第315話 ダンジョン攻略の宴①
宴の日────
陽が真上まで上がる頃。
ダンジョンのある神殿、およびその周辺には冒険者や商人、住人でひしめき合っていた。
アーベルには冒険者ギルドが2つあるのだが、その2つのうち特にAランクパーティである『レゾナンス』の依頼に対応した『アルカーザ』冒険者ギルドが主催で開催された。
『あ────諸君!』
ざわざわとうるさい喧騒の中『アルカーザ』ギルドマスターの声が響き渡る。魔法で拡張されており一際広がった。
ギルドマスターの肉体は筋骨隆々であり、顎髭が尖って髪の毛も逆立っていた。格好もピッタリとした服で元の世界でいうならボディービルダーのようだった。
その彼の声に辺りが静まり返る。
『もしかしたら知っている者もいるかもしれないが────この度、我々がこぞって潜っていたアーベル地下ダンジョンにて攻略者が出た!!!』
呼応するかのように歓声が上がる。その熱気に隅にいたクラウディはビクリと身体が跳ねた。
────か、帰りたい……
人混みが大の苦手な元男の少女は仲間をチラリと見た。みんな堂々としていて流石というべきか。ティリオまでがしっかりと立っている。
『そのパーティは今話題の『レゾナンス』だ!!何処にいる?!出てこーい!!』
「…………」
クラウディたちは誰もその場を動かず。そのうちに辺りがざわつき出した。
ティリオが見かねて少女の肘をつつく。
「おい、出ないと宴始まらないぞ」
「……いやこういうのは苦手で……あ、アイラ一緒に」
「リーダーだろーが」
「頼む……その……頼むお願いだ」
どうしても前に出たくない元男の少女はアイラの腕をとった。仮面はカイザックから貰っていたがそれでも前に出たくない。
じっと女戦士を見つめるが、やがて彼女は顔を赤くしてそっぽを向いた。
────やっぱりダメか……
「し、仕方ねーな……ほら行くぞ!」
アイラは少女の手を握り返すと他の2人にも声をかけて先頭に立って前に出た。クラウディも横に並ぶ。
群衆の視線が一気に集まり消えてしまいたい衝動に駆られる。
少女が完全に固まっているとアイラはため息をつき、一歩前に出た。
「てめえええぇええらぁぁぁああ!!!」
拡声魔法無しの大声量。近くにいた者は皆耳を塞いだ。
「私たちが攻略者だあああああ!!!死にてぇやつから追いついてこいやあああああああぁぁぁ!!!」
彼女の声はその場にいた全員の耳に入り、静寂を与えた。
言葉は短いが力強く、強者たる所以の強気の発言。
ただ、その静まりも一瞬であり、次の瞬間には大歓声が響き渡った。
「すっげ……」
ティリオが呟く。
「…………」
少女は耳を塞いでいたが、前列にいるレオナスパーティに気づいた。彼らももちろん視線を送っており、目が合うとウインクし拍手した。つられて拍手の波が広がっていく。
『さぁ!挨拶は終わりだ!!堅苦しいのは無し!!攻略を祝って宴だああぁぁぁああ!!!』
歓声を上回るギルドマスターの声に、さらにそれを超える歓声が響き渡りもはや公害である。
一行はたまらずそそくさとその場を抜け出した。
宴はすぐに始まり、そこかしこに出店が乱立し、人でごった返した。端々では音楽が奏でられる。
しかし、クラウディたちのうちアイラとティリオはさっさと何処かに消えてしまい、カイザックも気づけば姿がなかった。
1人になってしまった少女はどうしようかとフラフラ歩き回った。時折攻略おめでとうと肩を叩かれるが軽く会釈する程度である。それ以上の絡みもない。
────帰るか……
せっかくの宴ではあるが、1人で回るのはつまらない。
出店も色々と出ているようだが、1人だとどうしても元の世界に帰れなかったことを考えてしまい、楽しむことなど出来そうもなかった。
「あれ、クロー君1人かい?」
大通りを抜けて宿に向かおうとするとレオナスたちに遭遇する。盗賊のバッツという者以外は揃っているようだ。
「うちの盗賊はさっさと酒を飲みに行ったよ。どうかな?少し話さないか?」
レオナスは両手に串焼きやら飲み物やらを持って満喫しているみたいだ。後ろのラゼンも串を持っておりヘルムの隙間から食べるその姿が少し滑稽に見えた。
じっと見ていると彼は視線に気づいたようで少し俯いた。
それからクラウディは1人で暇だったため彼らについて行った。
テーブルがそこかしこに置いてあり、そのうちの一つにみんな座る。
「ごめんなさいね。うちのリーダーが……邪魔じゃなかったですか?」
僧侶のミレーネが申し訳なさそうにする。
「いや特にすることもないから別に……」
「いやいや主役がすることないって……はい、オーク串」
「あ、金……」
少女は串焼きを受け取ると金を出そうとした。しかし彼は首を振り受け取らなかった。
「女の子からお金は受け取れないなぁ。それよりアーティファクトは結局どうしたんだい?」
クラウディは特に隠すことでもないので領主とのやり取りを話した。
「じゃあ、そのまま使うことにしたんだね。あ、Bランクおめでとう!」
「どうも……」
「それにしてもよく生きてましたね……正直半分諦めてましたから」
「それはいうなよミレーネ……」
確かにあそこから生還するとは少女自身思ってもみなかった。それもこれもカイザックとアイラのおかげなのだが。
特にアイラには世話になったので何かしてあげたいが、生憎お金がない。
せめて感謝をもっと伝えたいがなかなか会えなくなってしまっているのでどうしようもなかった。
「マティアスたちはどうなった?」
少女は話題を変え、マティアスたちのことを聞いた。
彼らのことはレオナスに任せており、まだどうなったかを知らなかった。
レオナスは食べる手を止めてじっと少女を見た。
「彼らは今独房にいるよ」
「…………そうか」
「ああ、勘違いしないで!まだどんな処罰かは決まってないんだ────」
彼が言うには今回『レゾナンス』パーティを囮にした件やリーグット族のティリオにした事は確かに許されない事だが、その後は決死で死星と戦ったことや再編成に進んで参加したことについては情状酌量の余地があるとのこと。
「もっともそれは君の返答次第だけどね。多分近いうちにギルドの人が訪ねるんじゃないかな」
────つまり俺次第ってことか……
「…………了解」
「リーダー……」
それまで無口だったラゼンが何かレオナスに耳打ちした。すると彼は頷き席を立った。
「じゃあ僕らそろそろ行くから!宴楽しんでなよ!」
そう言って彼らは人混みに消えて行った。
「…………」
また1人になったクラウディは串焼きを食べ終えると、これからどうするかなとテーブルに頬杖をついた。




