第22話 ランクアップとノックボア
2日後、クラウディは再び酒場で食事を摂っていた。
異世界の食事は新鮮で、どれも美味かった。オークの肉やスープは特に美味しい。
クラウディは満腹になると酒場を出て道具屋へと寄った。
そこで買い込みをしているラントルと鉢合う。回復ポーションや巻物みたいなものが腰の袋と背中の大きなカバンから突き出ている。
オークの依頼はサクッとクリアはしたみたいで、消費した分の補充に来たのだろう。しかし1人分には異常に多い。
「よく会うね」
少女に気づいてラントルが笑った。
「2回目だろう」
「出会った時含めたら3回でしょ」
ラントルはパーティで使用するアイテムを補充しにきていて、次の依頼は現地で合流することになっていると話した。
クラウディは何となく聞きながら先日使った解毒薬と回復ポーション(低級)をいくらか補充した。
回復ポーションは細かい傷は治すようだが、大きな傷は治せないらしい。大量に買うのは微妙かもしれない。
「クローはこれからどうするの?」
少女が店を出ると、ラントルも買い物を終え、クラウディに合わせて外に出た。
ラントルは大荷物であり重たそうに背中を丸めている。
「……大丈夫か?」
「うん、平気。ごめんねまたうちのやつらが」
「大丈夫だ」
並んで歩くが、しばらく沈黙がながれる。大荷物の魔法使いは歩きが遅い。パーティ全員分の買い物を頼まれたのだろう。
────パシリってやつか
「……お前たちのことはよく知らないが、あまり宜しくないように見えるな……」
少女はそんな彼女を尻目に呟くように言った。
「そうかも……けどみんな優しくしてくれるし頼ってくれるから」
「そうは見えないが」
「…………」
「…………」
おそらく彼女も『神速夜行』パーティに向いてないと気づいているのだろう。俯いてさらに歩みが遅くなった。
少女は特に話すこともなく街並みを見ながら次はどこ行くかなと考えていた。
「だったら……てよ」
しばらく沈黙のちにラントルは何かいうが少女には聞き取れなかった。
「……?」
「何でもない!じゃあ私こっちだから」
2人は並んで歩いていたが、魔法使いのラントルはそういうと横道を逸れて振り返りもせずに足早に道を曲がっていった。
それから数日はまた納屋で過ごしたり、街の外で訓練をしたりして過ごした。
いくらか金を消費したのでそろそろクエストに出ようかとギルドに行くと待っていたとルビアが言った。
ギルドカードを出すよう言われて渡すと例の水晶を持ち出してかざした。カードが白色から緑色へと変化する。ルビアはニコニコと笑いカードを本人へと返却した。
「おめでとうFランクからEランクへと昇格になります」
ルビアが拍手するとギルド内にいた何人かがおめでとうと拍手した。
「まだ2つしかクエストやってないが……」
「Fランクのボスのユニーク個体は討伐レベルが最低でもDランク相当となります。それを討伐したあなたの実力を考えてのギルドの判断です」
なるほどと、ギルドカードを見つめる。やや熱を持っているが徐々に冷えて行った。ランクのところが書き換えられてEランクとなっている。
「さっそくクエスト受けていくの?」
「ああ頼む」
ルビアはすでにいくらか候補を絞っていたらしく何枚かクラウディに手渡す。
少女が目を通していると依頼人があの鍛冶屋スコットのものがあった。
この前と同じような討伐依頼の内容だ。モンスターは違うが彼女はそれを受けた。
「いらっしゃいー」
さっそくスコットの鍛冶屋の元へ向かうと気怠い声が聞こえた。
彼は依頼書を持つ少女に気づくと怪訝な顔をし、ひょこひょこと跳ねながら彼女の目の前に来た。
「また痛いけな老人を毟り取りに来おったか!」
両手をあげて抗議の声を上げる。
「さて、行くか」
ドワーフのスコットはニコリと笑った。
スコットは実はこの間のラビラビでかなり儲けたらしく今回はEランククエストの『ノックボア』というモンスターを狩ると言うことだった。
「コイツの皮が水と火にめっぽう強いのだよ。それがそうだな3体分もあればいいが」
今回もついて行くと言って少女の隣で腕を大きく振って歩いている。
彼女の歩幅に合わせているので忙しなく足が動いていた。
「クロー!」
ローランドルの北門の正面から呼ぶ声が聞こえ、目をやるとログナクだった。その10mくらい後ろに彼のパーティと思われる冒険者が3人。
「よかった!見つけた!Eランクに上がったんだって?」
拳を握りしめてログナクは笑った。
「小僧か、なんだ2人は知り合いか?」
スコットが2人の顔を交互に見合わせる。簡単に説明すると、ほぅっ、と髭を触る。
「俺もさBランクに上がったんだ!これでみんなと気兼ねなく行ける。ありがとう!!」
ログナクは少女の手を握って激しく振った。心底嬉しいのだろう。この間まで沈んでいた同一人物とは思えない。
彼はそうだ、と荷物を下ろしてゴソゴソと何かを取り出した。
「この間のユニーク個体の素材だ。剥ぎ取れたから渡したくて。結構良いものらしいけど」
大きさは手のひら程の深い緑色の鉱石みたいなものだった。受け取ってよく見ると鉱石に見えたが、中心に宝石のようなものが見え、そこから血管みたいなのが放射状に伸びている。宝石はツルツルとしているが、血管のような枝のようなものはざらざらとしていた。
ログナクはスコットをみると意味深に目配せした。それに鼻を鳴らすスコット。
「……?まあよかったな?」
「ははっ。ああ!俺たちはこれからまたクエストに行くぞ!クローもなんか行くんだろ?お互い頑張ろうな!」
本当に嬉しいのだろうがそこまで気分が上がってないクラウディは困惑した表情で頷いた。
「またな!」
パーティの元へ戻って合流するログナク。スコットは少女を見て笑い声を上げた。
「お前さんが好意に慣れてないのが見て取れるぞ!」
『ノックボア』はローランドルから少し離れた草原に5体の群れがいたが、そこまで苦戦することなく倒した。強いて言うなら皮膚が分厚く同じ箇所に2回攻撃しなければ倒せないことくらいだろうか。
「属性武器?」
「ああ、あの小僧からもらった素材で作れる。1個しかないから1つしか作れんが」
ノックボアから素材を剥ぎ取り終わった時にドワーフが言った。少女はドワーフがログナクのことを『小僧』と呼んでいるのは、彼のことを知っているからだろうかと首を傾げた。
「なんなら作ってやる。5万ユーンで」
────え、高
「バカを言うな!本来ならその10倍は取るところだぞ」
少女が思ったことが声に出てしまっていて、それを耳にしたスコットは声を荒げた。
「属性ってそんなにすごいのか?」
彼はチラリとクラウディを見るとやれやれと首を振った。
属性武器はマナの消費なしで扱うことが出来る魔法の武器で、火がついたり凍らせたりと様々なものがありそれに必要な素材はもちろん作り手も少ないと言うことでかなり値打ちがあるものだった。
────売れば50万ユーンか……
「売るなよ」
少女の考えを察してかジロリと睨む。
「何も言ってないだろう」
「ふん、売るなら作ってやらんからな。女子と思って油断したらいかんな」
ドワーフは荷物を担ぐと怒り肩で帰る。クラウディは後を追いながら、本当に売らないから作って欲しいと説得するのに時間がかかった。




