第304話 代償の代替
『…………え?何だここ?』
アイラは先程までクラウディの横にいたが、気付けば見たことのない真っ白な空間に来ていた。
不思議と体が軽く、立ち上がって辺りを見渡す。辺りには物という物がなく、真っ白な地面とそれが続く地平線しか見当たらない。
『貴様……』
『ん?』
声がし、背後を振り返った。そこには白い和服を着た女が立っていた。和服といっても男物だが。
────ん?男か?ていうかワフクって何だっけ?
目の前の人物は白く長い髪を持ち、身長はアイラと同じくらい。しかしその頭には獣の耳が生え、腰からは二股の尾がうねうねと動いていた。
『誰だよ……ここはどこだ?』
『ここは我と主の世界────ああ、クローの剣の力の世界。と言った方がわかりやすいか』
『え?』
────何言ってんだこいつ
目の前の人物の顔がぼやけてよく見えず、話す内容も上手く理解できない。
『く、クローの世界って何だよ。クローはどこだよ』
『クローはあの男に命を捧げようとしている』
『…………は?クローが?あの男って……カイザックに?』
『そこでお前に、主の代わりに寿命を半分差し出して欲しいのだ』
突拍子のない内容にアイラは黙った。最後に少女を見たのはカイザックに口づけをする場面だった。その時は裏切られたような感覚に陥ったが、確かに少女は何かしようとした風であった。
目の前の人物の話と少女の行動を照らし合わせるに、おそらく経口で命を渡そうというのだろう。
そのシーンを浮かべて少し苛立ったが、アイラは何とか落ち着き、目の前の者の言葉を考えた。
────目の前のやつはクローの剣の力の化身というわけで、つまりクローが命をカイザックに移そうとするから、私の寿命の半分を寄越せと。
『それで合っている』
心を読んだかのように目の前の人物は言った。
『クローが命を渡すと、クローは死ぬのか?』
『そうだ』
『私が寿命の半分を差し出すと助かるのか?』
『いかにも』
『…………』
アイラの質問に淡々と答える。目の前の人物は腕組みし、指で二の腕を叩いている。
────もう、時間ねーのかな……
急ぐのかそんなイメージを受けた。
『ああ、主は渡し始めている』
『そっか……』
正直、好きな人の危機に考える時間なんて要らない────と言えば嘘になるが、それでももう少し考える時間は欲しかった。
────クローがいない世界なんて、考えられねー。カイザックとチューしちゃったけど……
しかしそのためのものならアイラは仕方ないと許した。
そしてその程度では恋情は決して消えない。
『わかったよ……持っていってくれ。私の寿命の半分でクローが助かるなら』
アイラは笑ってそう答えた。目の前の人物の口元がニヤリと嗤い、彼女に近づいた。
『貴様なら、そういうと思っていた……なら、もらうぞ』
辺りの空間が激しい光を放つ。




