第3話 1人の少女とゴブリンの群れ
少女は混乱からかいくらか悪態をつき、水面に映る姿をかき消した。しかしそんなことをしても何も変わらず少女の姿がまた映し出される。
「俺は男だ……」
出来るだけ低い声を出すも、普段より高く幼い声には違いなかった。
「何がどうなってんだ……」
しばらく呆然としていたが、思考ははっきりとしてきて、頭が回転し始める。
────俺自身が変容してしまったのか……誰かに憑依してしまったのか……
すでに出来上がった状況からしても明らかに後者だった。
────あの戦闘中に起こったのか
一瞬男の自身が戦っている情景が浮かぶ、全身黒ずくめの男がピエロのような怪人と戦う様を……。しかしすぐに霧散して消えた。他にも誰かいたようだが思い出せない。さらに思い出そうとすると頭痛が襲った。
彼女は頭を抱えてうずくまった。目を閉じて収まるのを待つうちに睡魔に襲われそのまま眠りに落ちていった。
パキッと枝が折れる音がし、少女は目を覚ましてすぐに戦闘態勢に入った。幸いにも頭痛は治っている。
音のした方を注視しているとアヒルの鳴き声を何倍にも汚くした声が聞こえ、ゾロゾロと生物が4体出てきた。
全身緑色、二足歩行。鷲鼻を持ち、耳は尖っている。カエルのような目をしており、髪は生えておらず、ぼろぼろの腰布をつけている。手には大小様々な棍棒を持ちブラブラとさせていた。うち1人は小さな弓を背負っている。
────まるでゴブリンみたいだな
小説の挿絵なんかでみた生物に似ており、醜悪な外見に眉をひそめた。
彼らは少女に気付き指差してニタニタと笑った。耳障りな声が仲間といくらか話すと全員一斉に襲いかかった。
最後列のゴブリンが不器用に走りながら武器を弓に持ち替え何本か矢を放つ。
彼女は1本を剣で弾きながらあとは飛び退いてかわした。
残り3体が突進してくるが低い姿勢のまま左足を軸に体を回転させて最後列の弓ゴブリンのこめかみにナイフを突き立てた。
「ぐゃ?!」
弓ゴブリンは倒れるが、他の3匹は向きを変えて構わず突進する。少女はなんとか先頭の小柄なゴブリンを切り上げて脇にやり、やや大柄なゴブリンの振り下ろしを剣で受け止めた。本来なら躱すところだが、身体がついていかなかった。
なんとか逃れようとするが4匹目のゴブリンの体当たりに身体が吹き飛ばされた。
受け身は取ったものの直ぐには起き上がれずそれを見た大柄なゴブリンが蹴飛ばして仰向けにさせ、馬乗りになった。
両手を捕まえられ地面に磔のようになる。
少女の弱々しい抵抗に醜悪な顔が笑顔で歪んだ。
少女は辺りに視線をやり、うち2体のゴブリンは倒したことを確認した。
もう1匹のゴブリンは抵抗出来ない少女の側まで来ると同じように笑い腹を強かに殴りつけた。
彼女は痛みを堪え、腕に仕込んだナイフを何とか取り出そうともがいた。その際に腹に熱く硬いものが触れた。
それを見た元男の少女はぎょっとした。
雄の生物のソレはいきり勃ちスリスリと少女の腹を擦っていた。
彼女は小説で読んだゴブリンの生態を思い出し顔面蒼白となった。膝で思い切り蹴り上げ、何とか手を振り解きナイフを振り回した。
しかしもう1匹のゴブリンが暴れる腕を掴み、馬乗りのゴブリンがもう一度強かに少女の腹を殴った。
激しい痛みに身体が痙攣し意識が飛びそうになる。
彼らは満足そうにニタリと笑い舌なめずりをし、顔面を近づけて吐き気を催す息を吐いた。
ゴブリンたちは無抵抗の少女の身体をまさぐりはじめる。
消え入りそうな意識の中で彼女は終わったなと目を閉じた。ゴブリンの悲鳴が聞こえたところで意識が途絶えた。