第307話 転移のアーティファクト
アイラが起きたのはそれからさらに半日経ってからだった。起き上がると目をこすり、カイザックが置いていた水と干し肉に気づいて真っ先にがっつく。
「…………」
「あ、クロー!……んがっ……んく!おはよー!」
彼女はクラウディの視線に気づき、急いで干し肉を呑み込んで手を振った。
「ああ……」
「へへっ……げ、カイザック!……よかったな、助かって。クローに感謝しろよ!」
続いてタバコを吸っているカイザックに目をやり、見るからに嫌そうに顔を歪めた。彼の服装はもうあのカラスのような装備でなく、いつものよれた服だ。
「余計なことをしやがって……放っとけといったのに」
「あ!てめ!人がどれだけ────」
「まあ、感謝してるさ。ありがとな」
「え……お、おう……?あれ、槍でも降るのか?」
カイザックが意外にも感謝を述べるとアイラは目が点になった。
「さて、早く食えよ。さっさと出発するぞ」
「え、どこに行くんだよ?」
カイザックが広げていた荷物を片付けだし、それを見てアイラも急いで腹を満たす。
クラウディは何も言わず2人を見ていた。
みんなの準備ができると一行は洞窟を出た。そしてカイザックが例のアーティファクトを手のひらに乗せて針が示す場所へと向かう。
少女たちのいるフロアはモンスターの死体が山のようにあって死臭があたりを充満していた。
「一体何があったんだ……ここは」
クラウディはたまらず呟くように言った。それを聞いてアイラとカイザックは顔を見合わせて苦笑いする。
「さあ、誰だろうな……ほんと」
「そうそう!気にすんなって!」
珍しく息の合った返答に首を傾げる少女。
一連の出来事をはっきりとは覚えていないので仕方のないことだが、わざわざそれを仲間に教えるようなことは2人ともしなかった。
敵の気配もないのでランタンをつけ、時々死体に躓き転びそうになりながら一行はしばらく歩き続けた。
やがて聳え立つ壁に行き着く。その壁伝いに針の指す方向を意識しながら進んでいるとやや勾配のある小さな洞窟があった。
人1人入れる程のものだ。針はそこを示しており、一行は1列になって進んでいった。
緩やかな下り坂を30mほど歩くと少し開けた、幅3mほどの丸い空間に出る。
その空間の中心には地面を切り出したかのような台座があり、その上に青白い淡い光を放つアーティファクトらしきものがあった。
「これが……」
「みたいだな。俺たち……いやお前が求めてきた物だ」
少女の言葉に差す針を見せながらカイザックは返答した。針は目の前のアーティファクトを指している。
────まじか……ついに……
元男の少女は震える手でアーティファクトに手を伸ばした。が、ふと止めて仲間を見る。
「お、俺が1番に触ってもいいのか?」
今まで散々世話になってきた仲間に了解もなく勝手な事をするまいとの思いだった。
「聞くなよ……お前のためだろうが」
「クローがリーダーじゃん。いいってはよはよ」
せっかくの雰囲気を崩すなと付け加えられる。
元男の少女は再びアーティファクトに向き直りゴクリと喉を鳴らした。
そして両手でアーティファクトに触れた。
その瞬間、とあることが頭に浮かぶ。
────『転移』のアーティファクト。使用回数は3回
おそらく触れているものについての情報だ。他にも使い方や制限などについて勝手に頭に入ってきた。
「……なるほど。これがアーティファクトか」
「はは、最初はそんなもんさ。最初に触れた奴に情報が行く。それで?帰れるか?」
「ああ……問題ない」
「え、帰れんの?どうやって?」
「馬鹿女。気づけよ。目の前のアーティファクトは『転移』の能力がある。それで帰るんだって。おそらく使用回数も1回じゃないだろ」
「流石だな……3回までだ。使うとこの羽が1枚ずつ散る」
少女が改めて仲間にアーティファクトを見せた。そのアーティファクトは約5cmほどのブローチのようで、勾玉のような形をしており、その丸まった箇所の外側に羽が付いている。
「へぇ!これがアーティファクト……初めて見たぜ……こんなに小さいんだなぁ」
「ものによるさ……それより、またモンスターが湧かないうちに帰ろうぜ?」
「あー!疲れたぜ!さっさと帰って酒飲みてー!!」
「…………」
「…………どした?クロー」
クラウディはアーティファクトを見つめたまま身じろぎしなかった。
ここまで来て何をしようと言うわけではない。ただこれから自分がしようとしていることやこれまでの経緯など、きちんと話しておくべきだと思ったのだ。
3人の他誰もいない、全てを達成した今この場所で。
「カイザック」
「ん?」
「アイラ」
「へ?」
「聞いて欲しい事があるんだ……」




