第34話 霧の街レイボストン②
────2つ目の街灯、これだな
クラウディは男の言う通りに2つ目の街灯を見つけるとその裏を覗いた。真っ暗であるが細い道が続いている。
全く初っ端からついてないなとため息を吐きながら進んでいく。物影から何か飛び出してこないかと警戒は怠らない。すこしして明かりが見え、ギルドらしい大きな建物が見えた。
周りの煉瓦造りよりも造りが丁寧で綺麗だった。大きさはローランドルのものと大差はない。看板には『ヘイルスケーリン冒険者ギルド』と書いてあった。
クラウディはドアを開けて中に入った。ドアの上についたベルがカランカランと鳴った。
中は広く明るい。テーブルがそこかしこに点在し、左右端にはクエストボードがあり正面はクエストカウンターになっている。ほぼ同じ造りだが、受け付けは中年の男の人だった。他の冒険者はちらほら見える。
「ああいらっしゃい。初めて見る顔というか人?だね」
受け付けの男性は仮面をつけた冒険者が目の前に来て顔を上げた。気怠そうな表情で頬杖をついている。
「今日はどういったご利用で?」
「依頼があれば一覧で見たいんだが……」
クラウディはギルドカードを渡した。受け付けの男は受け取るとDランクねと呟いて、カウンターの上に依頼書を置いた。
「ここら辺かな。適当に決まったらまたおいで。今は人あんまいないからゆっくりでいいよー」
「あと転移魔法とか転生系の魔法って詳しいやつはいないか?」
『転生』という言葉に反応したのか受け付けの男は急に立ち上がり少女の肩を掴んで引き寄せた。
「『転生』とかそういう類のものはあまり大きな声で言わない方がいい」
声を抑えて辺りを伺う男。特に気にする者がいないとわかって安堵する。
「なぜだ?」
少女も声を抑えた。
「『転生』とかって黒魔術とか、禁忌だとか言われてるんだよ。面倒な奴らに目をつけられると牢獄行きもあるから気をつけた方がいい」
「じゃあ『転移』は?」
「……うーんここらで使えるやつはいないだろう。王都まで行けば居るだろうが。少なくとも俺は知らん」
『憑依』系もダメなんだろうなと思い、王都に行くしかないのかとため息をついた。王都まで行くにはここから何日かかるかわからない。
「情報屋とかはいるのか?」
クラウディがそう言うと少し唸っていたが『闇市』ならと呟く。
「いやなんでもない。いいからクエストを選んでくれ」
クラウディは闇市というワードが気になったがそれ以上口を閉ざしてしまったので仕方なくテーブルについて依頼書を眺めた。
調査依頼が1件と討伐依頼がいくつか、それと護衛依頼、などなど……。
クラウディは色々眺めたが、割りの良い『討伐依頼』と『護衛依頼』、他にもいくつかを受け付けに持っていった。受け付けの男はそのうちの一枚を見てやれやれとため息をついた。
「ここがどう言う場所か知ってるか?」
「ん?霧の街レイボストンだろ」
「見つからなければ何をしてもいい街というのを覚えておけ。闇市は街の地下にある」
「急になんだ?」
手のひらを返したように話し出す男に片眉を上げた。
「この護衛依頼。おそらく闇市の護衛依頼だ。わけのわからない文はそういう隠語なんだ……まあどうせ行くなら忠告ぐらいしないと面倒起こしてもらったら困るからな」
「道は?」
「教えなくても一緒に行くんだろう。日時は……明後日か。酒場に集合らしいから気をつけろよ。詐欺とかスリとか」
「……了解」
クラウディはついでにおすすめの宿を教えてもらい、ギルドから出ると300m離れた宿『スキッティステイト』というところへ向かった。
3階建の木造の建物で、なんの料理かのいい匂いがする。
彼女はドアを押して中に入った。
中は左側にテーブルやカウンターがあり、正面には別のカウンターがあった。そこここに人がおり食事をしていた。
「あら、お客さんかい?1人?」
正面カウンターにいる恰幅のいい中年男性に話しかけるとニヤニヤと笑う。タバコを吸っており臭いが充満している。
「ああ、部屋は空いてるか?」
「んー、空いてるな角と中、どっちがいい?」
店主は顧客リストを見たあと痒そうに頭を掻いた。
「角で」
少女がそう答えるとカウンターの下から鍵を取り出した。
「1泊2000ユーンだ」
「高くないか?」
「ふん、飯つきだぞ。安い方さ。近くにギルドがなけりゃもっとぼるんだがな」
店主はそう言って肩をすくめた。
少女はそれならと金を渡して鍵を受け取った。ある程度説明を受けて彼女は部屋へと向かった。
部屋は2階の1番奥の部屋だった。鍵を開けて中に入ると質素だが、清掃された綺麗な部屋が目に入る。
クラウディは仮面を外し、部屋を確認した。
約8畳くらいの広さで窓は二つ。机が一つにランプが一つ。ベッドはあるがマットは硬かった。
荷物を机の上に置いた。インベントリは、机の引き出しの奥に入りそうな空間があったので、最低限必要なものだけ取り出して、インベントリ自体はそこに入れた。
少女は息をつくとベッドに寝そべった。
────硬い
依頼は明後日であり、1日はうろつくことが出来る。
『霧の街レイボストン』では何が起きるかわからないので早めに雑貨屋などで地図を入手し、ポーションなども揃えておきたい。あと食料品店も見て保存の効く非常食もいくら買っておかなければ。
少女は考えているとうつらうつらと眠りそうになったが、ふと食事をしていない事に気づき仮面を付け直すと部屋を後にした。
────確かギルドの近くに酒場があったはず
宿の食事は遅い時間では出すことは出来ないと言われ、仕方なく酒場を探していた。
最初のホームレスの言った通りギルドまで戻ってきて探したがなかなか見当たらず、ギルドの裏にある事に気づくまでしばらく歩いた。
近くじゃなくて『裏』と言ってくれとため息をつくがクラウディは気を取り直して中へ入った。
店内は昼間だというのに薄暗い。辺りを見渡すと中はまばらに客がいるが、別段騒がしくはない。
クラウディは端の空いているテーブル席についた。
若い女のウェイターが注文をとりにくる。
「いらっしゃいませ何にしますかー?」
「おすすめを」
金を払うと、しばらくして料理が届く。何かの肉のステーキにポテトのような揚げ物、香ばしい匂いのスープに泡だった飲み物。
元男の少女は仮面をしたままで辺りを見渡した。
────まあ気にするやつはいないか……
仮面を外して食べ始める。
ポテトは少し土の味がしたが芋は芋で、ステーキは美味いがなかなか噛みきれず飲み物で流し込んだ。
────う、これ酒っぽいな
ツンとした臭いが鼻を抜けた。少女は元男の時から酒には弱く苦手だった。
その後は酒には手をつけずガツガツと平らげた。
────ステーキには白飯が欲しいな
元男は腹をさすって少し息をつき、席を立とうとしたがふと思い直して酒も一気に飲み干した。せっかく頼んだのだからと思ってのことだった。
その後少女は宿に到着したぐらいから視界が酔いで揺れ出し、なんとか部屋に着くと暑苦しいものは取っ払ってベッドに入り込んだ。そのまま何も考えれずそのまま眠りに落ちる。




