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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第209話 第8階層①







一行は朝食を各々摂るとルートや注意するべき点を話し合い、荷物をまとめてセーフポイントを出た。


薄暗い洞窟が延々と続いている。


ティリオはランタンをクラウディに渡して先頭を任せ、彼はその後ろについた。そしてアイラ、カイザックと続く。


「うわっ」


「うお!?なんだ?!」


アイラが声を上げ、その声にティリオもビクリと反応した。


「いや天井から水が……」


「ふざけんな!びっくりさせんなよ。そんな薄着だからだろうが」


第8階層は7層よりも広いが、地面は硬く湿っている。天井や床に石筍が生成されており、鍾乳洞のようだった。天井から水が滴り女戦士の露出した肌に落ちたのだろう。


ティリオはインベントリから外套を取り出してアイラに羽織らせた。その姿は少し不格好であるが新鮮である。


「用意周到じゃん。別にいらねーけど」


「毎回変な声上げられたら身がもたねーよ。もう行くぞ」


一行は再び進み出した。7階層と同じでグネグネとした洞窟をゆっくり進んでいく。道はやや下り気味だったり、登り坂であったり少し起伏が激しい。


進む中で水場も幾らかあり、途中にはやや大きめの光る池があった。


「おおーすげーぜ、光ってる」


アイラが身を乗り出して水中を覗こうとし、危なっかしく思ったティリオが外套を掴んで引っ張った。それで女戦士が止まるわけはないが。


元男の少女も気になったので水中を覗き込んでみた。


水は澄んでいていつかの森で見たような苔が底に生えているのか、それが光っているようだった。


「お前ら水は持ってきているか?」


水を見て何か思ったのかティリオがみんなに尋ねた。


「いくらかはある」


少女のインベントリには最近追加したので1ℓ水袋が10個ある。水の重要性は元男の時から理解していた。サバイバルにおいて水がないと始まらない。


「水?ないない。私は酒とつまみしか持ってきてねーからさ」


アイラは自身のインベントリから酒を取り出すとカラカラと笑った。ついでに一口煽る。


「今酒は飲むなよ!」


ガイドポーターはジャンプして彼女の手から酒をひったくった。


「そう言うなよ~、ティリオ~」


「命かかってんだから控えろよ!これは没収!」


「…………カイザックはどうなんだ?」


タバコに火をつけようとしている情報屋にクラウディは声をかけた。彼は肩をすくめた。


「ポーターがいるんだから大丈夫だろ。ちなみにそこの水飲むなら煮沸しろよ。モンスターも飲むんだぜ?」


言われて改めて池の水を見たが汚くは見えない。しかし彼の言葉は聞いておくべきだろう。もっとも水の残量はまだまだあるので今は必要ない。


「────ったく、ほどほどにしろよ!」


「へいへい」


アイラはどうにかして酒を取り返したようで、頬擦りするとインベントリにしまった。


一行は再び進み出し、うねる洞窟を進んでいった。


10分ほど歩き、先頭のクラウディはふと血の匂いがしてピタリと足を止めた。気配も幾らか感じる。


「なんだよ、どうした?」


「何かいる」


「っ!まじかよ、頼んだぜお前ら!」


少女の言葉に慌ててカイザックの元まで下がるティリオ。入れ替わりでアイラが側に来た。


「見える?クロー」


「いや……近いと思うが、見えない」


少しずつ進むが中々姿は見えない。やがて少し広い空間に出て足元に何かが当たった。地面の岩に挟まっているそれは折れた杖だった。地面の色と近いので見逃していたようだ。


────いる


目の前の暗がりに誰かが倒れており、その足先が見えた。そしてその先に黒い何かが蠢いていた。


ガイドポーターから聞いていた第8階層の注意すべき生き物は、オーガ、ブラッドバッド、ブラックキャットである。


そのうち輪郭からして該当するのは4足歩行のブラックキャットだろう。


数は三匹。


こちらにすでに気づいており、唸り声が聞こえる。後ろからはティリオの短い悲鳴が聞こえた。


少女は目を離さないようその場にランタンをゆっくり置いた。


静かに両手にシミターを構える。側にいるアイラもすでに大斧を握っていた。あらかじめ決めていたフィンガーサインで合図を送り、一度眼を閉じるよう仲間に伝えた。


そしてクラウディは『生命石』を首にかけ、指先を敵の頭上へ向けた。


イメージし、黒い球を出現させる。


「3、2、1────」


色が反転し激しい閃光が洞窟内を照らした。

仮面をつけているクラウディはいち早く敵に突進する。その際に地面に冒険者らしき死体が何体か転がっているのが確認出来た。


取り敢えずそれは無視して、怯んでいる巨大な黒猫の1匹に首元に剣を突き刺した。


敵は痛みに低い声で吠え、のたうち回る。


少女はもう片方の剣を突き刺し、鋏のように引き裂いた。敵の首元から大量の血飛沫が舞い、ドタリと息絶える。


「クロー後ろ!」


アイラが叫ぶ。少女は察知しておりその場から飛び退いた。敵が地面の岩に腕を振り爪跡がつく。


