第35話 霧の街レイボストン③
『ふふっ……お前は本当に酒に弱いな』
『だから飲みたくなかったんだ……』
────誰だったかこの女……
少女は夢から目が覚めた。天井を見つめ、某っとする。天井がゆっくりと回り出し、吐き気が襲うがなんとか耐えて立ち上がると窓を開けた。酸素の多い外の空気を吸い込んでゆっくりと吐く。
相変わらずレイボストンは霧がかっており遠くは見えない。せいぜい隣か向かいの建物が見えるくらいだった。
今の時間帯が分からず店主に聞こうと部屋の外に出て下の階に降りた。足元がふらつき途中すれ違う客にぶつかる。
「おっと気をつけな……なんだ?ははっ、お楽しみの後だったか」
「?悪い……」
ぶつかった相手が何か言っていたが気分が悪く無視した。
下の階に着くと店主がいるカウンターに座り水を頼んだ。
店主が水を出すが、少女をみてぎょっとする。
「あんたみたいな別嬪さん……この宿にいたかな?」
────なに言ってるんだ?
水をグビグビと飲み、少し落ち着くと今の時間帯を聞いた。
「今は朝だよ、ねぇちゃん」
ふと隣に宿泊客らしき身綺麗な男が座って店主の代わりに答えた。
────なんだこいつ……?
やけに距離が近くジロジロと視線を感じた少女は急に頭が冴え、自身の格好を見た。
旅人の服は腰の部分だけで、シャツははだけて、サラシも巻いておらず胸の上部分が見える。下は腰の前垂れで見えないが変な格好だった。当然仮面もしていない。
はっと辺りを見渡すと他の客もジロジロと見ていた。
────あー……
少女は席を立ち慌てて外に出た。街に霧が掛かってて良かったと安堵し、外から自分の部屋へ登って入り服を着直した。
────バレてないよな
少女はすっかり酔いが覚め、念の為少し時間を空けてから外に出ようと決めた。
「酔い止め?」
クラウディは道具屋を見つけて店主に言った。道具屋には他に中級ポーションを2つ(1本1500ユーン)と低級ポーションを5つ、他に地図を購入した。
「……幻覚作用減衰のポーションならあるけど」
「……そうか」
仕方なく少女はそれも購入し、外に出た。
地図を広げて、東に湯浴び場がありそこに向かった。途中視線を感じて辺りを見渡すも特に何もなかった。
────気にしすぎか?
クラウディは肩をすくめて湯浴び場へ足を向けた。
湯浴び場は川の近くでやっており男女で分かれていた。
迷わず無意識に男の湯の方へ向かうが、入口で自分は女だったと反対側へ向かう。
「ちょっとお兄さんこっちは女湯だよ」
と、変声した声を聞くと恰幅のいい女性番台に行手を阻まれて男の方へと否応なく押しやられた。
仕方なく男湯の中を覗くが思ったより人の数が多くとても入れそうはない。
事情を言って女性の方に行こうとしたが、そもそも元男は他の女性の身体を見るのに耐性がないのでやめた。
少女は外に出てどうするかと川のそばを歩いた。
数日体を綺麗にしておらず気持ちが悪いのでどうしても入りたかった。
と、霧に隠れる川を見て森寄りの所で水浴びする事に決めた。
どうせ100m先は見えないんだから大丈夫だろうと茂みで服を脱いで入った。
体と服を綺麗にした後は街を散策する。
薄暗い街を地図を見ながら歩き市場らしきところまで来た。ある程度人は往来し商品の値段を交渉したり文句を言ったりと言葉が飛び交っている。
クラウディは市場をゆっくりと見て回った。リンゴのような果実や、皮が棘に覆われた植物、柔らかい卵など色々あった。
薫製肉を見つけていくらか購入する。
「ちょっと!さっきと言い値が違うじゃない!」
隣の店から荒い声がした。みるとフードを被った女性が雑貨屋に文句を言っているようだった。今にも掴みかかりそうだ。身なりは質素だが身綺麗である。
その女性の側には付き人なのか似た外套を来た男が慌てて女性を引き離そうとしていた。
クラウディはその場を離れようとしたが、ふと人混みに紛れて誰かがその女性のカバンに手を入れているのが目に入った。
────スリか
少女は関わらないようにしようとしたがスリが向かってきた────これ見よがしに手に戦利品をもっている────ので思わず素早く奪った。
スリは慌てて辺りを見渡すもどこに行ったか分からないようで悔しそうに立ち去った。
少女は女性の付き人の背中にそれを投げて立ち去った。
振り返るのが見えたのでおそらく気づいただろう。
────そうじゃなければもう知らん
少女はある程度買い物は済ませることができたので宿に帰る事にした。50m前が見えない霧の街ではやや時間がかかったものの地図を見ながらなんとか帰宅する。
宿の客は特に男装した少女を気にかけることはなく、バレていないようで安堵した。
護衛依頼当日────
クラウディは早めに酒場へと向かった。
護衛依頼────
依頼主 クルメル
内容 歩く道までの護衛 5人まで募集
報酬 金貨1人1枚
適正ランク D
推奨ランク D~C
────────
依頼書を見ながら部屋の隅にて気配を消して待つ。
来る前にギルドに寄ると追加情報があり、特徴は男女の2人組で、貴族らしい。それと護衛は少女含めて5人のメンバーであるという。
しばらく待っているとそれらしき2人組が近くのテーブルへとついた。1人は背が低く声からして女性でフードを被っている。もう1人も似た格好でこちらは付き人の男性だった。
それをみて昨日スリにあった2人組だとすぐにわかった。
────すごい偶然だな
2人は気配を消したクラウディには気づいておらず、少女が話しかけようとした時4人組の冒険者が入ってきた。辺りを見渡すと依頼人のテーブルへと近づく。
「あんたが依頼人か?」
冒険者のリーダーらしき男が依頼書をテーブルへ置くと、二人組は頷いた。
2人組はフードを取り顔を出した。女性は10代半ばで茶髪。もう1人は60代くらいのスラリと背の高い執事のようだった。髪はオールバックにしており灰色となっている。
「俺たちは冒険者の『狼煙』というCランクパーティだ」
リーダーらしき男はメンバーを軽く自己紹介した。リーダーはアギトという職業が剣士のガタイの良い男性。魔法使いはルイスという女性。戦士のブスタクは筋骨隆々で大きな大斧を装備していて印象深い。そして最後にアーチャーのエニド。
そして貴族たちも説明を始めた。
────あれ、出るタイミング失ったな
少女はどうしようかと冷や汗をかいた。




