第308話 元の世界へ────
元男の少女は2人を楽な姿勢にさせると自身のことについて洗いざらい話し出した。
中身は『アストロ』世界の住人でなく、『地球』という星から来た異世界人であること。魂だけが移動して、死んだ娘に入ったこと。
そしてもちろん元は男だったことも話したし、元の世界に帰るための旅だったことも話した。
一刻も早く帰って会いたい人がいることも……。
アイラとカイザックは口を挟まずに聞いてくれた。
「…………ようやく合点がいったな」
しばらくの沈黙のうち、ようやくカイザックが口を開いた。
「通りで俺様がお前が女だと見抜けないわけだ……中身が本物の男で男装してるならそれはなかなか難しいぜ」
「悪かったな、女じゃなくて……騙すつもりはなかった」
「仕方ねーよ。やられそうになったんならさ────ていうか、もっと教えてくれよ!」
「そうだな、もう少し聞かせてくれ、その『地球』とやらのことを」
2人は元男を責めるようなことはせず、もっと話を聞きたがった。なので軽く元の世界について話す。
この世界の馬車よりも何倍も速く走る鉄の箱や、遠くに居ても話が出来るアイテム、多種多様なゲームやそこら辺の山より大きな建物が沢山あるなどなど。
アストロとは違い、マナなんてものはなく、ほぼ全ての超常現象が『科学』で証明可能なこともチラリと話した。
正式名称では2人がわからないためなかなか伝えるのが難しいが、それを聞いて2人は驚いた表情をしていた。
「へぇ!"車"!空飛ぶ"飛行機"!へぇ!」
「マナのない世界か……考えられないな」
『地球』について話すと2人は顔を輝かせていた。反対に少女は終始落ち着かなかったが。
「それで?」
「え……」
一通り話し終えて沈黙しているとカイザックとアイラが少女を見つめた。何か待っているようだ。
「帰るんだろ?」
「あ、ああ……すまなかった。そうだった……え、とダンジョンの外に……」
少女は待たせて悪いと謝り、アーティファクトを触った。
「違うだろ」
「ん?」
「元の世界に帰るんだろ?」
「あ……」
カイザックが諭すように訂正した。
「いや、でもそんなのいつでも。それにお前らに助けられてばかりで……」
「はは……お前の話では元の身体の方は危険な状態かもしれないんだろ?」
そう、元男が『アストロ』に来てから半年以上経つ。戦闘中に飛ばされたものだから、もしかしたら瀕死になっているかもしれないし、仮に仲間が敵を倒しきっていたとしても残った身体はろくに活動出来ずにかなり衰弱していると思われる。
なので一刻も早く帰らなければならない。
「それに────さっきから帰りたくてうずうずしてんのバレバレだぜ?会いたいやつがいるって?」
「……」
図星だ。
少女は少し考え、アイラをチラリと見た。彼女は今にも泣きそうだった。必死で堪えているのか口がへの字になっている。
「ここまで1人で抱えてたんなら別にいいだろ。俺たちも何も収穫がないわけじゃないし?な、アイラ?」
迷っているとカイザックがそうフォローする。
「けっ!良いわけねぇ!良いわけねえけど……クローの好きな人のとこに帰んなきゃいけないんだろ?!もういいよ!勝手にしろよ!」
「いや、好きな人というか……なんというか」
彼女は目元を腕でゴシゴシと拭うとぶっきらぼうに言ってそっぽを向いた。
「まあ、借りは返しに来ると信じてるから2枚、羽を持っていけ。そしたら戻れるだろ」
「……ああ、了解した」
────すまないな……
少女は暴走したことは覚えていないが、意識を失っている中で少し記憶が戻っていた。今や自分がいた場所を思い出せる。
元男はアーティファクトに触れて、羽を2枚千切った。
青白い光が少女を包み、彼は帰る場所を思い浮かべた。
────行ける……
元男は2人に向き直った。
「カイザック────」
貴重な情報屋『イコール』。酒、タバコ、女好きに加えてギャンブラー。イタズラ好きで掴めない男であったが、なんだかんだで助けてくれる、そんな男。
「アイラ────」
凡庸職『戦士』でAランクまで上り詰めた努力家。その力でどれだけ助けられたか。しかし酒が大好きで賭博は雑魚。何をやるにも不器用ですぐに不機嫌になる困った女で、少女を好いてくれた数少ない仲間。寿命まで分けてくれたのに、その恩をすぐに返せないのが唯一の心残りである。
元男はそんな2人に抱きつこうとしたが、やめた。
男がそんな恥ずかしい真似など出来るはずがない。
「元気でな」
アイラがやっぱり行かないでくれと手を伸ばしたが、もう遅い。眩しい光が少女を包み込んだ。




