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第21話 シーフのライン







クラウディは次の日、昼まで納屋でゴロゴロして休むと昼食を摂りに行こうと店を探した。


ローランドルはとある領主が管理する土地で3㎢ほどの広さらしい。


店はいくつかあるが、やはり酒場へ行くことにした。


酒場には昼ということもあってどこも満席だった。ウェイターの女の子に聞くと相席なら空いているという。


案内してもらうと何処かで見たことある4人組みだった。


「あっ」


気づかれる前に退散しようとしたが冒険者パーティの1人に腕を掴まれた。


「よう久しぶりだな」


『神速夜行』盗賊のシーフのラインだ。鋭い目がニヤニヤと笑っている。


「…………」


「まあ座れよ」


クラウディは仕方なく席に座った。


「急に行っちゃうから心配してたんだよ。もう街についてたんだね」


職業『パラディン』のユーリがそう言ってウェイターを呼んだ。少女は酒は飲まないと伝えると彼は勝手に果実飲料を頼んだ。他にいくらかの食べ物も勝手に追加注文する。


テーブルには食べ散らかした料理がいくらかある。


「ご、ごめんね引き留めて」


魔法使いのラントルが苦笑いした。少し言葉を交わすと、彼らは昨日の夕方に街に到着したらしく、クラウディがいなくなったあとモンスターに遭遇したりして予定より遅れてしまったらしい。そのせいもあってか勝手に出て行ったとわかって少しそっけない感じを受ける。


「もしかして話題の新人ってクローさんじゃ?」


僧侶がマネネがユーリに言った。


「だろうね。僕たちはクローのことを知っているからね。それにしてもよく倒せたね」


「あぁ、Fランクといえどユニーク個体を2人で倒したっていう?実質Cランク-くらいのレベルだったかぁ。ボス個体だからソロだとBランクくらいか」


シーフのラインが骨で歯の間に詰まった肉を取りながら言う。


「あ、そうだ今から僕たちはランクBのオーガを狩りに行くんだけどどうかな?よければ一緒に」


ユーリが手を叩いて提案したが、少女は連日クエストに行って疲れているのでやめておくと首を振った。


「そっか、気が向いたらパーティ組もう!君なら大歓迎だからさ」


「あの、何で出て行ったんですか?失礼なことをしてしまったのでしょうか」


僧侶のマネネが言う。ユーリとマネネは距離が近く、いつかの夜のことが思い出された。


────こいつら……


少女は呆れてため息をついた。ラントルに目をやるといたたまれないのかすぐに目を逸らした。


「まあ……急いでたんだ。最初に言ったかもしれないが」


不満げであるが、彼らはそういえば確かにと頷いた。


「それならすぐに言ってくれてもよかったのに」


あの状況で言える方がすごいな。神経どうかしてる、と少女は聞こえないよう小声で呟いた。


「あー、依頼の方はいいのか?オーガだったか?」


せっかくの休日をゆっくり過ごしたい彼女はそう言った。


「急ぎじゃないけどまあ、そろそろ行こうか。お邪魔っぽいし。お金置いとくよ、奢りさ」


ユーリはそう言って席を立つと金を置いて他メンバーを引き連れて酒場を出て行く。ただラントルは何度か振り返る姿が目に入った。


クラウディはその場に残り、気に入らないメニューはそのまま手をつけず新たに注文を頼んだ。







その日の深夜、クラウディは湯浴び場よりの帰り道でふと誰かに後をつけられているのに気がついた。


────1人か……


数は1人。気配が現れたり薄くなったりと雑な気配の消し方である。


少女は自分が気づいたことを悟られないよう、歩みは変えず、いつもと違う道を適当に歩いた。


後ろの気配は雑ではあるが均一な距離を保っていた。


────俺の拠点を探してるのか


そう思ったものの、探されるほどの思い当たる節がない。もしかするとインベントリの事かとも考えたが、人前では使用しておらず。


彼女はいつまでもついてくる追跡者に仕方なく、近くの家の一層暗い影に紛れながら気配を消した。


追跡者には少女の姿が突然消えたように見え、慌てて駆け出して姿を現した。しかし少女の目の前を通り過ぎたところで首元を掴まれて地面に叩きつけられる。


「ライン……だったか?さっきから何の用だ?」


ついて来ていたのは『神速夜行』のラインだった。クラウディは彼の背中に手をまわさせて地面に押さえつける。彼は痛みに呻いた。


「くそ、いつから────」


「そんなことはいい。何の用だ」


クラウディは今度はナイフを取り出して首に当てがった。


「っ!おいおいギルド内の争いは御法度だせ?まして殺しなんかやるもんじゃない」


────お前が言えた口か?


「知るか、いいから言え」


殺気を出して僅かにナイフを引いた。ラインは肉の切れる感触に本気だと気づき、冷や汗が滲み出た。


「わ、わかった。悪かった!もうしないから勘弁してくれ。お、お前が女じゃないかと疑って跡をつけていた!言ったぞ離してくれ!」


「……もし女だったらどうしたんだ?」


「……はは、聞かなくてもわかるだろ。ただでさえ女に飢えてんだ。その顔立ちなら────」


クラウディは────俺は男だ────と言い、男の顔面を殴りつけ、離した。男は呻いて口元を拭った。そしてヨロヨロと立ち上がると少女を睨みつけた。


「次はない、行け」


ギルド内の争いは御法度。少女は本当は息の根を止めてやりたがったが、冒険者の活動は続けたいためそう言った。


ラインは悪態をつくと走り去って行った。


少し痛みつけてしまったが、Bランクの冒険者がFランクに痛めつけられたとは口が裂けても言えないだろう。


少女はふぅっと、息を吐くと宿の納屋へと帰った。


彼女はこの時、シーフのラインを殺しておくべきだったとひどく後悔することになる。

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