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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第212話 第9階層フロントワーム





第9階層────


ここまでで5日掛かっているが案外早いペースで来れている。この調子なら明日までには10階層に着くのではないだろうか。


洞窟内は広いので一行は横並びで進んでいた。ティリオは地図を開き、アイラがランタンを持って照らしている。カイザックは少女の横でタバコを吹かしていた。


「10階層はどんな所なんだ?」


ヒソヒソとカイザックに尋ねる。


「んー?それは行ってみないとな」


意味ありげに笑うカイザックはタバコの煙をクラウディの顔面に吹きかけた。仮面越しであるが隙間から入ってきてむせる少女。


「何やってるんだよ、置いて行くぞ!」


ティリオが少し遅れている2人に声をかけた。少女とカイザックが追いつくと再び歩き出した。


ティリオは先程の休憩でいつのまにか身体を拭いて服も着替えて綺麗になっていた。なのでアイラも距離が近い。


「…………何か来るな」


10分ほど進んだところでカイザックが立ち止まり視線だけを動かした。前方の2人に止まるように言い、クラウディも気配を探ったが、特には何も感じない。


何が来るのかと尋ねようとしたところで足元から微かに振動がした。地面が揺れるような、元男の世界でいう深度1程度の地震が断続的に続く。


やがて大きくなっていき前方の2人も気づいたのかガイドポーターが何かに気づいたように表情を強張らせた。


「フロントワームだ!ついてないな!」


フロントワーム────

体長15m幅3mにもなる巨大なミミズのような生き物。地中に生息し、頑丈な口で土と共に生物を喰らう。


彼は慌てて明かりを消し、どうしようとあたふたとした。急に暗くなりアイラもどうすんだと声を上げている。


ミミズは光を感知出来るので素早く明かりを消したのは正解だろうが、この辺りを探るのは目に見えていた。


一行は真っ暗の中はぐれないよう手を繋ぎ、出来るだけ位置を移動した。


やがて地面を何か引きずるような音と大きな振動がし、一同息を殺して壁際に張り付いた。


引き摺る音が先程まで居た場所で止まり、何か大きなものが動くズズズという音がしばらく断続的に続く。


「なあ、もうぶった斬った方が良くないか?ノリで合わせたけどさ」


すぐ横にいるアイラが少女に耳打ちする。確かに実質Sランクである女戦士であれば倒せるかもしれない。しかし未知のモンスターに遭遇した際は出来るだけ戦闘を避けたかった。


思わぬ被害が出る可能性だってあるのだ。


「ダメだ。出来るだけ回避したい」


「……へーい」


同じく小声で返すとアイラは渋々という声音で了解した。


フロントワームは先程の場所を移動して一行のすぐ目の前を通過し始めたようだ。ミミズには呼吸器官が皮膚なので聞こえるはずがないが、何か嗅ぐような音が聞こえる。


それと共に生臭い臭いも辺りに漂う。ティリオが耐えられなかったのか少し呻いた。


ワームが気づいたのかピタリと音が止んだ。少しして機械が振動するような音がしだした。


するとクラウディはカイザックにワームと反対方向にぐんと引っ張られ、反射的にアイラの手を離すまいと強く握った。


「気づかれた!逃げるぞ!」


「あんだよ!結局じゃねーか!離してくれ!私がやる!ティリオ、明かり!!」


「よせ馬鹿!」


ティリオが慌ててランタンをつけるとアイラが少女の手を振り解いて大斧を手に持ち、カイザックの警告を無視し巨大な敵に斬り掛かった。


フロントワームは予想通りの体躯。身体の表面は湿っていてランタンの光に反射してテラテラとしていた。ミミズとは違い口は円形状で内側には鋸のような牙が円に沿うように隙間なく生えていた。


アイラが大斧を振りかぶって顔をもたげて露出した首元に叩きつけるが弾かれる。


「『力溜め』!────『破断』!」


弾かれた体勢を踏ん張って整え今度はスキルを使用して渾身の一撃を見舞する。しかし敵の身体はかなり頑丈で弾力があるのか、ぐにゃりと刃が埋まりワームをくの字にするものの、ゴムが元に戻るように身体が戻りその反動でアイラは弾き飛ばされた。


「ぐへっ!」


仲間の側の地面に背中から倒れて呻く女戦士。


「だから言っただろうが!逃げるぞ!」


カイザックが助け起こし手を引いて走る。クラウディも後を追うがティリオの足が遅く、遅れているので背負って走った。


「ティリオ、逃げ道はあるか?」


「ち、ちょっと待って」


ティリオがクラウディの背の上で地図を広げてランタンを掲げ探った。その間もフロントワームは壁に激突しながら後ろに迫っており、一行は洞窟内が揺れ崩落しないかと気が気でなかった。


