低い男の声がフードの奥から聞こえる。と、誰かが悲鳴をあげた。
「アギトが、アギトが……」
魔法使いのルイスがアギトを胸に抱いていた。彼の身体は痙攣し、おびただしい量の血と臓物が床に散らばっていた。ポーションを取り出して振りかけているがもう間に合わないだろう。
「はは、尋ねているのに答えないとなると……殺すしかないな。まあ見たやつはどの道殺るんだがな」
ローレッタが恐怖で動けずにいると敵が手を掲げた。
「てめー!!」
戦士のブスタクは大斧を手に突進した。戦士の『咆哮』スキルを使い武器を振るう。泣きながら魔法使いも魔法を詠唱し、アーチャーのエニドも矢継ぎ早に矢を放った。
しかしスキルは効かず、蠢く影にことごとく攻撃は阻まれ、続くルイスの巨大な『ファイアボール』も一瞬影を退けるものの、闇に飲まれて消えた。疑問に思う彼らであるが、敵が地面に手をつくと一斉に床の影から飛び出てくる影に体を貫かれた。
「ん?」
敵は冒険者たちを床に放ったあと、周囲を見渡して首を傾げた。標的の姿が消えていた。
「シっ……静かに」
ローレッタは口元を抑えられ、恐怖に慄いていた。冒険者たちが敵と対峙する間、急に背後から手が出てきたかと思えば暗がりに引きずられたのだ。
ふと目の前に、少しの間ギルドカードを見せられる。よく見えなかったがランクDの冒険者だった。
────確かもう1人冒険者がいるって
「ローレッタさまお静かに」
執事の囁き声がし、状況を理解したローレッタは頷いた。手が離されるとチラリと冒険者を見た。
仮面を被った青年のようだ。妙な体勢で動かない。
「動くな。ミラージュクロスで相手には姿が見えていない」
ローレッタはアイテムの事はよくわからなかったが取り敢えずひたすら祈るように息を潜めた。
敵は周囲を見渡し影を四方に伸ばしているようだった。徐々に前に出てきて出口から離れている。
冒険者たちは地面に転がりピクリともしない。ジワジワと広がる血溜まりにローレッタは目を背けた。
やがてさらに細かく影が伸びてくるのを見た青年は舌打ちし、何やら執事に耳打ちすると何かをくぐる仕草をし立ち上がった。
その瞬間に執事が、冒険者に声をかけようとした主人の口を塞ぎ、抱えるようにして出口の方へ向かった。
「ちょっとなんで?!」
階段を中腹まで駆け上がった執事がようやく主人を降ろしたとき、ローレッタは声を荒げた。
「あの人が時間を稼いでくれるそうです」
「……は?あの人はDランクだったのよ?!Cランク4人でも無理だったのに!」
執事にはそう言って戻ろうとするローレッタの肩を掴んだ。
「ララさま」
古くからの愛称で呼ぶとピタリと止まる。
「力のない我々が行ったところで何も出来ませぬ」
「でも!あたしのせいで人が、人が……」
執事はもう一度愛称を呼び顔を真っ直ぐ向かせた。ローレッタの目には涙が溢れており、民を想う心が見て取れた。
「我々には必要としている多くの民がいるのです。それをお忘れなきよう…………さあいきましょう」
ローレッタは尚も泣いていたが引かれる手には抵抗はなかった。




