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第37話 闇市オークション







『闇市』への道はいくつもあるが一行はとある路地の倉庫から入った。入り口はそこの倉庫玄関の石畳を跳ね上げられるようになっており、冒険者のアギトがどうにかして開くと階段が現れる。


「あなたたちは何度か行ったことがありますの?」


ローレッタは階段を降りながら冒険者に言う。


「俺たちは何度か来ているがほんの数回だ。かなり広いから迷子になるなよ」


階段にはいくつか松明が灯っており、建物でいう5階分くらいの距離を降りると不意に広い空間に出た。


見た感じは地上と同じようなレンガ造りの建物がいくつも並んでいる街並み。街灯はいくつもあり霧がない分遠くまで見渡せた。


「ここが地下街『闇市』」


人が多く絶えず争う声が聞こえた。人混みの中には頭から耳の生えた亜人だったり果ては2足歩行のモンスターまでいた。


極め付けは首輪をつけられた人が地面を四つん這いになっている。


ローレッタは蠢く闇に息を呑みながら冒険者たちと進んで行った。


彼女はとある情報筋から入手した地図を取り出した。ばつ印がある所がオークション会場で目印はなぜか3つ連続で並ぶ街灯だった。


その旨をみんなに伝えて進んでいく。


ローレッタは辺りを仕切りに見渡した。何かの骨を売るものや怪しげな薬剤、見たことない生き物、臓器など吐き気を催すようなものまで売っている。


冒険者たちは時折何かに興味を示しては仲間内で何か話しているみたいでこういう光景には慣れている様子。


「ローレッタ様、堂々となされて下さい」


執事が主人の落ち着かない様子を見てか耳打ちする。


────わかってるけど……怖い


彼女は執事の袖を掴んで進んで行った。


「あ、あれじゃない?」


魔法使いのルイスが言い、指差した先に3つ並ぶ街灯が見えた。


そこまでいくと辺りを見渡す。


「オークション会場はこちらですよ」


不意にカエルのような顔の人間が暗がりから出てきて短い悲鳴をあげる一行。


カエルは一行が落ち着くと街灯の真ん中を歩き姿を消した。


「幻視魔法か」


アーチャーのエニドが街灯を触りながら言った。触ると言っても手が途中から消えている為、触れてはいない。


「ローレッタ様行きましょう」


尻込みするローレッタに執事のクルメルは背中を押した。


彼女はごくりと生唾を飲み込んで中に入った。


中は薄暗く、階段状の席が扇形に広がって中央下にはステージがあるようだ。観客席は人影がひしめき合い異様な空気を纏っている。


そして丁度始まるところで客席から歓声が上がった。ローレッタたちは入り口付近で彼女を真ん中に挟むように配置した。


ステージがライトアップされ、全身黒ずくめの仮面を被った男性が出てきた。


「本日は遠路はるばるやってきていただいた方々、わざわざ時間を調整してくださった方々大変長らくお待たせしました。これより『闇市オークション』を開始させていただきます」


オークションが開始され最初の商品が運び込まれる。何かの骨のネックレスのようである。


「これは呪われた品。『ハインリートの首飾り』となります。そこそこの使い手の魔法使いの指の骨を集めて作ったものです。特殊な方法で作られたこの品は骨一つ一つに魔法が込められていて持ち主の魔法を使えるとか」


それを聞いた魔法使いのルイスは気色悪いと呟いた。


「この品は50万ユーンから開始します」


司会が言うと客たちの競り落としが始まる。


「55!」


「60!」


「63!」


「70!」


複数人が挙手し結局仮面をつけた老人が82万ユーンで落札した。


「ああいうじじいは何に使うんだろうな」


戦士のブスタクは首を傾げた。


「おそらく骨董品のコレクターなんだろう。何に使うわけでもなくただ集めたいんだ」


リーダーのアギトが肩をすくめた。それを聞いたブスタクは理解出来ないと首を振る。


オークションは続いていき骨董品やらよくわからないジャンク品など多くのものが出で落札されていった。


「さて、続いては世にも不幸な人間『ウロノリア・ワーズ』です」


出てきたのは鎖に繋がれた人間だった。まだ10代前半の子供であるが、整った顔立ちと美しい金髪が特徴だった。


それを見たローレッタは顔が青ざめる。ウロノリアは昨年没落した貴族であり、没落と同時に姿を消したと言われていた。


────こんなところにいるなんて……


「昨年没落した貴族ウロノリアの令嬢ワーズです。没落はしていますが教養はしっかりとしており、使用人としてもよし、慰み者にしてもよし。これは500万ユーンからスタートとします」


説明に会場が一瞬静まり返るが次の瞬間には我先にと金額を掲げていく。


異様な光景にローレッタたちは恐れ慄いた。


商品となる少女は表情ひとつ変えず俯いていた。


「8000万ユーン!他いませんか?!いませんねー!落札です!」


そして落札したのは金銀のアクセサリーで着飾った薄汚い小太りの中年男性だった。興奮しており少女を寄越せとすぐに受け取ると半ば引きずるようにして出て行った。


「ローレッタさま気をしっかり」


執事が主人の青い顔を見て言った。冒険者たちも何も言わず静かになっていた。


「さて、お次は目玉商品のひとつアーティファクト『エベレルストール』!!」


司会の言葉にはっと顔をあげるローレッタ。台の上に乗った金色の球体を見て、執事に『本物』だと目配せしフードを被った。


「とある秘宝であるこの遺物は然るべき用途であれば繁栄を約束し、民を守ってくれるという」


商品の説明を始める司会者。そこここでどよめきの声が聞こえてくる。


「さあてまずは1億ユーンから!!」


しかし誰も声を上げない。


────思った通り


遺物であるそれは遥かに価値があり、皆測りかねているのだ。誰かがその価値を示すまで。


しばらく司会が声をかけていたが中々競る人が出ない。


「1億1000万」


ようやく出てきた金額。すると他のひとも少しずつ値を上げて提示してくる。


「2億2千万!!他いませんか?!」


ようやく落ち着いてきた頃、ローレッタは手を挙げた。


「5億」


落ち着いた口調で決めにいく。しんと静まる会場。冒険者たちも口をあんぐりと開けている。


価値を測りかねる代物。恩恵が本当にあるのか、あったとしてもそれは安全なのか。オークションの品を巡って争うことなんてよくある事だ。


その危険を鑑みてこの値段以上を提示するものはいなかった。


「他いないようなので5億ユーンで落札とさせて頂きます!!」


観戦が上がり、ローレッタは緊張が解かれて胸を撫で下ろした。






「こちらが商品になります」


その後もオークションは続き、終わったのは時間にして夕暮れ時だった。金を払い、商品を受け取ったローレッタは本物であることを確認しアーティファクトを胸に抱きしめた。金色の両掌大の球体が僅かに輝く。


「どうぞまたいらして下さい。あなたのようなお得意様は大歓迎ですよ」


ローレッタはそう言う司会者を睨みつけた。睨まれた男はその形相にたじろいだ。


────いや、この人が悪いわけじゃない


「帰りましょう」


執事と冒険者に言い、一行はオークション会場を後にした。

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