ブラックキャットの体躯は体長2mはあり、黒い毛並みにしなやかな筋肉が波打っていた。


クラウディはチラリとアイラの方を見るともう1匹と交戦中であった。


再度視線を戻すと目の前の敵が威嚇の声をあげジリジリと足を近づけてきた。今にも飛びかかってきそうだ。


少女は背後の壁をチラリと見、シミターを十字に交差させ、片方の切先を敵に向けた。


そして後ろに下がる素振り見せると勢いよく飛びかかって来た。鋭利な長い牙で噛みつこうとガバリと口を開ける。


それを片方の剣で受けると、衝撃で後ろに下がりながらも開いたままの口内に差し込んだ。そして手を離し身を捩って突進を逃れる少女。


敵は口内の異物に気を取られ眼前の壁に気付くのが遅れてしまった。そのまま顔面から壁に激突し、口内に刺さっていた剣が深々と体内を貫通する。


壁に立てかかっていた猫の身体はやがてズルズルと地面に倒れ込んだ。


アイラの方も倒したようで一際甲高い鳴き声が聞こえると、クラウディの側の地面に最後の1匹がドンと激突し痙攣した。そのまま動かなくなる。


「…………お、終わった?」


カイザックの足の影からティリオが顔を覗かせた。


ブラックキャットは全部で3体。他は動く影は無かった。転がっている冒険者含め。


ティリオはおずおずとクラウディの側に来ると辺りを見渡した。


「こいつらにやられたんだろう」


彼が冒険者の死体に視線をやっているのを見て、クラウディは大猫の死体を足でつついた。


「わかってるけど、あんまり良いもんじゃないね」


首を振るとティリオは猫の死体に目をやった。大猫の死体は個体差が少しある。うち2匹は雌だった。


「素材は剥ぎ取るから冒険者の方を頼むよ」


道具を取り出すと剥ぎ取りを始めるポーター。クラウディは意見を煽るためアイラとカイザックの元へ行った。


冒険者の遺体は4つ。それぞれ見た目からして剣士、魔法使い、僧侶、ポーターだ。


黒猫に至る所を喰われており顔や性別の判明は難しい。


「こいつらはこのままでいいのか?」


「さあ良んじゃね?どうしようもないじゃん」


アイラが頭の後ろで手を組んだ。カイザックにも意見を求めるが肩をすくめた。


「筋肉女に同意だな。本来なら僧侶が浄化したりするが……今出来るとしたら荷物を漁って使えるものを探すくらいか?」


クラウディはなるほどと頷きあまり触りたくはないが荷物を漁った。荷物は寝具やら着替え、空の水筒に空の袋がいくらか。


「良いもんねーぜ?漁られた後か?」


アイラも他の遺体を漁ったが同じようなものばかりだった。ギルドカードも見当たらない。


「ギルドカードも無いなら誰かが持って帰ったのかもな。カードを持って帰って場所を教えれば『回収屋』が来れるからな」


────『回収屋』……


少女は一行が来た道の暗がりを見つめた。僅かだが誰かの気配が感じられる。


「『回収屋』とはあれのことか?」


指差すとカイザックとアイラは振り返った。すると暗がりから亜麻色の外套を羽織り、フードを被った人間が出て来た。身長は2m近くあり、背中には大きな袋を背負っている。腰には幅広の剣を下げていた。


「そいつらには触らないでおいてもらおう」


男の太い声が辺りに響く。一瞬お互いの間に張り詰めた空気が流れるが、響いた声を聞いた剥ぎ取り中のティリオが何事かと駆けてきた。


「『回収屋』かよ。死体には特に何にもしてねーよ!恐いからさっさとしてくれ」


彼は回収屋を見ると少し安堵したようでそういった。


回収屋の男は頷くと再び剥ぎ取りを行うポーターに混ざるような形で遺体を大きな袋に詰め出した。


「ここまで1人で来たのかあいつ……」


様子を見ながら少女が呟く。ここは8階層であり道中モンスターも居たはず。それをソロで潜るなんて余程の猛者では無いだろうか。


アイラが何を思ったか舌舐めずりし、大斧に手を伸ばそうとした。少女は慌てて腕を掴んで首を振る。


強そうな相手には好戦的になる性格はなんとかして欲しいものだ。


「ダメ?」


「ダメだ」


口を尖らせるが彼女はつまんねーといい腕組みして座り込んだ。


回収屋はスキルなのか魔法なのか分からないが肉片も綺麗に浮かせて回収すると立ち上がった。いっぱいになった大袋も軽々と背負う。


そしてティリオといくらか会話し引き返し始めた。


側を通り過ぎる時にフードの奥から鋭い眼がランタンの光に反射して見えた。その眼は一瞬クラウディと視線が合った。


「…………?」


回収屋はそのまま特に何も言わず後方の洞窟へと消えていった。


ティリオの方はそれからもう少し時間がかかり、ようやく剥ぎ取りが終わると3人の側まできた。


「うわ、ティリオ血まみれじゃん!寄るなよ!」


「仕方ないだろ。こういうもんなんだから」


「はは、さっきの池で水浴びでもしてきたらどうだ?」


冗談でいうがアイラがそれは良いと腹を抱えて笑い、ティリオが怒って汚れたまま抱きつこうと追いかけ回した。


「悪かったって!来んな!」


「剥ぎ取りの大変さを知れ!」


────賑やかだな

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