第202話 疑いカイザック
カイザックとティリオは警戒しながら姿を消した少女の方角を歩いていた。
「やれやれこんなチビと置いていかれるとは……」
「チビで悪かったな!お前の仲間もどうかしてんだろ!一言言って行くこと出来ないのかよ!」
「はは、それは同感だ」
地団駄を踏むリーグットに同意を示すカイザック。しかし少女がただ闇雲に走って行ったわけでなく、木々に痕跡を残して行っているのが分かっていたので大して心配もしていなかった。
6階層のボスは幻覚を見せるだけで大した戦闘力はない。ポーションを飲んで効果時間内であれば倒すのは容易い相手だろう。
女戦士アイラはもちろんのこと、クラウディにも不思議な力があるのだから。
────霧も晴れてきたな、これは倒したか?
ぶつぶつ文句を言いながら歩くティリオを見るが、カイザックは特に教える義理もないので静かに辿って行った。
そして足早に近づいて来る2つの人影を見てニヤリと笑う。ティリオが遅れて気づき、跳ねながら両手を振った。
「お前ら!無事だったかよ!」
アイラとクラウディが戻ってきて合流した。所々汚れているが特に外傷はなくピンピンしている。ただなにか少女の動きがぎこちない。
「アイラ!お前早めにポーション飲めよ!で、クロー!お前は何するか言ってからどっか行け!心配するだろ」
それぞれ指差して怒るティリオ。
「ごめんって……」
「悪かった……」
2人が謝るとまだ何か言いたげだったが、大きなため息をつくとボスはどうしたのかと聞いた。
2人は先程ドリムリフを倒したことを説明した。黙って聞いていたリーグットだが、ジロジロと2人を見ると口を開いた。
「素材は?」
「「えっ?」」
「素材は!?」
「あー……置いてきた」
「はぁ?!ドリムリフの素材がいくらで売れるか知らねーのかよ!早く剥ぎ取りにいくぞ!」
彼は叫んで荷物を背負い直すと2人に案内を急かした。
カイザックは進もうとするアイラはそのままに、少女の肩を掴んだ。振り返るクラウディ。
「お前ら何かあったか?」
「っ……え、いや、何もないが?」
仮面越しだが目が泳いでいるのが確認できる。
────何かあったな?
「…………そうか」
酷く気になるが置いていかれそうなので肩を離し2人の後を追いかけた。
ドリムリフの使える素材はコアのかけらと触手。それと幻覚作用を引き起こす劇物の入った胆嚢だった。
素人がやると危険だからと、死骸が転がっている場所へ来るとティリオは1人で素材の解体に入った。クラウディは手伝おうとしたが邪魔だからと追い払われた。
仕方なく下がり、その間は特にやる事はないので休憩する少女と他2人。
アイラは先程の戦闘をカイザックに話していた。少女が話したこともちゃんと交えている。
「お前なら補助なんてせずに真っ先に真っ二つにしそうだがな……」
可笑しな点でもあったのかカイザックが言うと口笛を吹く女戦士。そして彼女はニヤニヤと笑いクラウディの方をチラリと見た。
────こいつ
「実はさー、さっきクローともがごっ」
少女は何かいう前に慌ててアイラの口を塞いだ。その様子に片眉を上げるカイザック。
少女はアイラの首に腕を回し、先程のことは絶対に言わないように伝えた。彼にバレると何を言われるかわからないし、というより知られたら恥ずかしさで死んでしまう。
「えーどうしよっかなぁ、自慢してーんだよなぁ」
こそこそといやらしく笑みを浮かべる女戦士。
────言う気マンマンだなこいつ
「帰ったら金やるから」
極端に声のトーンを落とす。なぜこんなことで口止め料を払わなくてはいけないのか。
「まじ?いくら?」
「10万」
それを聞いてアイラは小さく口笛を吹いて頷いた。
「で、こいつが何だって?」
近くで声がしギクリとする2人。
「たははー、何でも!クローが盛大にこけて面白かったなーって」
────無茶ある誤魔化し方!
クラウディは何も言わずに立ち上がると1人頑張っているリーグットを、その場から逃げるように手伝いに行った。彼は当然うざがったが、出来そうなことを指示してくれた。




