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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第198話 束の間の休息







第5階層────


薄暗い洞窟を抜けて鬱蒼とした森に到着する一行。先行する別パーティが1組先に見えた。前回クラウディたちも彼らと同じルートを進んだが、ティリオは別方向へ進み出した。


「モンスターを避けて進めるのか?」


「ああ、統計で全く出ていない道がある。ちょっと獣道になるけど静かについてこいよ」


「だとよ筋肉女。気をつけろよ」


カイザックがアイラを見てニヤリと笑う。


「は?うるせーな!てめーこそ────」


「アイラ、静かにっ!頼むよ人の声とかで寄ってくる奴もいるんだから」


「うっ……すまねぇ」


煽られて思わず大声を出す女戦士にポーターが注意する。お互い知った仲なのもあるのだろう意外にも大人しく従って黙る。


それを確認するとティリオは草むらをかき分けて道なき道を進み出した。


クラウディは仮面を被っているので打ち付ける枝など気にならないが、後ろを歩くアイラはしなった草木に当たって呻いているようだった。


本当に何もいないのか、辺りにはモンスターの気配は感じ取れなかった。


やがて少し下り坂になり、崖に出くわす。ここからどうするのかと思っていると、ティリオが辺りを見回して下に飛び降りた。


「おいっ!」


クラウディが慌てて崖下を覗くとそこはすぐに大木の足場となっており、クラウディたちが6階層に降りた大木の道に合流しているようだった。


崖の下で小さなリーグット族がどうしたのかと見上げていた。


「どしたのクロー?」


止まって動かない先頭にアイラが後ろから覗き込んだ。


「いや、早まったのかと……なんでもない」


少女は彼に倣い下に飛び降りた。が、また滑って転けそうになる。なんとか踏ん張っているとティリオが小さな身体で支えて体勢を整えた。


「随分履き潰した靴だな。新しいの買った方がいいんじゃないか?」


彼は少女の肩を見て荷物を背負い直した。


────確かにな……


履いている靴はヨレヨレで穴が開きそうだった。靴裏もすり減って余計に滑りやすい。インベントリにはまだ新品の予備靴があるので一息したら履き替えるべきだろう。


元男は道具は使えなくなるまで使用する派だったが、流石に替え時だと思った。


他の仲間が6階層へ続く大木の通路に降りてくるとゆっくりと降りて行った。


やがて例のセーフポイントへと到着する。


中は誰もおらず、前回休んだ時のままのようだった。


「どうする?外は夕方ってところだろうし、休んで行ってもいいけど」


ポーターが提案し、クラウディは他の仲間を振り返った。アイラは特に疲れた様子はないが、カイザックが首を回してわざとらしく疲弊をアピールした。


────結構歩いたは歩いたんだよな……


朝の宿から歩いてここまでで20kmは歩いているだろう。しかし少女自身も大して疲れてはない。


「10階層まであとどのくらいだ?」


「…………そうだなぁ」


ティリオは地図を取り出して唸った。


「今日野営したとして、4日……さらに1回野営したとして5日ってところじゃないか?順調に進めばだけど」


すでに3日消費しているので、マティアスとの期日はあと7日。予備日が2日あるなら休んでも問題ないだろう。


クラウディは早めに休むことを決め、仲間にも伝えた。


それを聞くや否や他の2人が前回と同じ部屋を陣取る。


「お前はどうする?アイラのとこに行くか?」


「はっ?!なんでだよ!ここでいいよ!」


少女が荷解きをするリーグットに聞くと慌てたように言った。


「そうか……」


「お前はベッド使えよ。俺は寝袋あるから」


クラウディはチラリとベッドを見た。正直マットも古臭くて硬いので寝袋の方が寝やすい。その旨を伝えると彼は同意するように頷いた。


「俺も潜ってたからわかるけど臭いし、硬いからな。余程じゃないと使わないさ」


「そういえば、潜ってたらしいな。何階までだ?」


「ん〜……結構前だけど、俺はそこまで戦闘はからっきしだったし雇われて6階層までだよ。ある程度稼いでベルフルーシュに店を構えたんだ」


「それで潰れてまた稼ぎにきた、と」


「潰れてない!畳んだの!」


声を荒げて言い直しデリカシーのない奴だなと付け加えるリーグット。


