第197話 ティリオと他の2人②
第3階層────
ティリオはベルフルーシュに行く前にはアーベルでダンジョンに潜っていたこともあり、ある程度ダンジョン内の地理には明るいようだった。
「すげーなティリオ……モンスターにも遭遇してないじゃん」
アイラが驚いた声を上げながら後ろを何度も振り返る。雇ったポーターは地図も開かず迷わずに4階層への階段前まで来たのだ。モンスターに1度も遭遇せずにだ。
しかも結構な、自身の体躯より大きな荷物を背負っているのに足並みもきちんと揃えていて全く乱れていない。
「半日で9階層までのマップを頭に叩き込んできたからな。モンスターの出現統計も見せてもらったし」
「へぇーよくわからんけどすげーな!」
アイラに褒められ気恥ずかしそうにベレー帽を目深に被るリーグット。
────ここまでとは
「こんなに楽ならポーターが空くまで待ってれば良かったな……」
「お前が望めば俺がポーター役をやっても良かったがな」
クラウディが呟くとカイザックがタバコをふかしながら言う。少女は驚いて彼を睨んだ。
「え……早く言えよ」
「早く聞けよ」
情報屋は流石にダンジョン内の地形までは把握してないだろうと決めつけていたので当然聞くという選択肢はなく。
────こいつはどこまで出来るんだ?
後衛も出来れば近接もある程度こなせるし、モンスターの情報も多彩。情報屋とはこいうものなのだろうかと底知れなさに首を傾げた。
「俺のことが知りたければベッドの中でゆっくり教えてやろうか?」
悶々とする様子を察したのか彼はニヤリと笑い少女の肩を抱いた。
「お前な……」
「あ!てめー!こらカイザックこら!口説いてんじゃねーよ!!」
2人の様子に気づいたアイラが飛んできて2人の間に割り込み、節操の無い男を押し退けた。
「え、口説く?は?」
困惑したようにティリオが少女とカイザックを交互にみる。側から見たら男が男を口説くように見えるのだから当然だろう。
クラウディは小さなリーグット族に、気にするなと言い先へ進むよう促した。
一行は階段を降り第4階層まで降りた。石壁から土と岩の洞窟へと降り立つ。
「ここもモンスターは避けれるか?」
「いや、5階層は避けれるけど、ここは最低でも1回はエンカウントすると思う」
ポーターが言い、少し入り組んだ道を進んでいくと彼のいう通りにゴブリンの群れと遭遇した。
数は3匹。ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンメイジの1匹ずつだ。
いち早く気配に気づいていたクラウディは素早く剣を抜き最後列に位置する、まだ詠唱も出来てないメイジの喉を掻き切った。
遅れてアイラがホブゴブリンの頭を叩き潰し、カイザックが矢でゴブリンを射殺す。
「すげっ……」
あまりの早い討伐に口を開けたまま驚く小人。と、突然仮面の冒険者が剣を投げてきたので驚いて目を瞑った。
顔のすぐ横で何かの悲鳴が聞こえ、続けて倒れる音がする。目を開けると喉に剣の刺さったゴブリンが痙攣して倒れていた。
ティリオのすぐ側まで敵が迫ってきていたのだ。
「気をつけろ、暗がりから出てくるぞ」
「あ、ああ助かったよ」
クラウディがゴブリンから剣を抜くと血が滴り、それを見たリーグットは少し身震いした。
「……どうした?先に進むぞ」
「お、おう」
「なにビビってんのか?」
少し怖気付いた様子のリーグットにアイラが肩に腕を回した。
「な!違う!ちょっと驚いただけだって!」
彼は手を振り払うと荷物を背負い直して大股で先を進んだ。ニヤニヤと笑う戦士が後を追う。
その後はモンスターと遭遇せずに5階層への通路へ到着する。
「お前らは第6階層まで行ったんだっけ?」
「ああ、大きな森で地図もなかったから引き返したんだ」
ポーターに聞かれてクラウディが返答する。彼はじゃあ説明とかも要らないよなと確認すると下へと降りて行った。
途中セーフポイントがあるが特に誰も疲弊していないため寄らずに進んだ。




