第298話 追う2人②
カイザックたちはロープを伝ってゆっくりと暗闇を降りていった。
途中で千切れないかと女戦士の不安の声がしたが、もうそんなことを心配している余裕はない。
取り敢えず端まで降りるよう伝えた。
「ゆっくり行け」
さっさと滑るように降りて行こうとするのでそう注意する。端で掴み損ねて落下して死亡しましたじゃ笑えない。
2人はゆっくりと降りていき、約10分ほどでロープの端に到着する。当然だが全く下は見えない。
カイザックは足でロープを挟んでインベントリからランタンを取り出した。
少し特殊なランタンで通常より光が強いものだ。あまり用途がなくてほとんど使っていなかったが今の状況には良いだろう。
眩しいほどの灯りをつけると下から短い悲鳴が聞こえた。
「てめ、先に言えって!」
「はは……何か見えるか?」
「何って……うーん」
2人は灯りを頼りに辺りに目を凝らした。穴自体がかなり広いようで端が見えない。
ただ上を見上げると床の裏は見えるので円錐状になっているのではないだろうか。大方フロントワームが長い間食い荒らして、何かの振動で崩れて穴が空いてしまったのだ。
────十中八九、クローの技と死星のせいだろうがな
しかし技の振動で開いたのならば、どこかに壁はあるはずだ。
「少し揺らすぞー」
「え?」
カイザックは体の反動を利用して徐々にロープを揺らしていった。それに応じて見える範囲も広くなっていく。
「う、うおおぉ?おお!こえーって!」
「動くな!調整が狂う!お前はよく周り見てろ!」
振り子のように動くがかなり速度と浮遊感にアイラが叫んで動くので、カイザックは注意した。
「あ、壁だ!あるぞ!壁がある!」
「どこだ!?」
「あそこ!」
片手を離して指差すアイラ。その先に確かに何かの輪郭が見えた。
運が良く凸凹していて掴むところがありそうだ。
一か八か飛んで掴めるだろう。
その旨を伝えると「クソみたいなプランだな!」と不平を言うが合図を出す前にいち早く壁に飛び移った。
アイラは壁を掴もうとしたが掴んだ部分が崩れて落下する。
一瞬ヒヤリとしたが彼女は背中のマギルアックスを抜くと壁に叩きつけてめり込ませた。そのまま宙ぶらりんになる。
「焦らせやがって……」
カイザックも振り子を利用して出来るだけ近づき、壁に飛び移った。
アイラは彼が側に来ると壁に移り、武器を一緒に抜いてもらいゆっくりと下に降りていった。
下へ続く穴はかなり長く、さすがに手が痺れてくる。
時折ランタンをつけて下を覗き、かれこれ200mは下りたがまだ下は見えてこない。
「くっ……」
やがてカイザックの握力が尽き、手が滑って落下する。女戦士は慌てて同じように落下すると何とか彼の腕を掴んで再び武器を壁に叩きつけた。
今度も上手くめり込んでぶら下がる。
「雑魚カイザック、ヒラで少し休んどけや」
「ああ……こういう時助かるな」
「他にも役立ってんだろうが!」
そうして10分ほど手を休め、2人はまた壁を降りていった。アイラは疲れてないからと休まずにそのまま降りて行く。
壁も凸凹して掴みやすいがとても休めるような空間はなく、時折尖って飛び出ている部分が危なっかしい。
20分ほど降りて行くとやがて下の輪郭が見えてきた。
「カイザック!地面だ!」
「オーケー……焦るなよ」
さらに10分ほどして地面がはっきり見えたところでアイラは飛び降りた。少し遅れてカイザックも地面に降りる。
ランタンで辺りを照らすが全体が分からないくらいに広い。
降りた場所から50mくらい離れたところは崖となっておりさらに下へと続いているようだった。
下を覗くと僅かに岩棚の輪郭がわかるのでそこまで深いというわけではないようだ。正確なことは降りてみないとわからないが。
「いねーな、クロー……」
辺りを見回しながら呟くアイラ。
カイザックは上と下を交互に見て少女が落ちただろう距離を計算する。
────どう見てもこの下だな
突き飛ばされた少女はおそらくここよりさらに下の崖に落ちたはずだ。
カイザックはこめかみに手を当て『探知』スキルを発動させた。
波動のようなものが広がっていき、辺りの空間にいる生物を探知する。
────敵影……多数……人影……なし、か
探知範囲に反応しないということはおそらく少女は移動したに違いない。
────それか死んだか
『探知』スキルは死骸には反応しないのでその可能性はあった。しかし、少女はなかなか狡猾な部分もある故、それはないだろうと首を振るカイザック。
ただ彼の放つ『探知』はかなり広範囲であるのにそれに引っかからないのはかなり距離が離れているとみえた。
このまま崖下に降りるのも手であるが、流石に体力的にきついものがある。
「少し休憩する」
「は?!んな事言ってらんねーだろ!」
「…………はぁ、じゃあ少し移動する」
敵影からはまだ距離があったのでその場で回復しようとしたが、当然女戦士は反対したので仕方なくカイザックは適当に歩き出した。
すぐに女戦士もついてきて頻りに辺りを見回していた。
「なぁ、私の大声で呼べねーかな?」
「はは、やめとけワームの大群を呼ぶぞ」
「まじ?」
戦士職の『雄叫び』。敵のヘイトを取るスキルのことだろうが、そんなことをすればここら一体のモンスターが押し寄せてくるだろう。
仮にクローが見つかっても、出口も見つけていない状態でそれをすれば最悪の状況しか思い浮かばない。
カイザックは半信半疑なアイラに真面目にやめておくよう釘を刺し、細い岩棚を進んだ。
やがてワームが掘った名残であろう横穴を見つけて今度こそ休憩を取る事にする。
上階層で休んでからすでに数時間は経っていた。それまでの疲労も抜け切っておらず、さすがのアイラも同意し、地面にそのまま寝そべった。
「『瞑想』は使うなよ」
「わかってるよ……」
カイザックが念の為釘を刺す。
『瞑想』スキル────
アイラのみが発現させた戦士職の回復スキル。半日かけて傷とスタミナをほぼ全快させるもの。ただしその間は完全に無防備となる。
便利なスキルではあるが、敵が周りにいる状況、かつ仲間からの支援がない状態では使うのは難しい。
カイザック自身もマナが半分も回復しておらず、体調もよろしくなかった。そんな状況で襲撃にでも遭えば窮地に立たされる可能性があった。
なのでここはそれぞれ半分ずつ回復をするべきだった。
「どこにいんだよクロー……────」
アイラはぶつぶつ何か呟いていたが、そのうちにすやすやと眠りに落ちていった。
「…………こいつ寝やがった」
────まあ仕方ないか……
14階層でのダメージが半端ではなかった女戦士はかなり消耗していたようだった。ここに来るまでも動きっぱなしで仕方のない事ではある。『瞑想』スキルも使えないのなら尚更だろう。
カイザックも疲労もあり、マナを少しでも回復させるために目を閉じた。