────なんか前もデリカシーないって言われたな……


クラウディは失言だったかと頭を掻いた。


「……飯でも作ろうか?」


「へえ?男なのにお前作れんの?」


「良いものじゃないがな」


少女は魔法のコンロを地面に設置し、インベントリから食材を取り出した。


「インベントリ持ちかよ、稼いでんな。俺もあるけどさ……て、コンロも良いものじゃん」


リーグットが呟く。


────しまった、無警戒だったな


仲間と思うとどうも警戒が緩くなる傾向のあった少女は少し後悔した。しかしそんなことはもう遅いので堂々と調理道具も出していく。


以前干ばつ地帯から『パーバード』という鳥を狩った時の肉が沢山あったので、卵やら玉ねぎみたいなものやら調味料等を用意して料理し始めた。


「おい!飯作るなら私のも作ってくれよ!」


匂いに気づいたのかアイラが部屋から出てくる。すでに酒臭い。


クラウディは全員分のを作るつもりでいたのでそのまま料理に集中した。


鍋で玉ねぎとぶつ切りにした肉を炒めて、作った出汁を入れる。煮えたら卵で閉じて固めた。


俗にいう親子丼である。米がないので『丼』ではないが。


それをパンに挟んで仲間に配った。


「ぐっ……美味い、やば!」


「うめー!さすがクロー!」


2人が絶賛し夢中でかぶりついた。


────米があればもっと良かったんだが……


クラウディは2人をその場に残しカイザックの部屋に向かった。ドアをノックするが返答なく。


勝手に入ると情報屋はベッドに座っており、テーブルに例のチェス盤を置いて何やら考え込んでいた。


「返事くらいしてくれ。ほら、飯。まだ食ってないだろ?」


「へぇ、気が効くな」


近くに行ってようやく顔を上げるとカイザックは食事を受け取った。一口食べて驚いたような表情をする。


「初めて食べる味だ……なんて料理だ?」


「親子ど……親子サンド」


パンなのでそう命名すると、彼はニヤリと笑った。


「はっ、鳥と卵で親子か……皮肉が効いてるな。気に入った」


彼は一旦パンを置きインベントリからグラスやらを取り出した。


その間少女も飯を持ってきていたのでベッドに座ってかじる。


────親子丼だな……親子丼パン


少ししてカイザックが何か飲むかと尋ね、少女は以前飲んだジュースを頼んだ。


「他のも作ってやる、酒じゃないから安心しろ」


そう言って液体を混ぜに混ぜ、緑の透き通った飲み物をテーブルに置く。一口飲むと元男の世界にあった気の抜けたメロンソーダのような味がした。


ただメロンソーダよりも薄く、やや酸味が強い。


「さて、そろそろこいつを教えろ」


彼はテーブルの端にやったチェス盤を指差した。綺麗に盤上に駒が並べられてある。勘で配置したのだろう、お互いの王とクイーンが逆列に並び、ナイトとビショップが逆だ。


それ以外は合っており流石がゲーマーといったところだ。


「盤上の戦争ゲームと言ったな?おそらくターン制で駒を動かしていくんだろうが……。こいつは1マスってところか?」


カイザックが予想を言いながらポーンのコマを摘んだ。


「そいつは『ポーン』。歩兵だな。最初の動きだけ2マス動けてあとは1マスずつ進める。ただ駒を取る時は必ず斜めにある駒に移動して取る」


「なんだそれ、なぜ斜め?」


「それはわからない。面白いのはポーンが相手の陣地の最奥まで行くとキング以外の駒に成ることが出来る」


「……ほぉ~」


クラウディがチェスの駒の動き方やルールについての説明に熱心に聞き入る姿は見ていて面白いものがある。


イタズラ好きで好き勝手やる男の真剣に聞く姿勢が少し滑稽だった。


ランタンの明かりに照らされたまじめな顔つきを見て目が合うと一瞬少女の心臓が跳ねる。


「…………?」


「どうした?キャスリングとはなんだ?」


「あ、いや。キャスリングというのはキングとルークの位置を交換する手で────」


説明をしているとクラウディがいた部屋からティリオの不満声とアイラの笑い声がした。仲良くやっているらしい。


そろそろ戻ろうかと思っていたのだが、この様子だとまだ後でも良いだろう。


少女はカイザックが早速チェスをやりたがったので相手をした。


最も、彼が昨日言っていた通り数時間も相手をするハメになったのだが。

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