第205話 第7階層②
第7階層中腹────
蟹との戦闘の後、少女も気配を探りできるだけ敵は避けたが、『ドレッドスネイク』というヘビの群れに遭遇した。
鼻面が尖っており、鉄を螺旋状に捻ったような身体をしている。体長は2mで胴は足ほどに太い。毒があるのか開いた口から見える鋭い牙から液体が滴っていた。
数は5匹。内1匹がクラウディに飛びかかった。
少女は短刀に噛み付かせると両手で振り上げて地面に叩きつけた。激しくのたうち回る蛇を足で押さえつけるようにし、素早く反対の手にも短刀を握り、口内から頭蓋に向けて突き刺した。
蛇はビクリと痙攣して動かなくなる。
それを見て蛇は距離を取りジリジリと間合いの外を動き始めた。
近づくと敵が下がり、下がると近づいてくるためもどかしい。
「面倒くせーな、『挑発』!」
アイラがスキルを発動させると蛇が目の色を変え、戦士に飛びかかった。
「お、おいおい」
かぶりつく蛇に耐えるアイラ。苦痛に顔が歪む。
「痛ててて!早く、今のうちにやってくれよ!」
クラウディとカイザックはそれぞれ蛇を引き剥がし、皮は硬いため口内から刃を通して倒していった。
全て倒し終えるとティリオが荷物から解毒ポーションを取り出してアイラに渡した。
「サンキュー!」
「無茶すんなよ……回復薬も無尽蔵じゃないんだぞ」
「だってめんどくせーんだもん。派手な技は使っちゃいけねーし」
そう、狭い洞窟では威力の高い技を使っと崩落する恐れがある。ダンジョンも地上と同じものだからとポーターは道中アイラに何回か言っていた。
アイラはポーションを飲むと伸びをし、座って『瞑想』スキルを使用した。戦士職にある回復スキルでその場に止まって座禅を組むと傷が早く治ると言うものだった。
その間にティリオがドレッドスネイクの素材を剥ぎ取っていく。
戦士の傷が完全に癒える頃に剥ぎ取りも終わり、一行は再び歩き出した。
同じような暗い洞窟が続いていき、コツコツと足音だけが響く。一行は一列に並んで進んでいくが、ティリオは不安なのかしばしば振り返った。
「ビビるなよ、大丈夫だって。私ら逃げねーって」
アイラが見かねて諭す。
「ここまで深く潜ったことないからさ……狭いし」
「リーグットにとってはちょうど良いんじゃないのか?俺たちは狭いが」
「チビって言うなよ!好きで小さいわけじゃないんだぞ!」
────チビとは言ってないが……
失言だったかと、クラウディは謝り頭をかいた。
それからはポーターの不安が幾らか軽減したのか少しペースを上げ、やがて下の階層に続く下り坂へ到着した。
「ここを降りたら8階層だぞ。途中でセーフポイントがあるはず」
ティリオはゆっくり坂を下っていき、他メンバーもそれに続いた。
崖から落ちないよう注意して下り坂を2回ほど折り返し降りていき、途中で人工的な洞穴が確かにあった。
一行がそこに入って少し進むと木製のドアが目に入る。
ドアは古いのか立てかけてあるのみで取っ手を引くだけで手前に外れた。
「なんだこれ、意味ないぞ」
ティリオが扉を壁に立てかけながら言う。中に入ると洞窟を卵状に削ったような空間になっていた。
高さ4m幅3mほどの部屋だ。円形の壁には椅子やら机がある。真ん中に焚き火の跡があるが大分時が経っているようだった。
「奥にもあるぜ……」
卵形の部屋の正面には下へ行く階段があり、小柄なティリオとクラウディが見に行くことになった。
降りると二手に分岐し、片方はまた似たような部屋になっていた。ただ今度は横向きの狭い部屋であり、寝台が一つだけある。
分岐に戻ってもう一つの道を行くとさらに分岐しており、先程と同じような部屋がある。
「なんかアリの巣みたいだな」
クラウディが言うとティリオは頷いた。
「実際8階層に出るっていう、メガアントの巣をそのままセーフポイントにしてるんだろうな」
「……大丈夫なのか?フェロモンとか……」
元男の世界の蟻はフェロモンを出して巣や獲物への道を示すという生態があったので、『アストロ』の世界でも同じなのではないかと不安になる。
「はは、大丈夫大丈夫。巣ごとに違うって話だよ。ここは見た感じ何年も経ってるっぽいし。ビビんなって!」
笑いながらティリオは少女の尻を叩いた。
「いやビビってはないが……」
お前もさっきビビってだだろうと思うが拗ねそうなので少女は言わないでおいた。
最初の部屋に戻るとカイザックとアイラにセーフポイントの全貌を説明する。
「寝室は全部で3つ。それと現在いる大きな部屋と1番奥にある水場。寝室は大して差異はないから、好きなところを使うと良い」
「了解」
「うい」
アイラとカイザックは早速奥の通路へ行き、部屋を漁りに行った。が、すぐに言い争いが聞こえる。
「仲が良いんだか悪いんだか分かんねーなあいつら」
ティリオが通路を見ながらいう。なんだかんだここまで一緒に旅をしてきたのだ。言い争いは多いがコミュニケーションの内なのだろうと最近は少女は思うようになった。
────まあ全て放置は出来ないが……
「お前はどうすんの?休むのか?外はもう夕方だと思うけど」
「飯を作る」
「お、マジ?次は何作るんだ?手伝うよ」
「あ、いや……いい。お前も少し休んでろ。出来たら知らせる」
「良いのか?働き詰めは良くないぜ?」
「大丈夫」
じゃあお言葉に甘えてとティリオは荷物を持つと奥の通路に消えていった。
「…………さて」
少女は手を擦り合わせ、インベントリから7階層で手に入れた食材を取り出した。誰も来ないことを確認しながらソレを丁寧に捌き出した。




