第196話 ティリオと他の2人①
次の日の昼前、クラウディとアイラは身支度するとポーター斡旋所へ向かった。
「あれ、ダンジョンじゃねーの?」
「ポーターを雇えたからな、迎えにいく」
別にいらねーのにと呟くアイラは頭の後ろで手を組んだ。第6階層に降った時に明らかに迷子になるのは目に見えていたのだ。最悪地図を買って進んでも良かったが、スムーズに進めたいのならポーターはいるはず。
斡旋所に入ると例の受け付けの少年がすぐに気づいて手を上げた。
「例のポーターは?」
「そこに待機してるよ、お互い詳しい取引とかはもう済ませたって聞いたから……まあ気をつけて帰ってこいよー」
「手間をかけさせたな」
「ま、これからも贔屓にしてくれな」
カウンターから少し離れた所に大荷物を持ったリーグット族がテーブルに着いており、気づくと手を振った。
昨日はてっきり彼をその場ですぐに雇えると思っていたのだが、雇用の再登録やらしなければならず。
その必要があるのか問うと、どうやら斡旋所のサービスを受けたいとの事で────詳しくはわからない────1日経ってしまったのだ。
「あれ?!おい、ティリオじゃねーか?!」
アイラはさも興味なさそうにしていたが、テーブルにいるのが誰かわかると驚きの声を上げた。駆け寄って肩に腕を回す。
「おいー!どうしたんだよ!!何でここにいるんだ?!」
「いきなりだな!やめろ!!」
彼は力強い腕に苦しみ、助けを求めるようにアイラの仲間に視線を送った。
────やれやれ……
「へー!じゃあ一緒に来てくれんの?てゆーかこんなとこにいるとはビックリだぜ!もしかして追ってきたのか?」
ティリオがアーベルに来た経緯を聞くとアイラは彼の脇腹をつついた。
「追ってくるわけねーだろ!偶然だよ偶然!」
「またまたー寂しかったんじゃねーの?姉さんに言ってみ?正直に」
「子供扱いすんなよ!お前より年上だぞ!」
アイラより頭1つ半ほど小さいリーグットの言葉には説得力がないなと歩く2人を後ろから眺めるクラウディ。
女戦士に会って心なしかティリオは嬉しそうに見える。
なんだかんだアイラは彼の雑貨屋にちょくちょく寄っていたようで、いきなりいなくなって寂しさもあったのではないだろうか。
3人はダンジョンの前まで来るとそのまま入り口の階段へと向かった。
いないと思ったが、階段近くの柱の裏にカイザックが背をもたれて待っていた。荷物もきちんと用意しているようだ。
少女が彼に声をかけると小さな小人を見て片眉を上げた。
ティリオについて説明するとじっと見つめる。
「リーグット族ね。使えるのかこいつ」
「なっ!失礼なやつだな!自分の名前くらい言えよ!」
クラウディはいきなり険悪になりそうだと判断して、間に入ってお互いについて説明した。
「カイザックね、了解。こいつも言ってたけど俺はティリオだ。今回ガイドポーターを務めるけど、案内の指示には従ってくれよ」
『指示』というワードに何か思うことがあったのか呟くとカイザックは視線を合わせて目をぎらつかせた。少女が慌てて情報屋を離し暗がりへ連れていく。
「おい、相手は一応プロなんだから適当に合わせてやってくれ。得意だろ?」
アイラについても適当に流してるじゃないかと付け加える。
────いや……流せてない時もあるが
「……まあ貸しと言うことなら合わせてやらんでもない」
────上から目線……
彼の物言いに少しイラついたが、それで従ってくれるなら願ったり叶ったりだと頷き、仲間のところへ戻る。
「カイザックだ。ま、道案内しっかり頼むぜ」
リーグットは一瞬顔が引き攣ったが特に何も言わず、先頭へ来ると進む事を告げ、階段を降りて行った。他3人もそれに続いて行く。
何も起こらなければ良いが。




