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第296話 その手は赤く
『起きて!』
誰かの叫び声がした。誰かは分からない。しかし聞いたことのある声だった。
元男の少女はもう少し眠っていたかったが、今度は名前を呼ぶ声がうるさく、仕方なく目を開けた。
最初に目に入ってきたのはアイラだった。遥か下の岩場に四つん這いになり見上げていた。その姿はズタボロで痛々しい。
次に少女を抱きしめている人物に目がいった。
灰色の長い髪で逞しい身体つきだ。
「カイ……ザック?」
「はは……起きたか馬鹿者が……」
苦笑いすると弱々しく悪態をつく情報屋。しかしその格好はいつものよれたものでなく、しっかりとした装備であった。カラスの羽を纏ったような漆黒の。
疲れた顔は血の気がなく、斬り傷が多く見られる。
少女は彼の抱きしめる力が強く、身じろぎする。
しかしその時、ふとクラウディの手に何か温かくてぬるりとしたものが流れてきた。
「────?」
何かと思って視線を下げる。そして目を見開いた。
少女が握っている刀、なんとその刀身がカイザックの胸を貫いていた。




