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第29話 シャドウレイン






青白い毛並みに波立つ筋肉。虎のような顔、牙は左右にも剣のようなものが伸びている。髭は異常に長くふわふわと体に沿って浮いていた。


元男が知っている虎よりも二回りは大きいそれは、しきりに細かい電撃を放ち身に纏っていた。


少女は刺激しないようゆっくりとした動きで低級ポーションを飲んだ。


脇腹の痛みが徐々に引いていく。


────こいつはやばい


もう片方の手にも剣を握る。


いつ飛び掛かってくるか予測しながら目の前の生物に集中する。


────逃げられるか?


と考えていた時、シャドウレインの口端が上がったように見え、その瞬間にゆっくりと姿を消した。


気配も完全に消える。電撃さえも。しかし目の前に確実にいる。


いつかミラージュドッグが姿を消していたが、それとは比べ物にならないステルス能力に元男の少女は驚愕した。


元男の時にも自身が気配を消したりするのは得意だったが、目の前の敵は姿を認識させながら姿を消してみせた。


ただよく見ると動く際に空間が揺らぐようなものが認識は出来る。とは言ってもおそらくそれを見ながら反応することはできないだろう。


少女は『生命石』に意識を集中し半径3m内に、吸い上げた薄い泥水の膜を張った。


敵が突っ込んで来るが水の膜が途切れたことで視覚化でき、少女は剣のような鋭利な長い牙を回避すると敵の脇腹にシミターで斬りつけた。


────硬い


刃は通らず、弾かれた。


だがこれでステルスは看破できる。


背を向けると確実にやられ、逃げられないと悟った少女は覚悟を決めた。


「やるしかない」


シャドウレインは姿を現して今度は空に向かって吠えた。すると激しい落雷が辺り一面に降り注いだ。


「っ!?」


慌てて魔法で土壁を地面から作り出し何度か防ぐが、その隙を敵が見逃すはずがなく突進して体に噛み付く。


クラウディは攻撃は予期していたので何とか剣を牙に滑り込ませて防ぐがそのまま運ばれる。ガチガチと剣と牙が鳴り火花が散った。


シャドウレインはそのまま頭を振り、岩に少女を叩きつけた。


「ぐぅっ!!」


泥水の中に突っ伏したのち激しく咳き込んだ。敵がゆっくりと近づいてくるのが目の端に見える。


────足りない


意識が飛びそうになりながら思う。クラウディはポーションを取り出そうとしたが手に力が入らず落としてしまった。


────力が足りない


シャドウレインがその様子にここぞと吠え、電撃を激しく放つ。少女はなんとか意識を保ち、マナを使い石をいくつか浮かせ電撃を衝突させて防いだ。


────()()()の力があれば


敵が攻撃が通用しないことを理解したのか唸り、先程とは違う、槍を模った電撃を形成しはじめた。


少女はそれはまずいと思い、その場から離れようとする。しかし脚が動かず膝をついた。


慌てて敵に手をかざし襲い来る雷撃を、密度の高い泥水で防いだ。当たったところから水は弾け飛び穴だらけとなった。


そして防ぎ切ったところで『生命石』の光が消え、フロレンスが込めてくれたマナが尽きたのがわかる。


マナの消失を感じとった、敵の勝ち誇った咆哮があたりに響き渡った。シャドウレインは電撃を纏いゆっくりと近づく。


クラウディは肩で息をしながら何とか両手で剣を構えた。その手はダメージと疲労でカタカタと震えていた。もう片方の手で剣を扱うほどの力がない。


────勝てない……死


そんな様子の彼女を見下ろすように敵が目の前にきた。その時────


『死んでもらっては困るのだよ』


いつか聞いた女の声が頭に響いた瞬間、少女は白くだだっ広い空間に立っていた。さっきまでの霧の立ち込める森ではない。


そして目の前に揺らぐ光が現れる。徐々に形をなしていくそれは元男の時の姿を模した。


『……少々力を貸そう』


その揺らぎが手を伸ばした。元男の少女は何も考えず某っとその手に触れた。辺りが光に包まれる。







シャドウレインは勝ち誇って人間にトドメを刺そうとした。強い者の肉を喰らい糧にするのだ。だが、不意に相手の持っている武器の刀身が淡く光り出したのを見て飛び退いた。


先程までとは雰囲気が違い、妖しい何かを感じた。魔法やオーラといったものとは違う未知の力。


人間はもう片方の手に武器を持ち、立ち上がった。そして頭を上げたかと思えば目の前に刃があった。


シャドウレインは襲い来る刃をすんでのところで飛び退いて回避し、激しい雷撃をいくつも飛ばす。


しかし先程よりかなり素早く周囲を動き回る人間を捉えられず、全て回避されてしまう。


そして人間は突然姿を消した。元々相手にしている人間は気配を消すのが上手かったが、匂いで感知していた。それが素早く動き回るので辺りに充満して感知が効かなかった。


完全に気配を見失った頃、不意に脇腹に激しい痛みが生じる。


人間が、光る刃を深々と突き立てたのだ。


シャドウレインは吠え、激しい雷撃を自分もろとも人間に食らわせる。本来なら自身に電撃は効かないが、人間が刺した2本の武器を伝って内部が激しく損傷する。


人間は吹き飛んでそのまま動かなくなった。


シャドウレインは不意に視界が暗くなるのを感じた。呼吸がままならずしきりに口内から血が滴っている。ゆっくりと人間の元に向かうが脚がふらつきその場に倒れ込んだ。


S 級モンスターであるシャドウレインは横たわったまましばらく生き伸びる方法はないかと考えを巡らしていた。しかし全く動かない身体が徐々に身体が冷たくなるのを感じ、目の前が真っ暗となってしまい、最後の息を吐くと力尽きた。


少しして、木々の間から何かが姿を現し、シャドウレインと人間を交互に見ると不思議な力で浮かばせ、何処かへ消えた。


辺りには草木の焼けこげた臭いと激しい戦闘跡を残して。

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