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第20話 バッドラッター②





少女は侵されてない空気を、生命石のマナを使って再び纏って毒ブレスを防いだ。


同時に襲いくる突進を躱しながら斬りつける。幸いそこまで頑丈ではなく刃が通って血飛沫を上げた。


ギイっと鳴き声を上げたかと思えば今度は飛び上がって壁を走り出した。縦横縦横無尽に走り回り少女に喰らい付こうと頭を振り回す。


その度に斬りつけていき、徐々に動きが鈍って行くネズミ。このまま行けば勝てたかもしれないが、先にクラウディの方が膝をついた。急所を狙おうにも今の状態では動きながらでは難しかった。


────こいつ……毒ばら撒き過ぎだろ


傷が増えるたびに毒の瘴気が傷口から漏れ、水路内を埋めていた。安全な空気はほとんど残っておらず少女の身体も動かなくなってきていた。


最後に安全な空気を顔面に集めて肺いっぱいに吸い、マナを切った。


────この一呼吸で倒せなきゃ終わりだな


もう片方にシミターを握り相対する。


少女は足を動かそうとするが毒にやられて前に出ない。


────クソ


ネズミはその瞬間に飛びかかりブレスを吐いた。そして的の肩に噛み付く。何かが砕ける音がした。


しかし砕いたのは少女のものでなく先程逃げ出した冒険者の盾だった。


「置いて、いけるわけ……ないだろう!!」


少女はログナクが戻って来たのを見て目を見開いた。


「おい新人!やれ!なんか狙ってただろう!」


必死に壊れかけの盾で敵の牙を押し返そうと叫んだ。


「ああ、十分だ」


クラウディは下がった頭、目に突き刺さっているナイフの柄頭目掛けて思い切り蹴りを入れた。


深々とナイフが埋まり、脳にまで達したのか敵はピクリとも動かなくなった。







「死ぬかと思ったぜ……まさかユニーク個体が出るとは」


彼らは水路から急いで出て買っていた解毒薬を飲み干した。しばらくしたら身体の毒が消えて動けるようになった。


「すまん!逃げてしまって!」


お互い何も言わずに小川をぼうっと眺めていると急にログナクは頭を下げた。


クラウディは結果的に隙をついて倒せることが出来たので特に何も思っていなかった。何より生きるのが最優先なのだ、逃げるのは仕方のないことなのだろう。


そのまま何も言わないでいるとログナクはぽつりぽつりと何かを吐き出すように話し始めた。


「お前は……強いんだな。正直舐めてた。剣はいつから?素晴らしい剣だった」


「……」


────そういえばいつからだったか


思い出せるか首を捻っているとログナクは笑った。


「笑えるよな。Cランク冒険者がFランクの新人に助けられるなんて」


ログナクは顔を伏せた。


「最近『ランクアップ』もしないし『スキル』も覚えないし伸び悩んでたんだ。パーティメンバーにもさ、気を遣われてさ……他のアーケインとかにも八つ当たりして」


────八つ当たりではないだろあれ。お互い悪い気がするが


心の中で少女はつっこんだ。ログナクは続けた。


「俺はCランク止まりさ。もう長い間ランクは上がってない。他のメンバーは上がっているのにさ…………新人に助けられて…………もうここまでなのかもな」


しばらく沈黙が流れる。少女もとくに言うことがなくてただ身体がもう少し回復するのを待った。下手に慰めても男はプライドが傷つくだけだろう。


「知ってるか、パーティを見捨てるのは重罪なんだ。これは告発してもいいし、なんなら俺から言うよ」


その言葉にクラウディは顔を上げた。


────やれやれ


彼女はそろそろ水路の毒は消えたかと立ち上がって向かった。討伐証明の部位を持ち帰らなくてはならない。ログナクもついて来る。


水路は上の方に毒ガスが溜まっていたが、下の方は換気できていたため身を屈めて死骸を探すと同じく耳を切り取った。他の個体に比べて2回り大きい。


「ユニーク個体は特殊な素材も取れるからまたあとで俺がまたやっとくよ。どの宿にいるんだ?素材持っていくから」


ありがたいと宿を教えると、彼は頷いた。


彼らは外に出た。


「ログナク」


ギルドへと向かうCランク冒険者に声をかける。


「今日は助かった。クエスト達成だ」


「っ!……ああ、こちらこそ」







ギルドにはログナクの逃走の件は告発しなかったし、彼も言わなかった。そもそも正式にパーティを組んだわけではないし、逃げるよう言ったのはクラウディだったのだから当然だ。


ギルドへ達成報告し、素材を提出すると辺りがざわついた。


「最近ラッター増えてるとは思ったけどまさかユニーク個体がいるなんてね。あなたたちで倒したの?ボスモンスターだから本来複数人で倒すアレなんだけど」


受け付け嬢のルビアがラッターの討伐証明素材にユニーク個体が混じっているのを見て驚いた。


「いや、それはほとんど新人が────」


「2人で倒した」


ログナクが答えるのを遮るようにクラウディが代わりに答えた。


すげーな────ログナクやるな────快挙じゃねーか────などなどの声がそこかしこから上がる。


「事実だからいいだろ」


怪訝な顔で少女をみつめるログナクに、肩をすくめる。


「クエスト達成おめでとうございます。取り敢えず報酬をお受け取り下さい」


ルビアは報酬の5000ユーンと追加の親個体分の3000ユーンの入った袋を新人へと渡した。



「ユニーク個体は通常よりも評価されます。ランクアップもあり得るので何かあれば後日知らせましょう」


ログナクは周りの冒険者に囲まれて背中を叩かれたりしている。


クラウディはそれを見ると背を向けて外に出た。







クラウディはその日は深夜に湯浴み場で体をキレイにしさっさと寝袋に潜り込んだ。


────まだまだだな


彼女は生命石のマナをケチって最小限の空気を纏っていただけだった。もっと密度を高くしていれば余裕で倒せたはずだった。


生命石は、マナのない少女は自分で補充できないため、もしなくなってしまえばただの石となってしまう。


マナを込めてもらう魔法使いか僧侶が欲しいなと思いながら納屋の床についた。


────パーティか……どうするかな


少女は元男の時も、共闘よりもソロで戦うことが多かった。


────あいつとは上手く連携は取れてたけど……


一瞬、金髪の女性が頭に浮かぶがすぐに消える。頭痛が襲い思い出すのも許されないのかとため息をついた。


少女は寝袋を頭まで被ると────明日は休もう。美味いものが食べたい────など色々考えているうちに眠りに落ちた。







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