第305話 生命力の譲渡
クラウディはカイザックに力を移していき、出血は止まり、傷もほぼ治った。
少女の身体が白から元の色へ戻っていく。それに応じて外套もエルフの衣装へと変化していった。
やがて顔を離した。
様子を伺うがカイザックは目を覚まさず、生気は感じられない。一時的に体温も上がっていたが、それもまた徐々に冷えていっていた。
────く、足りない……か
少女はそう判断しさらに自身の力をかき集めて、込めようとした。それは命を削る行為だとは分かったが、そんなことはどうでも良かった。目の前の男を失うわけにはいかなかった。
その時、黙っていたアイラが手を少女の手に重ねた。
邪魔をするなと跳ね除けようとするが、何か強い力が伝わってきた。
────これは……生命力
感じた力にそう判断する。荒々しくも凄まじい勢いのあるものだ。
しかし同時にアイラが何をしようとするのか理解した。
自身の生命力をクラウディに渡しているのだ。それは寿命を削る行為と言って良い。しかも量が尋常ではない。
少女はアイラを見つめた。止めるように言うつもりだった。
だが、アイラは少女と目が合うと屈託なく笑うのだ。
元男の少女がしようとすることを否定せず、全力で推そうと。
クラウディは何も言えず、顔をカイザックに向けた。
────これだけあればもういいな
アイラからもらった生命力の塊は身体中を巡っており、少女はカイザックの額と腹に指を触れた。
力を流し込んでいき、少女とカイザックの身体を循環するように流していく。するとみるみるうちに彼の顔に生気が宿り、呼吸が一定のリズムとなって安定する。傷は完全に回復して表情も安らかになった。
元男の少女は良かったと息を吐き、アイラに目をやった。彼女は反対に酷くやつれてしまい、頭をクラウディに預けてぐったりと眠っていた。
「どうして……そこまで……」
クラウディはアイラの行動は妖刀がそそのかしたのだろうとわかっていたが、それでも何故拒絶しなかったのかと理解できなかった。
好きという気持ちだけで命を削るのだろうか。
────いや……俺もそうか
カイザックを助けるため、同じようなことをしようとした自身も人のことは言えない。
少女はアイラの頭をそっと撫でた。
結果的にみんな助かったが、少女のせいでアイラだけが寿命を半分失う形となってしまった。
取り返しのつかない事に……。




