第203話 第7階層前
1時間もすれば素材の回収も終わり、再びティリオが先頭に立ち3人を第7階層へと案内を始めた。
「7階層はどんな所だ?」
先程の事件を忘れたく、横に並んで進みながら少女がポーターに尋ねた。彼は背も小さいので足も短く、歩を合わせるため少し足を早く動かしている。
「4階層と一緒らしい。洞窟だよ。といっても雰囲気も違ってかなり広いっぽいけど」
ティリオは立ち止まり辺りを見渡した。地図を取り出して一度確認する。クラウディも少し覗いたが、少女が持っている低階層のものより線やマークがびっしりと書き込んであって何が何だか分からない。
現在地は辺りが木々に囲まれた袋小路の場所だと思うが、マップ上で似た場所が多すぎる。ポーターが指で差しているところがそうなのであろうが。
「ここら辺か……?」
ティリオがとある大木に付着した苔を触るとまるでカーテンのように揺れた。
さながら苔のカーテンだ。それをはぐると隠れていた道が現れた。当たったのが嬉しいのか密かに拳を握るガイドポーター。
「こんなのわかるやついんのかよ?」
アイラが苔のカーテンを見ながら言う。
「だから俺らが居んの。ほら行くぞ」
大木にある苔のカーテンは縦横2mくらいのもので、めくると一回り小さい洞が出て来る。その奥の下へと続くその道は真っ暗で先が見えなかった。カーテンは濡れているので薄着のアイラが、肌が触れたのか短く悲鳴をあげた。
「…………」
「……行かないのか?」
ランタンに照らされた斜面を見下ろしたまま固まっているティリオにクラウディは首を傾げた。
「行くって……」
「なにビビってんの?」
身体を拭きながらアイラがイタズラに笑う。小さなリーグットはうるさいなと顔をしかめた。
それから彼はランタンの手持ちに紐に結び、近くに落ちていた枝を拾うと先にくくりつけた。
やはり先が見えないのが怖いのだろう、そのまま空洞に明かりを下ろしていくが、しかし先は見えず。
その結果にティリオは再び石のように固まった。
「…………」
「……俺が先に行こう。何か出るかもしれないし」
「あ、そ、そうだな。俺はお前の後ろから指示を出すよ」
動けなくなっているティリオに助け舟を出すと、彼はランタンを回収して少女に預けた。
少女は荷物をインベントリに収納して明かりをかざし、臆することなく空洞に入って行った。
────特に気配はないしな
大木の洞は滑りやすくなっているわけではない。おそらく他の冒険者パーティも利用しているのだろう。最近使った、擦ったような痕跡があった。
降りた距離は体感的に50mほどだろうか。
急勾配になっている洞を踏ん張りながら直線でズルズルと降っていくとやがてよりなだらかとなった。
後ろを振り返るとやや離れてティリオがついてきていた。後ろから早く行けとせっつかれているようで何やら言い争う声も聞こえる。
他の3人が側まで来るのを確認して、クラウディはなだらかになった空洞にランタンをかざした。
通路は緩やかに降り、不規則な木目が続いていたが今度は高さも低くなりしゃがまないと進めなさそうだった。
クラウディはその旨を後ろに伝えて今度は四つん這いになって進んでいく。
「おい、そこ位置変われよティリオ!」
「ダメだ!ポーターとして2番目以降になるわけには行かないって!」
何やらまた争う声が聞こえるが、少女は構わず進んだ。
進むことさらに30m程、地面が木製からヒヤリとした地面へと変わった。
そして少し広くなる空間に出るようで、少女はピタリと動きを止めた。
急に止まったので尻にリーグットの顔面が埋まる。
「げっ!おい、急に止まるなよ!男のケツに興味ないぞ!」
少女は後ろに謝り、ソロソロと広い空間に出て立ち上がった。
空間は2m四方の箱のようなところで、正面には下へ降りる洞窟の通路と左には人工的な横道の分岐に出る。
横道はおそらくセーフポイントではないだろうか。
「そっちはセーフポイントだ。休んでいくか?」
少女が見つめる視線の先を答えるかのように、狭い通路を抜けたティリオが側に来る。続けて悪態をつきながらアイラが、その少し後にカイザックが出て来る。
「何、セーフポイント?休んでこーぜ!こいつの相手で疲れたわ、クローのケツも拝めねーし」
「は?けつ?……よくわからないけど休んで行くか?」
首を傾げクラウディを見上げるティリオ。少女は頷いて横道に入った。
横道は上の階層のように石壁の通路になっており、5m先に木製のドアがあった。鍵はかかっておらず、取手を押すとすんなりと開く。
部屋はドアのない2部屋で構成されており、通路と同じ石壁の材質になっている。
広い部屋は小さい水場と切り出したテーブルに椅子が3脚。何も入ってない樽が3つ。部屋の4分の1を占めるもう一つの小部屋は寝台が2つある。
一同は床に荷物を置くと円を描いて座った。
「クロー、腹減ったー飯ー」
当然のように要求するアイラ。クラウディは仮面越しに睨んだ。
────家政婦じゃないんだぞ
「なにまた作ってくれるの?あのパン美味かったなぁ」
「…………」
ティリオも言うので少女はカイザックの方を見たが彼は、ははっと笑い肩をすくめただけだった。
仕方なく、しかし怠いので簡単に野菜炒めを作って鍋のままドンと置いた。各々でよそって食べるよう伝える。
「お、野菜ばっかかと思ったけど肉もあって意外と美味いじゃん」
ティリオがシャキシャキと頬張りながら感想を言う。
意外と好評なのを見ながらクラウディは箸を取り出して食べ始めた。適当には作ったが自身も食べるので味付けは良くしていた。
「それ何?その棒」
「箸だ」
「へえ!面白いな貸してくれよ」
何だか既視感を感じながらも興味を持つティリオに箸の使い方を教えるが、当然上手く扱えるはずもなく何度も落とす。
それを見ていたアイラもやりたいと言い出し、カイザックが馬鹿にするとお前もやれと、結局全員が箸を回して使い、戻ってきた時には4本になっていた。
「……おい、丁寧に扱えよ」
「わ、悪り……力んじまった」
アイラが折った張本人なのか頭を掻いて謝った。
────もう誰にも貸さん
そう決めてクラウディはインベントリに折れた箸をしまった。




