第36話 ローレッタ・ララエル子爵
ローレッタ・ララエルは王都へと続くエイギレスト関所領を統治する子爵である。
幼くして両親を失ったが、執事のクルメールイスと共に四苦八苦しながら領地を収めてきた。
領地自体はそこまで大きくはないが王都へと続く関所を守る重要な立ち位置ではあった。
これまで何とかやってこれていたが、とある日に大切な物を盗まれる。
『エベレルストール』という国防アーティファクトだ。
アーティファクトには様々なものがあるが、これは国の繁栄促進に加え、邪悪な者から守るといわれる結界を張るというものだった。
厳重に屋敷の奥に保管していたが大勢の客を招いた時に無くなっていた。
その時からモンスターの被害も増え始め貴重な商団の足も徐々に減りつつあった。財源を切り崩してなんとか現状維持出来ているがこのままでは衰退していく一方だろう。
そうなれば王都からの信頼もなくなり爵位の剥奪もあり得る事だった。
故に王都に使者を送るのは最終手段としていた。
盗まれたアーティファクトはかなり探した結果、とある情報筋から『霧の街レイボストン』の闇市に出品されるということがわかった。
執事のクルメールイス────ここでは『クルメル』と呼んでいる────と共に人目を忍んでレイボストンへと赴いていた。
ローレッタ子爵は説明をしながら目の前の冒険者たちを見回した。
貴族を狙う輩が巷で噂されており、一応は影武者を置いてきているので道中襲われることはなかった。
しかし、Cランクパーティであるという『狼煙』。屈強そうではあるが『C』という微妙な位置がより不安を掻き立てた。
────大丈夫よね?なんか不安
冒険者ギルドだけでなく他にも依頼は出していたが1番対応が早かったのが冒険者ギルドだった。
難易度でD-Cランクと付けられたのは不満だったが時間は刻一刻と迫っているので贅沢は言ってられない。
ローレッタは執事に目配せしお互い頷いた。
「目的の物はオークションに出ると聞いてます。そこで競り落とすか、出来なければ奪います」
「おいおい、貴族様なのに随分野蛮だな」
戦士のアルバクが彼女の物言いに眉間に皺を寄せた。
────うるさ……そんなこと言ってる場合じゃないのよ!
「もともとは私たちのものです。奪われたのだから奪い返すのは道理です」
思いとは裏腹に落ち着いた口調でローレッタは答える。堂々とした発言に冒険者たちはたじろぎ確かにと頷いた。
「とにかく取り引き等は私たちがやりますので、みなさんは護衛をお願いします。1人あたり金貨1枚と言いましたが追加も予定してますのでどうかご協力を」
それを聞いて気分が上がる冒険者たち。ただリーダーのアギトは腕組みし二の腕を指で叩いて唸った。
「依頼はどこまでなんだ?目的のブツを手に入れるまでか?」
言われてローレッタは視線を泳がした。もし目的のものを手に入れたとしても、また何処かで奪われるかもしれない。
しかし目の前の者たちは長くは護衛してくれるようには見えなかった。金はあるがもしもの時のために極力出費は抑えたい。
「……手に入れてやられたら意味がありませんので、手に入れたのち安全が確保されるまでとします」
「俺たちは遠くまで行くつもりはない。この街を出るまででいいか?」
明確な期限のの無い依頼にため息ついたリーダーのアギトはそう提案する。
────そう……よね
「……いいでしょう」
それでは行きましょうとローレッタは言うがふとギルドから聞いていたメンバーが1人少ない事に気づく。
どんな戦力でも多いに越したことはない。
「そういえばもう1人いると聞きましたが」
彼女が言うと顔を見合わせる冒険者たちだが誰も知らないと首を振った。
「何かの手違いでしょ。早く行こ」
魔法使いのルイスが立ち上がると皆立ち上がり外へと出ていった。




