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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第208話 7.5階層での休息③







「遅かったな」


アイラを寝かしつけたあと、カイザックの部屋を訪れると彼はベッドサイドに座り1人でチェス盤を眺めていた。


駒はまばらに動いているが、黒の方はキングがルークと入れ替わった後なのか隅の方にキングがいる。


「アイラが面倒臭くてな……」


「はは、そうだろうな」


彼はニヤリと笑い、対面に座るよう促した。少女が座るのを確認してチェス盤面を崩して駒を並べ出す。何故か初期位置ではなく不規則に分けた。


「今更だが、駒の作りに違いがあるな」


「…………」


────こいつ


よく見たら綺麗に作られた駒とそうでない汚い駒で分けられている。


「当ててやろうか?」


「何をだ?」


クラウディは彼を睨んだ。


「こっちがあの小さなエルフが作った駒」


カイザックはリリウィスが作った、曲線が綺麗な駒を指差し


「この不細工なのがお前だろ?」


線がガタガタな駒の群を指差した。当たりだ。しかし少女は黙ったまま睨み続けた。仮面はつけているので表情はバレないだろうが、馬鹿にされているようで少し腹が立った。


「図星だな。アイラもなんか手作りを楽しみにしてたろ?さぞかし嬉しいだろうさ」


「黙れ。いいからさっさとやるぞ」


クックッと笑いを堪えるカイザックの手は駒を並べながら震えていた。


綺麗に並べ終わる頃には流石に収まっていたが。


「先攻は?」


「いいさ、お前からでいい」


クラウディが聞くとカイザックは促した。


少女はならばと、右のナイトを左上のポーンの前へ動かした。


「お前絶対最初はナイトを動かすが……何か意味があるのか?」


言いながらクイーンの前のポーンを2マス進めるカイザック。


「……さあ、何でだろうな」


最初に必ず動かすナイト。これは元男の世界で想い人が必ず動かす手だった。


『その手は意味があるのか?毎回やるが』


『ふふ、私が信頼するのはナイトだからな』


ふと思い出される会話。彼女が答えたのには意味があった。


────ナイトは俺で、クイーンがお前だったな


少女は懐かしさを感じながらも盤面を動かしていった。


チェスは遥か昔にはしばしば敵国同士で顔を合わせた時に行われる事があった。その場では仮想の戦場として扱われており、自らの駒(戦力)を代替してゲームする事があったとか。


つまりは実際の戦場として扱い、自らの兵や騎士たちを相手の力量を見ながら動かすのだ。


故に敵を取るべき盤面で動かなかったり、クイーンよりもポーンを優先してとる場面もあった。


その歴史もあり、想い人は必ず最初にナイトを動かすのだ。


頭痛が始まりだし、元男の少女はそれ以上の記憶の深追いはせず。


「ち、引き分けてしまったな」


カイザックが腕組みをしながら呻いた。基本的に彼の方が頭がいいので今では少女は3回に1回勝てるかどうかであった。今回は執拗にナイトを取ろうとする為、その隙に駒を取って行くと勝負がつかなくなってしまった。


「らしくないな」


クラウディが珍しいと付け加えると彼は片眉を上げた。


「そのナイトがなんかムカついてな」


────なんだそれ?


意味がわからず首を傾げると彼はまあいい、と再び駒を並べ出した。


「もう一回だ」







翌日────


早くに寝て早くに目が覚めたティリオは布団をはぐって伸びをした。それからのそのそ起き上がり寝巻きを着替えようと荷物のところまで行く。


が、何かに躓いて倒れ込んだ。


「痛ってー……何だよ」


肘をさすりながら何に躓いたのか振り返る。


「うお?!何してんのお前!」


仮面の冒険者が床で布団を被って眠っていた。ティリオが揺さぶって起こそうとした時に不意に部屋のドアが開いた。


「……は?」







クラウディは甲高い悲鳴に飛び起きた。敵かと思い素早く手に剣を抜き、辺りを見渡した。


まず目に入ったのは少女自身に化けているスライム。続いて腰を抜かして交互にスライムとクラウディを仕切りに見ているティリオ。


その顔は恐怖と驚きが混じった表情をしていた。


────あー……


「お、おま、おま、え?!2人?はぁ?!」


指を差して何度も顔を動かす小人は訳がわからないと後ずさった。


スライムは朝になって主人を起こしに来たのだろう。少女は手招きすると側に来たスライムに変身を解くように命令した。


すると光って縮み、緑の不定形なスライムとなる。それを見て唖然とする小さなリーグット族。


「何、なんかあったの?」


アイラが騒動に起きてきて、欠伸をしながら部屋を覗き込んだ。


クラウディはなおも驚いて口が開いたままのティリオに『プリムスライム』のことを説明した。


「────まじかよ、そんな便利なもの……いや精霊が居るなんて。これは凄いことだよ」


説明を聞くとティリオは落ち着き、腕組みをして唸った。


「そんなにか?」


「は?考えてみろよ、コイツがいればいくら悪さしようがアリバイは出来るし。奴隷として売れば自分で帰ってくるから巻き上げ放題だぜ?」


「奴隷って……思いつく事がエグくね?」


「そんくらいやばいものってわかりやすいだろ?」


────考えもしなかったな


今までそんな余裕は無かったが、言われて確かに犯罪の匂いがする。かといってやろうとは思わないが。


少女はやはりスライムのことは出来るだけ黙っているよう改めて決めた。


「ティリオお前まさか変なこと考えてんじゃねーだろうな?」


「は?何がだよ」


「スライム借りて如何わしいことしようと思ってんじゃねーか、んん?」


「はぁ?!んな訳ないだろ!ふざけんな」


ティリオが憤慨してアイラに殴りかかった。だが小さな拳は片手で簡単に受け止められる。


「あらあら可愛いでちゅね~」


「クソが筋肉バカが!」


小馬鹿にしたように女戦士が目線を合わせて、飛んでくる拳をうけとめていく。


「朝から元気だなお前らは……」


カイザックも騒がしさに起きてきて、いつの間にかドア前に立っていた。何をしているんだと呆れた表情であった。

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