第302話 クラウディ⁇vsカイザック
カイザックは地面を蹴って一瞬で距離を詰めた。間合いに入り、両の剣で素早く斬りつける。
少女は即座に反応し同じく左右の剣で弾いた。
────くそっ
彼はさらにスピードを上げ8方向から次々と斬撃を繰り出していった。だが予想以上の反応速度でクラウディは弾いていき、周辺に激しく火花が散った。
カイザックはリーチで劣っている。だが間合いに踏み込めば、本来はスピードで上回れるはずだった。だが相手は剣をやや短く持ち直し、その分取り回しを速め、互角の動きを見せている。
それでも彼は攻め続け、やがて相手は追い付かなくなったのか半歩身を引いて左の突きを避けた。
────ここ!
彼は手の内で素早く短剣を回転させて逆手に持ち換え、首筋を狙った。しかし少女は身を逸らして避け、そのまま地面に手をつくと爪先でカイザックの顎を蹴り上げた。
「ぐっ!」
バランスを崩したところに、今度は少女が短剣のやや間合いの外から攻撃を仕掛ける。
上と下、左と右あらゆる角度から別々に動く攻撃。
────これだ、これが恐ろしい!
まるで2人の剣豪を相手にしているかのような動き。攻撃と防御を同時に行う卓越した技。一体どこで鍛えればこんな動きが出来るのか。
カイザックはマナが少なかったとはいえ、奥義スキルを発動して圧倒的な力と速さになっているはずだった。しかしそれすら少女は意に返していないように見える。
────何が『無職』だクソ!
カイザックは必死に刀身を見据えて弾いていくが、あまりの手数にたまらず下がろうとした。
────だめだ、下がるな!
今までの少女の戦法で追い討ちが最も怖い。下がってしまえば負けるのは目に見えていた。
彼はなんとか隙を作るか、わざと隙を作って攻撃を誘おうとしたが、彼女の攻撃は凄まじくそれどころではない。
カイザックは危うく首筋に入っていた刃を短剣を滑り込ませて弾いた。反対の手で突きを繰り出すも相手は左足を軸に回転し外側に回避するとカウンターを繰り出す。
────ここだ!
見慣れたカウンター攻撃。
彼は待ってましたと、同じく左足を軸に回転し相手のさらに裏側に回る。
が、わかっていたかのようにクラウディは身体を沈み込ませ、刃を回避して左の剣で斬り上げた。
カイザックもそれを読んでおり同じ動きで応戦する。
しかし少女の刀身は衝突の瞬間ピタリと止まり、避けながら手首を返して大腿を斬り裂いた。
カウンターのカウンターからのフェイント。流石のカイザックも読めず痛みに呻いた。
再び距離を取りたい衝動に駆られるが、それをすれば相手の思う壺だった。
ボタボタと血が足を伝うが幸いに、傷は神経まで行ってない。
だがやはりそれでも1歩下がった。そして足を止める。
突然目の前の少女が動きを止め、虚な瞳で空を見つめていた。
何故かはわからないが好機。彼は素早く背後に回った。
────取り敢えずダメージを与えて動きを……
短剣を背中に突き出す。が、紙一重でかわされ、掬い上げるように腹を蹴り上げられた。
あまりの威力に遥か上空まで飛ばされた。
「がはっ!」
────くそ!誘われた!
そこに少女も飛び上がり追い討ちを掛け出す。
カイザックは咳き込みながら空中でなんとか体勢を整えて、再び襲う無限のような刃を弾いていく。だが弾ききれずに至る所を切り裂かれ、傷が増えていった。
やがて相手が隙だらけの彼のこめかみに剣を突き立てる。カイザックは間一髪で短剣を滑り込ませて防いだが、そのまま殴りつけられるように地面に向かって投げ出された。
クラウディは手をかざして、大きな円盤を彼の下の空に出現させた。それに激突するカイザック。
少女もそこに降り立ち無言で男を見つめた。
彼は肩で息をしながら何とか立ち上がった。詰められる前に素早く動いて相手のがら空きの脇腹を狙う。
しかしそれは作られた隙で少女は難なく弾いた。その衝撃で片方の短剣が手から離れて下に落ち、虚しくカランと音を立てた。同時に蹴り上げられ尻餅をつく。
────万事休すだなぁ……
カイザックは妖しく揺らめく白い刀身を見ながら思った。
いつか彼女を知るためにCランク昇格試験で腕試しをしたが、その後から本気でやり合っても勝てないかもしれないという考えがどこか頭の隅にあった。
あれで『無職』というのだから尚更だ。
そして極め付けはその謎の力。
人間の域を越えるその動きは、限界以上に膂力を上げるものだろうか。それだけならカイザックも引けは取らない。ただ、彼女の扱う剣捌きが相まって強者の域にまで押し上げていた。
しかも何となくだが、まだ本気ではない気がしてならない。
────ほんと……大したやつだ
奥の手の奥義の一つは通じず、かといってもう別の手はマナがないので不可。
カイザックの闇属性の短剣は当たりさえすればさまざまな状態異常を引き起こす。それは武器を介しても発動するはずだが、効いている様子もない。
それも妖刀とやらの力なのだろう。本体に当たれば効く可能性はあるが。
もはや、ほぼ動けない彼には近づいてくる少女に抗う術がなかった。
完敗だった。
やがて少女は目の前で見下ろし、満身創痍の男に剣を振り上げた。
「クロー!!目を覚ませ!!」
いつの間に下まで来ていたアイラが叫んだ。その言葉に反応したのかピタリと動きが止まる。
さらにアイラが何度も少女の名を呼ぶと表情が歪み後ずさった。耳を抑えて震える。
「…………」
カイザックはそれを見てヨロヨロと立ち上がった。今なら彼女を叩き切れるが、それが目的ではない。
彼は相手に向かって一歩近づいた。すると少女は来るなと言わんばかりに、怯えたように左腕を突き出した。鋭い切先が向けられる。
────世話の焼ける
カイザックはそんな苦しむ仲間の姿を見て残った短剣をその場に落とした。
そしてゆっくり近づいていく。そんな姿に彼女は目を見開き動きを止めた。それでも猶剣は降ろさない。
「クロー……」
カイザックも少女の名を呼んだ。そのまま近づいていき刀の切先が胸に触れた。僅かに震えており、彼は深呼吸すると刃が肉体を通るのを許して、そのまま少女を優しく抱きしめた。
「クロー……帰ってこい」
もう一度名前を呼ぶ。少しして両目を瞬かせるクラウディ。瞳に生気が宿り、震えが止まった。
「カイ……ザック?」
少しの沈黙の後ようやく少女が言葉を発した。困惑しているようで状況が呑み込めていないのだろう。
「はは……起きたか馬鹿者が……」
彼は苦笑いすると弱々しく悪態をついた。
少しの間、少女の頭を撫でていたがその手はやがて脱力し、カイザックの視界は真っ暗になった。




