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アストロ・ノーツ────異世界転生?女になって弱くなってるんだが……  作者: oleocan
第10章 アーベル地下ダンジョン編
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第195話 チェス盤







クラウディが宿に帰る頃には夕方になっており、部屋にはちゃんとカイザックがベッドに座って待っていた。


アイラも目が覚めたみたいでテーブルについて酒を飲んでいるところだった。既に瓶1本空になって2本目に入っている。


お互いかなり離れているが喧嘩をしていたわけではないようだ。


ちなみにスライムは変身が解けて床をウロウロと迷子のように這っており、少しして少女の方へ方向転換した。


少女がスライムを拾って瓶にしまうとアイラと視線が合い、彼女は苦笑いした。


「悪りぃ、飛んじゃってたわ……」


「体調は……大丈夫そうだな、よかった」


クラウディが心配していた事を伝えるときょとんとするアイラ。


「怒んねーの?」


「……なぜ?」


「いや、勝手やったし……色々カイザックにも言われたし」


────何を言ったんだ


クラウディがカイザックを見つめると彼は肩をすくめた。


女戦士は自分が好き勝手やってしまった事を悔やんでいるようだが、少女は特に言うことはなかった。フロアボスを倒すことはできたし、それに下手に注意して機嫌を損ねたら今後一緒に来てくれないかもしれない。


「よく分からないが、まあ結果オーライってことで」


クラウディが何ともないというふうに言い、荷物を置いてテーブルに座るとアイラは笑った。


「は、はは、そうだよな!だってよカイザックこら!てめーは帰れ!」


甘いやつだなと呟くカイザックはやれやれと首を振った。やがて立ち上がってクラウディの側まで来て一瞥し、ため息をつく。


「……一旦休みをもらうぞ。俺も疲れた」


「一旦?待て、明日も潜るぞ」


「おいおい、俺の行動は俺が決める。そういう約束だが?」


「うっ……」


「それとも────」


彼はテーブルに手をつくとクラウディの顔を覗き込んだ。仮面越しに視線が合う。


「お前が相手してくれるなら別にいいんだが?」


「っ……」


妖艶な顔に少女がたじろいでいると2人の間に女戦士の手が割って入った。


「私の前で堂々とクローを口説いてんじゃねーよ!」


「ちっ、空気を読まない奴だ」


興醒めだと背中を伸ばすとカイザックはポケットに手を突っ込みドアに向かった。


────まずいな、こいつしばらく消えるぞ……


慌てたクラウディはそういえばとインベントリを探ってとあるものを出した。


「ん?何これ」


「カイザック」


アイラが興味津々に見るが、構わず呼んでそれを広げ、バラバラとテーブルに置いた。カイザックはチラリと見て出ようとしたが、素早く二度見した。


「……へぇ、なんだそれは」


戻ってきてそのうちの一つを手に取る。黒色の丸や円錐の形が組み合わさった小さなものだ。他にも色んな種類のモノがある。


「これはチェスという将棋────あー、2人で対戦する盤上の戦争ゲームだ」


『戦争ゲーム』というワードに情報屋の目がギラリと光る。


そう、クラウディはエルフの森の滞在中に木材装飾についての知識を少し齧り、道具も貰ったのでチェスを小柄なエルフのリリウィスと共に作っていたのだ。


「どうだ?明日の夜にでも早速やらないか?もちろんダンジョン内でな」


少女はキングの駒を指で弄びながら彼を観察した。じっくりと駒や盤を見て僅かに震えているのが見える。


────よし、食いついたな


少女は持ち運べるようコンパクトにする為に、盤の裏を空洞にしていたのでひっくり返して駒を収納すると、長方形の箱になったチェス盤をカイザックに渡した。


「明日朝には、ダンジョン階段前に集合な」


「……よく分かってるな、まあいいだろう。眠れなくなっても知らんぞ」


彼はチェス盤を受け取ると肩をすくめ、インベントリにしまった。何となく嬉しそうである。


「だが、昼前な」


そしてクラウディを指差し時間変更を告げるとそのまま出ていく。


彼の気配が消えると息を吐くクラウディ。何とかまたどこかに消える事は止めることはできたようだ。


「なあ」


それまで黙っていたアイラが声を上げる。


「ん?」


「カイザックだけずりーよ!」


「何が?」


「何がじゃねーよ!私にもなんか作ってくれよ!」


「えぇ……」


遊び道具を見て羨ましくなったのか女戦士が口を尖らせた。しかし彼女にはああいった頭を使うものは似つかわしくないように感じる。


────流石にもう1セットはだるいぞ……


「私もクローから手作りのモノが欲しーいー!」


アイラは立ち上がるとクラウディの首に腕を回した。力強く締め上げる。


「ぐぎぎっ!ちょ、アイ、ら!?」


「作ってくれよ!何でもいいから!」


少女はギブアップと腕をタップするがさらに締め上げられる。


「わ、わか……た、から……はな、せ」


「本当か!」


少女から言質がとれるとすぐさま腕を離す。


解放されたクラウディはテーブルに突っ伏し激しく咳き込んだ。


────すごい狂気を感じた……


「な、何がいいんだ?」


落ち着くと仮面を外して口元拭いながら聞く。アイラは締め上げた事を全く悪びれる様子がない。


「何でもいいよ!あ、でもお守りみたいな縁起のいいモノが良いな!」


────なんか適当に出店で買うか……


「言っとくけど手作りじゃないと……殴る」


「………………了解」


珍しく勘のいい女戦士の言葉と拳に手作りしようと決めた少女であった。

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