「そ、そこ!左の通路に入って!」


ティリオは前方を走る仲間に叫んだ。2人は疑わずに左の通路に入り、ティリオとクラウディも続いた。


「次右!で、ちょっと戻っちゃうけど!狭い通路が左手にあるから!」


3人は彼の意図を瞬時に理解し、やや上り坂になった狭い通路を見つけると飛び込むようにして入り込んだ。寸前まで迫っていたワームの口が狭い入り口に大きな音を立てて激突し跳ね返った。


「ひぃいこえー!!こえー!」


ティリオが半泣きでクラウディの足にしがみつく。敵は少しの間狭い穴を覗くような仕草をしていたが、諦めたのか姿を消した。


気配も遠のきひとまず危機は去ったようだ。だからといって元の道を戻ろうとは思わないが。


一行は今のうちにと狭い上り坂を屈んで登って行った。リーグットであれば問題はないが、通路の高さは1.5mくらいしかないのでまっすぐ立つことはできなかった。


おそらく上の階層に続く別の道なのだろう。地面も硬く湿っていた。滑らないよう進むのでペースが遅い。


「くっそ~……奥義打つべきだったか?……いや行けると思ったんだよなぁ……」


「脳筋女が、それだから賭博も身ぐるみ剥がされるんだぞ?」


アイラが先程の件でぶつぶつ呟くのにカイザックが煽り、言い合いが始まる。


「ティリオ、この通路にはセーフポイントはあるのか?」


マティアスとの予定の日数までまだあるのでなんなら1日やり過ごしても良かった。1日あれば先程のワームも遠くに行っているだろう。


ランタンを照らすとティリオは困った顔をし地図を取り出して眺めた。


「んー、やっぱりこの通路はないんだよなぁ……お前の考えはわかるけど無理だな。大人しく迂回するしかないよ」


「…………そうか」


少女の頭にいっそこの通路で1日過ごしてはどうかと浮かんだ。少しなだらかになっているところならば休めないこともない。


壁に手をついて地面を眺めた時、ふと手に振動が伝わってきた。


────なんだ?


その振動は先程のワームとは少し違った。様子を伺っていると徐々に大きくなり何か掘るような音が聞こえた、岩でも削るようなそんな音が…………。


────まさか



クラウディは背後にいるティリオの腕を強く掴むとグイと引っ張り前に押しやった。突然のことに彼は驚き短い悲鳴をあげる。


「走れ!!ワームが来てる!!」


少女は前方の仲間に警告の声を上げた。


その瞬間に少女の5m後ろの横壁から轟音と共にフロントワームが飛び出してきた。


「う、うわあああああぁぁ!!」


ティリオが腰を抜かし必死に地面を張っていく。他の2人も顔が青ざめ、中腰のまま早く足を動かした。


フロントワームはノコギリのような牙が生えた口を回転させ凄い勢いで地面を削り迫ってくる。


よく見れば体全体が回っているのではなく、並ぶ歯の部分だけが回転しているようだ。先程聞こえた機械音はこれだったらしい。


────どうなってるその口?!


少女も必死に坂を登るが濡れて滑るので思うより早く進まない。しかもティリオも上手く進めず押し上げる形となる。


「クロー!や、やばいよ!クロー!」


「っ!」


回転する刃はもうすぐ足先まで迫っていた。


「どけ!────『投擲』!」


少女はアイラの声を聞き、ティリオを壁に押しやって飛んでくる手斧を避けた。しかしその手斧もノコギリのような歯に弾かれ、バラバラに飛び散った。


「クソっ」


アイラがダメだと悪態をつく。


少女は一か八か『生命石』を取り出し手をかざすと、意識を集中させパックリと開いた大きな口目掛けて激しい炎を噴射した。


「ぐぅおおお!!」


マナが続く限り手からを火を吐き続けた。


────だ、ダメか


マナが尽きかけても回転が止まない敵を見て万事休すかと剣の力を発動させようとする。狭い穴の中でどこまで戦えるか分からないがやるしかない。


「空気を入れろ、クロー!!」


カイザックが不意にそう叫び、少女はハッとし、残ったマナで赤熱している体内に向かって出来るだけ大きな空気の玉を投げ込んだ。


「伏せろ!」


その瞬間にフロントワームの体内が爆発し、地響きが起こる。


砕け散った岩やら敵の肉片やらが壁や一行に降りかかった。


「…………や、やったのか?」


少ししてティリオがランタンを下の方へ向けた。煙がもくもくと上がっているが敵の口は砕け散って動かず。どうやら死んでいるようだった。


「は、はは……死ぬかと思ったぜ」


「俺も……」


ティリオとクラウディはその場にへたり込んだ。


衣服が湿るがすでにあちこち汚れているので気にならなかった。一行は少しの間その場にとどまり、体力がある程度回復すると8階層へと向かった。


ティリオは焦げた臭いがする中、あれだけ怖いといっていたワームの歯をまだ使えそうな所だけちゃっかり剥ぎ取っていた。

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