第301話 影の装備
「クローを助け出す。異論はないな」
カイザックは女戦士に最終確認した。この大群の中に行くということは死も覚悟しなければならない。
「今更っ!」
カイザックは女戦士の返答にニヤリと頷き、残りのポーションを分配した。お互い低級ポーションが5本に、中級、上級1本ずつだ。
「ポーションはこれで最後だ。無くなったら死ぬと思えよ」
「はっ!上等だ!」
カイザックは辺りを見回し、インベントリから弓矢を取り出した。
いくらか遠くにグリフィンの姿が見え、たまたま射程圏内に入ったそのうちの1体に矢を放つ。
矢は敵の翼を掠め、2人の存在を気づかせた。
甲高い声を上げてグリフィンは方向を転換させると予想通りカイザックたちに突っ込んできた。
「うおぉ!!?」
「躱して乗るぞ!!」
2人はタイミングを見計い、飛び上がって躱した。
突っ込んできた敵は斜面に衝突し怯んで動きを止めた。その間にカイザックは首元に、アイラは翼に飛びついた。
「馬鹿!お前背中に乗れ!」
「無理無理無理!」
敵は驚いて強く羽ばたいた。しかしアイラが翼にしがみついていて上手くバランスが保てずそのまま墜落して行く。
それでも空気を捉えて滑空状態まで持っていくものの結局は地面に不時着した。
グリフィンは顔面から突っ込み鋭利な岩にぶつかりそのまま動かなくなった。
アイラとカイザックは何とか敵の身体をクッション代わりにしていたので、投げ出されたものの致死ダメージを負うことはなかった。
2人は急いでポーションで傷を回復し、息を潜めた。
下に降りたことで化け物の姿が正面に見えた。
光り輝く体高は5m程だろうか。かなり離れているがそれでも威圧感が凄まじい。
フロアのモンスターは化け物同士の戦いでかなり数が減っていた。
あと数十体というところだ。
カイザックはアイラを連れて近づいた。まだ気づかれていないのか、化け物が他のモンスターに気をやってそれどころではないのかわからないが、何か仕掛けるのなら今である。
────仕掛ける……?何を?
素早く動き回る化け物はあれだけの数を相手にして無傷。そんな隙のないものをどうやって相手取れというのだろうか。
カイザックは注意深く観察した。どこかに何かないかと目を光らせる。
もはや少女の原型などない化け物。目がたくさんあり、面も左右不対照で不気味。
死角もなく、正直どこから攻めていいのか不明だ。だが、やれることはやらなければならない。
────モンスターが完全にやられないうちに近づく
カイザックは取り敢えずの作戦を伝えようと背後にいるはずのアイラに目をやった。
しかし姿がない。
はっとしてモンスターの群れに目を向けた。するとその群に紛れるように彼女の姿が見えた。
「あんの筋肉馬鹿……」
カイザックは急いで向かった。
アイラは目の前に見える化け物がクラウディだと本能的にわかった。なぜだかわからないが助けを呼んでいるように見えたのだ。
────今、助けるから
いくらか戦いに巻き込まれながらもポーションで回復しつつ、アイラは化け物の近くのオーガの影に隠れながら、すぐそばまで近づいた。
そしてオーガがやられると頭を踏みつけて飛び上がる。
白い化け物の複数の目がぎょろぎょろとアイラを捉えた。その不気味な容姿と威圧に押しつぶされそうになりながらもアイラは武器を構える。
化け物は新たな敵に尾の刀を左右から素早く振り、脇腹に突き刺した。
「ぐふっ……『力溜め』────目を覚ましやがれ!!『破断』!!」
激しい痛みが襲うが、戦士は構わずスキルを発動させて斧を面に叩き込んだ。
────硬って!!
「うおおおおおおぉお!!」
アイラは雄叫びを上げ斧を振り切ろうとした。だが予想以上に硬い面は斧を弾いた。
同時に体内に入り込んだ刃が引き抜かれ、どしゃりと倒れ込んだ。
カイザックが追いついて抱き抱えると傷ついた戦士にハイポーションを飲ませて回復させる。
「が、ごほっ!!げほっ!」
「無茶をするな……」
「悪ぃ……ダメだったわ」
「ん────いや、そうでもないぞ」
2人が見ている間、周辺のモンスターを薙ぎ倒しながら化け物はのたうち回っていた。
やがて一際輝くとその化け物の面にヒビが入り、身体が崩壊して崩れ始めた。
その中から裸の人間が姿を現す。
クラウディだ。
彼女は髪が白くなっており、成り行きを見守っていると、周辺に漂う光の残滓が少女に収束し纏わりつく。
かと思えば真っ白な長い外套となり、たなびいた。目が薄く開く。
『…………』
「クロー!クロー!私だ!アイラだ!わかるか?!」
アイラが少女に向かって叫ぶ。しかし彼女の目は虚ろで反応がない。
「やめとけ」
再び叫ぼうとしたアイラの口を塞ぐカイザック。
「あいつ……俺らが誰かわかってないようだぜ」
少女の両手にはいつの間にか刀身の光る刀が握られており、殺気が放たれていた。
カイザックは立ち上がり、とある物を取り出した。
────これを使うことになるとはな
それは『呼び出しのスクロール』。スクロールの中に装備を封じ込め、必要な時に瞬時に装備できるレアな物だった。今後一生使わないと誓ったものでもある。
しかしそういうわけにもいかなくなった。
「『マクロ』」
そう呟いてスクロールを開くと、影のような物体がスクロールからいくつも飛び出し、カイザックにまとわりついた。そしてそれは形を成し装備となる。
脚には動きやすいピッタリなレギンスが装備され、無数の黒い羽がカイザックの身体に纏わりつき黒い外套のようになる。首には漆黒のスカーフが巻きつき、それを口元まで上げた。
腕にも羽がまとわりつき籠手となった感触を確かめる。足にも柔らかい丈の長いブーツを履き、軽く地面を爪先で突いた。
防御力で言えば目の前の少女より多少はマシな程度。これはあくまで装備に宿ったバフがメインになる。
────状態変わらず……まあ当然か
カイザックはインベントリから闇属性の短剣を2本、器用に手の中で回しながら両手に構えた。
「カイザック……やるのか」
「ああ、やるしかないだろ」
アイラの心配する声にそう返答する。
「お前は離れてろ」
彼は一歩前に出た。
────相手はあの天才剣士……出し惜しみはしない
「『奥義────アシュラ』」
カイザックは極限までマナを使用し、その全てを膂力に回した。彼の身体を黒いオーラが包み、剣の刀身が揺らめく。
「行くぞ、クロー」




